【2026年度診療報酬改定・各論⑤】病院の将来性——機能分化が加速する時代に、経営層と医療従事者がそれぞれ問われること

「将来設計」「1年後・5年後・10年後」の文字と双眼鏡のイラスト

2026年度診療報酬改定は、本体改定率+3.09%という近年でも突出した高い数字が示されました。

これは単なる点数の見直しにとどまりません。

賃上げ、ICT・AI導入、多職種協働、在宅医療——

このシリーズで取り上げてきたテーマはいずれも、「限られた人員でいかに医療を継続するか」という共通の課題に向き合うものでした。

そして本改定が、最も構造的な変化をもたらすのが「病院の機能分化」です。

「新たな地域医療構想」でも、2028年度を目途に自院が地域のなかでどの機能を担うのかを明確にすることが求められています。

そうした流れを踏まえ、この記事では、経営層・管理職にとっては「自院が地域でどのポジションを築くのか」、また、医療従事者にとっては「この変化のなかでキャリアをどう自律的に形成するか」という2つの視点から整理します。

さらに、記事の最後で、厚生労働省の資料をもとに作成した『新たな地域医療構想 早わかりガイド』を無料提供しています。

なお、本記事の内容を含め、医療・介護系サイト「ジョブメドレー」を運営するメドレー社から取材を受けました。以下のリンクから記事が閲覧できますので、併せてお読みください。

▶ 取材記事:「【2026年度診療報酬改定】給料や仕事内容、働き方はどう変わる?現場の疑問に専門家が回答」(ジョブメドレー)

目次

今回の改定が突きつけた「機能分化」の現実

デスクの上のメモ帳に「役割」と書かれたイラスト

「病院単位」での評価へ——急性期病院A・Bの新設

これまで急性期医療の評価は、「病棟・病床単位」の患者割合を基準としてきました。

しかし本改定では、「病院全体の急性期機能」に着目した「急性期病院一般入院基本料(A・B)」が新設されました。

この2つには、以下のような年間の実績要件が課されます。

  • 急性期病院A(いわゆる「7対1」相当)
    救急搬送2,000件かつ全身麻酔手術1,200件
  • 急性期病院B(いわゆる「10対1」相当)
    ①~④のうちいずれか
    ①救急搬送1,500件
    ②救急搬送500件かつ全身麻酔手術500件
    ③人口20万人未満地域の最大救急搬送病院(救急搬送1,000件以上)
    ④離島地域の最大救急搬送病院

この要件を満たせない病院は、従来の「急性期一般入院料1〜6」の枠組みにとどまることになります。

しかし、今後の改定でその位置づけがどう変化するのか、注視する必要があるでしょう。

さらに、2028年度改定以降はDPC標準病院群1を急性期A・Bの届け出を行う医療機関とすることが念頭に置かれており、急性期機能を維持するうえで実績の積み上げが一層重要になります。

令和8年度診療報酬改定資料・急性期における評価の見直し
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について(全体概要版)」P28

引用:令和8年度診療報酬改定の概要【全体概要版】

逆紹介基準の厳格化——外来機能の役割分担も強制へ

入院だけでなく、外来における機能分化も本改定で大きく進みました。

特定機能病院など大病院の逆紹介割合基準が、従来の「30‰未満」から「50‰未満」へと引き上げられました。この基準を満たせない場合、初診料・外来診療料が減算されます。

日経メディカルが報じた国立大学病院長会議会長のコメントによると、この見直しにより国立42大学病院で年間合計18億円の減収となる試算もあり、大病院にとって対応が避けられない内容となっています。

引用:大病院とかかりつけ医の連携を促す改定、逆紹介を増やす動きも:日経メディカル

また本改定では、過去1年間に同じ大病院で12回以上再診している患者も、減算の対象に新たに加わりました。

「状態が安定した患者はかかりつけ医へ」という方向性が、制度的に強制力を持つ段階に入ったと言えるでしょう。

令和8年度診療報酬改定資料・初診料及び外来診療料における紹介・逆紹介割合に基づく減算規定の見直し
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について(全体概要版)」P74

その一方で、診療所・クリニック側には「特定機能病院等紹介患者受入加算(60点)」が新設され、大病院からの逆紹介を受け入れることが評価される仕組みが整いました。

大病院と診療所の間の患者の流れを、より意図的に設計しようとする改定の意図が読み取れます。

令和8年度診療報酬改定資料・特定機能病院等とかかりつけ医機能を担う医療機関との連携の推進
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について(全体概要版)」P75

引用:令和8年度診療報酬改定の概要【全体概要版】

2028年度を目標とした「自院の機能決定」

こうした改定の動きと並行して進んでいるのが、「新たな地域医療構想」の策定です。

厚生労働省の資料によると、遅くとも2028年度までに以下のいずれを担うのか、全病院が決定・明確化することが求められています。

高齢者救急・地域急性期機能

「高齢者をはじめとした救急搬送を受け入れるとともに、必要に応じて専門病院や施設等と協力・連携しながら、入院早期からのリハビリ・退院調整等を行い、早期の退院につなげ、退院後のリハビリ等の提供を確保する。」

在宅医療等連携機能

「地域での在宅医療の実施、他の医療機関や介護施設、訪問看護、訪問介護等と連携した24時間の対応や入院対応を行う。」

急性期拠点機能

「地域での持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行う。」

専門等機能

「上記の機能にあてはまらない、集中的なリハビリテーション、高齢者等の中長期にわたる入院医療機能、有床診療所の担う地域に根ざした診療機能、一部の診療科に特化し地域ニーズに応じた診療を行う。」

構想区域の設定単位は人口20万人以上を基本とし、急性期拠点機能病院は人口20〜30万人に1か所を目安としています。

今回の2026年度改定は、この地域医療構想を「後押しするもの」と位置づけられています。急性期病院A・Bの実績要件や逆紹介基準の厳格化は、各医療機関が地域のなかで担う機能を明確にしていくための、制度的な圧力として機能しています。

2018年度改定から続いてきた機能分化の流れは、2026年度を経て「議論から実行」の段階へと移りました。

経営層にとっても、医療従事者にとっても、「自分の組織がこの流れのなかでどこに向かうのか」を把握しておくことが、これまで以上に重要になっています。

厚生労働省「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて」・医療機関機能について
厚生労働省「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて」(令和7年度医療政策研修会・資料6)P30
厚生労働省「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて」・急性期拠点機能に係る議論の進め方(案)
厚生労働省「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて」(令和7年度医療政策研修会・資料6)P31
厚生労働省「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて」・医療機関機能の確保について
厚生労働省「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて」(令和7年度医療政策研修会・資料6)P32

引用:厚生労働省「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて」(令和7年度医療政策研修会・資料6)

経営層・管理職が考えるべき「自院のポジション」

ブロックに「VISION」と書かれた文字と虫眼鏡のイラスト

ケアミックス型病院に求める「さらなる変革」

自院が地域のなかでどの機能を担うのか。その明確化が求められているのが、2年後の「2028年度」です。

判断を先送りできる時間は、極めて限られています。

私が働いていた東京都内の中規模病院は、かつては急性期医療に特化していました。同じ医療圏には大学病院を始めとした大規模ブランド病院がひしめき合うなか、急性期の患者だけではおよそベッドが埋まらない状況が続いていました。

議論のうえ、6つあった急性期病棟の1つを2014年度診療報酬改定で新設されて間もない地域包括ケア病棟に転換し、「急性期5病棟+地ケア1病棟」のケアミックス型病院に移行しました。

病床稼働率の向上や地域内での立ち位置の明確化など、諸々の条件を考えた末のことでしたが、ケアミックス型への移行は季節変動や医師の入・退職の際にも比較的患者数の影響を受けずに済むなど、経営の安定化につながった側面もありました。

しかし、このような経緯で生まれた多くのケアミックス型病院に対して、さらなる変革を求めているのが、今回の改定だと言えます。

機能転換の判断を先送りにするリスク

長く診療報酬改定に携わってきた立場から言うと、経営が厳しくなる医療機関に共通しているのは、制度の変化に対応できず、従来の立ち位置に固執し続ける点だと考えています。

「急性期の看板を下ろす」という判断は、医療機関のブランドやプライドに大きく関わります。関係大学医局からの医師派遣の面でも支障が出かねないほど、極めて大きな問題であることに違いはありません。

ただ、決断の遅れがその後の選択肢を狭めるリスクがあることは、過去の改定の経緯が示しているとおりです。

病棟再編の具体的な収益試算は、自院の患者データや施設基準の状況によって大きく異なるため、医療経営の専門家と連携しながら検討することが現実的です。

参考までに、日経メディカルが報じた事例では、約150床のケアミックス病院において、病棟編成のパターンによって月間収益に最大1,600万円を超える差が生じることが示されています。

引用:診療報酬改定で病棟再編に動く急性期病院(後編):日経メディカル

地域の人口動態や医療資源の多寡、そして自院のポジションを検討するうえで欠かせないのが日本医師会が運営するJMAP(地域医療情報システム)です。以下の記事で紹介していますので、是非ご確認ください。

「地域のなかの機能」を言語化できているか

新たな地域医療構想では、各病院が前述した4つの機能のうちいずれを担うのか、地域の協議のなかで決定していくことが想定されています。

重要なのは、この判断が経営層の内部にとどまらず、職員全体に伝わっているかどうかです。

「自院が2040年に向けて、どの機能を担う施設として地域に根差していけるか」

これを経営層が自分の言葉で語れているかどうかが、組織の方向性と職員の納得感に直結します。

方向性が見えない組織では、職員は目の前の業務をこなすことに終始せざるを得ません。

一方、自院の役割が明確な組織では、ICT導入やタスクシフトといった変化に対しても、「何のためにやるのか」という文脈のなかで受け止められやすくなります。

機能が変われば、人材・業務体制も変わる

機能転換は、制度の届け出を変えるだけでは完結しません。求められる人材像や日常の業務フローも、機能に応じて変えていかなければなりません。

たとえば地域包括ケアの機能を担う場合、在宅・介護施設との連携対応、患者・家族への退院支援、多職種でのケアプラン調整といった業務の比重が増えます。

急性期機能を維持する場合は、救急・手術体制の継続的な強化と、実績要件を安定して満たすための人員配置が求められます。

機能分化への対応は、制度面の整理と並行して、本改定シリーズ記事で取り上げてきた「人材育成・ICT活用・タスクシフト」の取り組みを一体で進める必要があり、本記事(各論⑤)の論点である「病院の将来性」と切り離せない関係にあります。

経営層から医療従事者に至るまで、自院の将来性を考えるうえで、以下の点を確認しておくことをお勧めします。

自院の将来性を考えるためのチェックリスト
  • 経営層・管理職が、新たな地域医療構想を理解しているか
  • 2040年を見据えて、自院が地域のなかで担う機能を明確にしているか
  • 紹介・逆紹介、在宅連携、救急受け入れの実績があるか
  • DX・ICT・タスクシフトへの具体的な投資があるか
  • 賃上げや人材育成を単発ではなく継続施策として実施しているか
  • 職員間・職種間のコミュニケーションを重視し、心理的安全性が確保されているか

医療従事者が考えるべき「キャリアの自律」

5人のフィギアと「キャリア形成」と吹き出す文字のイラスト

勤務先の機能転換は、自分の業務を変える

2028年度までに求められている機能の決定は、経営層だけの問題ではなく、そこで働く医療従事者一人ひとりのキャリアにも直接関わる問題と言えるでしょう。

勤務先が急性期から地域包括ケア型に転換すれば、業務の重心は「処置・手術への対応」から「退院支援・在宅連携・生活を支えるケア」へと移ります。

在宅医療では、今改定で同一建物への頻回訪問モデルへの評価が厳格化された一方、「重症者対応・24時間体制・ICTを活用した多職種連携」を実践する事業所への評価が手厚くなりました。

つまり、「訪問件数をこなす」スタイルから、自律的な判断力とコミュニケーション能力が問われるスタイルへのシフトが、診療報酬の制度として明確になっています。

機能転換の波は、自分が意図しないかたちで訪れることもあります。だからこそ、特定の職場・病棟の業務に依存したスキルだけでなく、どの機能・組織に移っても活かせる専門性を意識的に育てておくことが、これからの時代には重要です。

「質重視」の評価軸を明確化した在宅医療・訪問看護における本改定への対応について、以下の各論記事④で解説しています。

以下の記事では、医療従事者に必要とされるコミュニケーション能力の高め方について解説しています。

本改定が示す「求められる人材像」

今回の改定全体を通じて見えてくるのは、国が医療従事者に求める人材像の変化です。

ICT・AIの活用が「推奨」から「制度的な裏付けを持つ仕組み」へと格上げされたことは、ICTを使いこなせる人材とそうでない人材の間の差が、今後の評価や配置に影響してくることを意味します。

「看護・多職種協働加算」の新設は、自職種の専門性を発揮しながら他職種と連携できる人材への需要が高まっていることを示しています。

こうした流れを踏まえると、今後のキャリア形成において意識しておきたい軸として、次のようなものが挙げられます。

経営視点を持てること

自分の業務がどのような診療報酬に紐づき、組織の経営にどう貢献しているかを理解できる人材は、機能転換や制度変化の局面でも主体的に動くことができます。

多職種連携の調整ができること

自職種の専門性を軸にしながら、他職種の役割を尊重し、チーム全体でケアの質を高めていける人材は、どの機能の組織でも必要とされます。

ICTを業務改善のツールとして使いこなせること

ツールの操作スキルだけでなく、業務フローの改善や情報共有の効率化に活かせる視点が求められています。

これらは特定の職種に限った話ではなく、医師・看護師・コメディカル・事務職を問わず、医療現場で働くすべての人に共通する視点です。

医療業界においても、今後のキャリア形成において有利になるのは、「エンプロイアビリティ」(雇用されうる能力)を常に意識している人材だと考えます。

本改定で新設された「看護・多職種協働加算」の運用ポイントとコミュニケーション設計について、以下の各論記事③で解説しています。

ICTの組織的活用による配置基準緩和も本改定のポイントのひとつとして挙げられます。以下の各論記事②にて、業務フロー再設計の実務について解説しています。

「組織の将来性」と「自分のキャリア」を切り離して考える

医療従事者が勤務先の将来性を見極めようとするとき、「この病院は生き残れるか」という問題と「自分はここでキャリアを積めるか」という問題は、必ずしも一致するとは限りません。

もし、今あなたが働いている組織が機能転換を進めていたとしても、今の自分のスキルを活かせる場所かどうかはわかりません。

逆に、制度対応が後手に回っている組織であっても、自分の専門性を磨く機会が豊富な場合もあります。

ただ、長期的に見ると、組織の方向性と自分のキャリアの方向性が大きくずれたまま働き続けることは、双方にとって持続可能だとは言えないと考えます。

前掲したチェックポイントは、職場選びや転職の判断においても参考になりますが、それ以上に「今の職場で自分は何を積み上げているか」を定期的に問い直す習慣が、「キャリアの自律」につながります。

インフレが進み、賃金・処遇への関心が高まるなかでも、多くの医療従事者が「誰かの役に立ちたい」という動機で働いていることには変わりません。

適切な処遇と、専門性を発揮できる環境の両方が整ったとき、その動機はより持続的なものになります。本改定は、その環境を整えるための制度的な後押しと位置づけできるでしょう。

本改定の対応で最重要視されるのが、拡充されるベースアップ評価料を活かした賃上げです。以下の各論記事①にて院内対応の実務について解説しています。

以下の記事では、キャリア形成を考える際に必ず押さえておくべき「キャリアアンカー」「キャリアドリフト」について整理しています。

まとめ

ブロックで「まとめ」と書かれたイラスト

2026年度診療報酬改定が医療関係者に突きつけた問いは、とてもシンプルです。

「あなたの組織は、2040年に向けて地域のなかで何を担う施設として残るのか」

——そして「あなたは医療従事者として、その変化のなかで何を積み上げていくのか」

「賃上げ」「ICT活用」「多職種協働」「在宅医療」「病院の将来性」——

このシリーズで取り上げてきた5つの論点は、いずれもこの問いに対する答えを出していく過程で避けては通れないテーマです。

制度を整えるだけでは、現場は変わりません。

  • 経営層が自院の役割を再定義し、
  • 医療従事者が自分のキャリアを自律的に考える——

この両輪が揃って初めて、診療報酬改定の意図が組織の隅々まで届きます。

新たな地域医療構想のもと、機能分化の流れは今後の改定のたびに、さらに強まることが予想されます。

その圧力を「外から来るもの」として受け身に構えるのではなく、自院・自分のキャリアを見直す契機として捉えられるかどうかが、これからの医療現場における組織と個人の分岐点になるのではないかと考えます。

最後に、厚生労働省の資料をもとに『新たな地域医療構想 早わかりガイド』を作成しました。

  • 新たな地域医療構想の概要
  • 機能分化の仕組み
  • いつまでに何をすべきかのタイムライン など
「新たな地域医療構想 早わかりガイド」概要・機能分化の仕組み・いつまでに何をすべきかのタイムライン

以下のボタンから資料(A4・5枚)を無料でダウンロードできます。「自院のポジション」を考えるうえでの一助になれば幸いです。

以下は、先ほど挙げた2026年度改定における5つの重要ポイントを解説した総論記事です。併せてご参考ください。

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この記事を書いた人

吉澤 宏行のアバター 吉澤 宏行 社会保険労務士・医療機関専門コンサルタント

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士・国家資格キャリアコンサルタント・ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)として、医療機関の労務と人材課題に専門的に携わっています。
医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。

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