少子高齢化の進展により、社会は人手不足に陥っています。世代間で生じる価値観の違いから、若い世代の人材流出を防ぐために、多くの事業者は、働きやすい職場づくりを模索しています。
売り手市場が続き、人手不足のさらなる進展に対応するには、いまある職場環境を若い世代に開かれた職場へと変革することが課題になります。
以前より人手不足を抱える医療機関においては、なおさら重要な課題でもあります。
今回は、医療機関が若い世代にも選ばれるための具体的方策について、考えていきたいと思います。
若い世代に開かれた職場がもたらす効果
人手不足を抱える医療機関の課題は、若い世代に開かれた職場への変革です。
若い世代でもいきいきと働ける、働きがいのある職場環境をつくることができれば、新卒採用では多くの候補者のなかから優秀な人材を獲得することができます。
また、好意的な口コミが増えることによって、中途採用での補充もしやすくなります。
働きがいのある職場環境では、人材確保が進むとともに、スタッフの士気が上がり、若い世代からベテランまで、バランスの取れた活気のある職場になります。
若い世代の特徴を知る
いまの若い世代は、「Z世代」とも言われています。1990年代中盤から2010年頃までに生まれた世代がZ世代にあたります。
若い世代に選ばれるためには、いまの若い世代の特徴を知る必要があります。以下のとおり簡単にその特徴を挙げたいと思います。
デジタルネイティブ
大きな特徴として挙げられるのが、デジタルネイティブの世代ということです。生まれたときにはインターネットや携帯電話が発達していて、物心ついたときから手元でSNSでやり取りをしていた世代です。
情報発信能力が高いため、社会への影響力が強いと言われています。
タイムパフォーマンス重視
若い世代は、物心ついた頃には手元にスマホがありますので、常に周りの友達とラインなどでショートメッセージのやり取りをしています。
文字でリアルタイムにコミュニケーションを取るのに慣れており、スピードや効率性を重視するのが特徴のひとつだと言われています。
価値観の多様性を重視
若い世代の価値観として、自分が価値を感じるものには時間やお金をかけるのを惜しまない、というものがあります。
また、インターネットを介して、国籍を問わず、多様な思考を持つ他者も受け入れながら、情報共有を図ることもできます。
自律的で柔軟な働き方を志向
他の世代と比べると、ワークライフバランスを重視したり、所属組織内の昇進より自己のキャリア形成を志向する人が多いことが挙げられます。
自分を高められるかどうかを重視しているため、所属組織に固執せず、転職していく柔軟性も持ち合わせる傾向があると言えます。
売り手市場の現状を認識する
現在、売り手市場と言われていますが、過去と比べてどの程度人手不足が進んでいるのでしょうか。
有効求人倍率の推移を確認
ここでは、1985年以降10年単位で有効求人倍率の推移を確認したいと思います。
有効求人倍率の推移(1985年以降10年単位)
1985年 0.68
1995年 0.63
2005年 0.95
2015年 1.20
2023年 1.31
直近の約40年間を10年単位でみると、就職氷河期と言われた1995年の0.63に対し、2023年が1.31となり、有効求人倍率で大きな開きが確認できます。
資料の数字からも、過去と比較して、いまは売り手市場だということがわかります。
この先も売り手市場は続きそう
少子高齢化のさらなる進展によって、この先も人手不足は続くと思われます。
人手不足はZ世代のその先の世代にも続いていくと言ってもいいと思います。
どの事業者も、若い世代に選ばれる職場にならないと生き残りが難しくなると言えます。
労働集約型産業と言われる医療機関は、人が最大の経営資源と言えます。
人手不足は以前からありましたが、今後の少子高齢化の進展で、人手不足に拍車がかかる可能性があります。
医療機関が実践したい具体的な方策
売り手市場が続く状況において、医療機関は何を考えなければいけないでしょうか。具体的な方策について考えていきたいと思います。
医療機関が若い世代に選ばれるための具体的方策
①トップから一般層まで意識改革
②働き方改革の完了
③中堅以下への権限移譲
④入職後のキャリアパス確立
⑤研修制度確立
