皆さんの職場では、「1 on 1ミーティング」を取り入れてますか?
人材育成や離職防止の観点から、1 on 1を導入している企業が増えてきているようです。
その背景にあるのは、少子高齢化による人手不足であり、それによる売り手市場や労働市場の流動化への対応が挙げられます。
どの企業も、社員の定着に頭を悩ませている状況です。
特に医療機関では、スタッフの定着は組織の大きな課題となっているのではないでしょうか。
今回は、1 on 1ミーティングの特徴や、医療機関が導入する際の具体的な手順等についてみていきたいと思います。
1 on 1ミーティングとは
「1 on 1ミーティング」とは、組織における人材育成の仕組みで、上司と部下が定期的に1対1で対話を行うことを言います。
上司が部下の意見を傾聴し、部下の思いをくみ上げて、モチベーションを向上させ、成長へと導きます。
元々は、企業同士の競争が激しい、アメリカのシリコンバレーから生まれた人材育成の手法となります。
「1 on 1」と「目標管理制度」の特徴を比較する
医療機関は、労働集約型の職場と言えます。医療機関にとって人材の定着は、運営上の大きな課題となります。
そうしたなかで、目標管理や評価制度などを導入し、スタッフの士気を高め、人材確保を図る医療機関も少なくないと思います。
ただ、今回のテーマである1 on 1は、目標管理制度の面談とは趣旨が異なります。それぞれの特徴をみていきたいと思います。
目標管理制度の特徴
目標管理制度は、組織目標に紐づいた個人目標を管理するための人事施策となります。上司が面談を主導します。
目標管理制度の特徴
①趣旨
組織目標ありきの個人目標管理で人材育成
②会話の方向性
上司から部下
③面談の内容
業務の進捗、目標達成度の評価、来期の目標設定
④面談の頻度
年1~2回
1 on 1の特徴
1 on 1は、個人を成長へ導くための支援が趣旨となります。面談の主役は部下で、上司は聞き役に回ります。
1 on 1の特徴
①趣旨
個人への動機付けで成長支援
②会話の方向性
部下から上司
③面談の内容
業務上の悩み、キャリア形成、プライベートのことなど
④面談の頻度
週1~月1回
1 on 1導入のメリットと注意点
ここでは、1 on 1を導入するメリットと注意点をみていきたいと思います。
1 on 1導入のメリット
はじめに、1 on 1導入のメリットを挙げていきたいと思います。
1 on 1導入のメリット
①定期的な会話の機会を持つことで、上司と部下との間で信頼関係ができる
②相談しやすい雰囲気ができ、業務上の不安が解消され、働きやすい職場環境になる
③キャリア形成上の支援が得られ、個人のモチベーションが上がり、人材定着につながる
④会話をとおして離職の可能性をいち早く察知できる
⑤組織内でのコミュニケーションが活性化し、組織の強化が図れる
⑥聞き役になる上司の、支援者としての能力が上がる
上司と部下のコミュニケーションが密になるため、働きやすい雰囲気が作れます。個々のモチベーションが上がり、離職防止や、組織活性化が図れます。
また、ハラスメントを未然に防ぐ副次的な効果も出てきます。
1 on 1は、部下が主役となりますが、当然、上司側にも支援スキルやマネジメントスキルの向上が期待できます。
1 on 1導入の注意点
次に、1 on 1を導入する際の注意点を挙げていきたいと思います。
1 on 1導入上の注意点
①上司も部下も相当の時間が取られる。(特に上司側)
②かけた時間や労力に対する効果の判断が難しい。
③マンネリ化で会話の質が低下し、システムが形骸化する可能性がある。
1 on 1を導入すると、上司側は面談の時間もさることながら、スケジュール調整に時間を取られることになるでしょう。
上司側は、現場のマネジメントもしながら、部下の育成も考え、当然自分の業務もこなして、管理職としての実績を上げなければなりません。
上司側には、1 on 1における会話の技術習得や自身のメンタル維持、タイムマネジメントの負担がかかる仕組みになります。
1 on 1導入の際には、効果測定の手法も同時に検討する必要がありそうです。何らかの指標がない限り、1 on 1の実施自体が目的化されてしまい、取り組み自体が形骸化する可能性があります。
どうしてそこまでしないといけないのか?
前項では1 on 1導入の注意点についてみてきましたが、どうしてそこまでして、スタッフひとりひとりに対応しないといけないのでしょうか。
その理由として、いまの若い世代に共通した傾向から、以下の点が挙げられそうです。
①組織内での昇進より、自身の成長やキャリアアップを望んでいる
②業務上のミスを恐れ、強く指導されるのが苦手
③上司や先輩に聞きづらいという思いを抱えている
現在の労働環境や若い世代の傾向を考えると、1 on 1の導入は、キャリア形成の支援や業務上の不安を解消し得る、若い世代のマネジメントに適した仕組みなのかも知れません。
1 on 1導入までの考え方と手順
それでは、医療機関が1 on 1を導入する場合、どのようなことを考えればいいでしょうか。ここでは、具体的な導入手順について考えていきたいと思います。
医療機関における1 on 1導入手順
①1 on 1導入を院内で議論し、決定
②1 on 1導入について各所属長に説明し、全職員に周知
③所属長以上向けの1 on 1制度研修
④ミドル層以下向けの1 on 1制度研修
⑤1 on 1制度運用開始
⑥順次階層を下げて実施
⑦実施状況を各所属長から管理者層へフィードバック
①1 on 1導入を院内で議論し、決定
管理者層での会議で、1 on 1制度の導入について議論し、導入を決定します。導入の目的が「人材の育成と定着」にあることを共通認識とします。
②1 on 1導入について各所属長に説明し、全職員に周知
1 on 1制度の導入の目的が「人材の育成と定着」にあることを、各所属長に説明して理解を得ます。
それと併せて、制度を定着させるための仕組みづくりを院内で議論します。制度定着の仕組みが決まったら、全職員に周知します。
③所属長以上向けの1 on 1制度研修
外部講師を招聘して、所属長以上向けの1 on 1制度研修を行います。それと併せて、ミドル層以下向け制度研修の講師の選任も行います。
④ミドル層以下向けの1 on 1制度研修
ミドル層以下向けの1 on 1制度研修を実施します。所属長以上向け制度研修受講者から選任された講師が担当します。
⑤1 on 1制度運用開始
1 on 1制度の運用を開始します。院長と副院長、など管理者層から順次始めると定着しやすいかも知れません。トップ層は、診療や管理業務があると思いますので、一般職より頻度を下げて、互いの近況報告程度でいいと思います。
⑥順次階層を下げて実施
看護部長と看護師長、検査技師長と検査主任など、順次階層を下げて実施していきます。
⑦実施状況を各所属長から管理者層へフィードバック
1 on 1導入により、各所属長の負担が増大しますので、管理者層は、随時フィードバックを各所属長から受けながら、スタッフ育成の効果が出ているか検証する必要があります。
コミュニケーションが何より重要
一般企業も医療機関も、組織強化や人材育成など、組織運営の全てにおいて、コミュニケーションが何より重要となります。1 on 1は、その基本となるコミュニケーションを活性化する施策と言えます。
1 on 1を取り入れることで、上下間の信頼関係を構築し、職場の風通しを良くして、若い世代にも働きやすい職場環境をつくることができます。
まとめ
特に医療機関は、人材あっての職場です。人材確保が安定しないと組織が揺らぎ、地域医療に影響を及ぼします。
医療機関の働きやすい職場づくりが、患者の安心、地域の安心につながります。
今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。