⑥ワークライフバランス重視の柔軟な雇用形態整備
⑦後にも先にもコミュニケーションを密にとる
①トップから一般層まで意識改革
医療の世界には、各職種ごとに独特な階層構造があります。特定の分野を極める姿勢など、職人気質の良い部分は残す必要があります。
一方、自分たちが育ってきた環境を若い世代にも当てはめようとしても、受け入れてもらえない可能性があります。
若い世代を歓迎し、共に学んでいくという姿勢へと、意識を変革する必要があります。
もし若い世代に選ばれる医療機関を目指すのであれば、多様な考え方を迎え入れる必要があります。それには、皆が働きがいを感じる職場へ変革するという、トップからの強いメッセージが必要です。
②働き方改革の完了
2024年度から医師の働き方改革がスタートしました。その他の職種の働き方改革は、2019年度から実施していると思います。
医療の現場では、人手不足により日々の交代制勤務を組むのにも苦労していると思います。
ただ、働き方改革を完了して、法令遵守を掲げることは、若い世代にも選ばれる大前提になると思います。
③中堅以下への権限移譲
医療機関では、所属長に権限と業務が集中する傾向があります。
なるべく早い段階から中堅以下の層に権限移譲を図り、若い世代への能力開発やコミュニケーションを図るための余力を作ることが重要です。
権限移譲を図ることは、中堅以下のスタッフのキャリア形成にも有効で、全体的なレベルの底上げにつながります。
④入職後のキャリアパス確立
各職種においてキャリアパスを確立することは、短期・中長期的目標が明確になるため、モチベーションの維持・向上につながります。
どの時期までに自分が何をすべきか具体的にイメージでき、イメージした目標達成を積み重ね、成功体験を重ねていくことで、自己効力感が高まります。
⑤研修制度確立
同じ職種の有資格者のなかでも、当然、経験年数で知識や技術の差が出てきます。
全体のスキル向上を図るためにも、自院で研修制度を確立できれば、採用活動でのPRにもなります。
⑥ワークライフバランス重視の柔軟な雇用形態整備
医療従事者は、他の業種に比べて変則的な働き方になり、休みが取りづらいのが現状だと思います。
連続で休みを取得できる制度や、休みを取りやすい職場の雰囲気を作ることができれば、若い世代にアピールすることができると思います。
雇用形態については、フルタイム勤務とパートタイム勤務のあいだを埋めるような雇用形態を設けることが理想です。そうすれば、採用の間口が広がり、柔軟な働き方に対応することができます。
⑦後にも先にもコミュニケーションを密にとる
今後もベテランスタッフの再雇用が進み、今後も職場の平均年齢は上がっていくと思います。そのなかで、若い世代が入りやすい雰囲気を職場全体で作ることが大事になります。
そのためには、既存の価値観を他者に求めず、他者を尊重した柔軟な気持ちを持つことが大事です。
日々の声掛けと併せて、少なくなりつつあるレクリエーションなどを復活させて、交流を深めるのもいいかも知れません。
レクリエーションをとおして職場のコミュニケーションを促進できれば、世代間の理解も深まり、長く働ける職場として感じてもらえるかも知れません。
変化に対応できたものだけが生き残れる
人手不足や売り手市場の状況は、今後もなかなか変わらないと思います。医療機関はこの現実に目を向けて、変化に対応できたものだけが生き残れるという覚悟が必要かもしれません。
将来的には、多くの外国人労働者を受け入れていく可能性があります。そうしたときに、さらに柔軟な考え方をもつことや、多様性を認める職場であることが必要になると思います。
そのためには、トップから全職員へ、意識の変革を求める強いメッセージを継続して発信していくことが不可欠だと思います。
まとめ
今回は、若い世代に選ばれるための具体的方策について考えていきました。そのなかで、柔軟性や多様性、お互いを認め、尊重する気持ちが何より重要であることをお伝えしました。
ただそれは、若い世代のためだけではなく、全世代に共通することだと言えます。
ベテランから若手スタッフまでいきいきと、長く働ける医療機関が増えれば、安心して暮らせる地域づくりにつながると思います。
今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです