売り手市場でもZ世代が定着する医療機関になるための具体的方策とは

ノートパソコンの画面を見て談笑する4人の医療従事者

少子高齢化の進展により、社会は人手不足に陥っています。

世代間で生じる価値観の違いから、若い世代の人材流出を防ぐために、多くの事業者は働きやすい職場づくりを模索しています。

売り手市場が続き、人手不足のさらなる進展に対応するには、いまある職場環境を若い世代に開かれた職場へと変革することが課題になります。

なかでも、以前から人手不足を抱える医療機関においては、より重要な課題と言えるでしょう。

今回は、医療機関が若い世代に選ばれる職場になるための具体的方策について考えていきたいと思います。

目次

なぜ若い世代は職場から離れていくのか

若い世代の退職理由で多いのが、精神的な理由です。

なぜ、若い世代は精神的な理由で職場を後にするのでしょうか。ここでは、いま医療機関が直面している現状と課題について考えていきたいと思います。

医療機関に突き付けられた課題

人手不足を抱える医療機関に突き付けられた課題。それは、若い世代に開かれた職場への変革です。

理由は、少子高齢化の進展による若年労働者の減少と、雇用の流動化の進展にあります。今後の人口動態を考えると、若い労働力が減っていくのは言うまでもありません。

労働集約型産業と言われる医療業界において、今後、人手の確保は最大の経営課題とも言えます。いかに職場としての魅力を伝え、多くの若い世代を迎え入れ、人的資源として活用していけるか。

医療機関は今まさに、生き残っていくうえで避けて通ることができない難題を突き付けられているのです。

世代間ギャップが邪魔をしている

翻って今の医療現場を見てみると、まだ若い世代に開かれていると自信を持って言える職場は、決して多くはないのが現実ではないでしょうか。

それはなぜか。

いま医療現場を管理する立場の中心にいるのは、「仕事は見て学ぶ」的な要素が今より強かった世代だと思います。筆者もその世代のひとりです。

しかしその指導法は、今の20代から30代の世代には通用しません。今の20代から30代の世代を指導したり、一緒に働いていくときに大切な考え方は、「相手を認める」ことであり、「ともに学ぶ」ことです。

できているところに目を向けて、認めてあげられているでしょうか?

できてないところばかりに目を向けて、指摘ばかりしてはいないでしょうか?

自分たちが通ってきた環境とのギャップを指導者側がなかなか受け入れづらい感覚がいまだ拭えていないというのが、若い世代が職場から離れていく大きな理由のひとつと考えます。

ともに働く人たちの意識を変えない限り、若い世代の力を活かし、組織力を高めていくことは非常に困難と言えるでしょう。

以下の記事では、内発的動機付けによるスタッフの離職防止策について解説していますので、是非ご参考ください。

若い世代に開かれた職場がもたらす4つの効果

若い世代に開かれた職場は、組織に多くの効果をもたらします。ここでは、効果を4つに絞って説明したいと思います。

効果①:新規採用に有利

若い世代でもいきいきと働ける、働きがいのある職場環境をつくることができれば、新卒の応募者が集まりやすくなります。

そのため、新卒採用試験において、多くの候補者のなかから自院に合った優秀な人材を獲得することができます

効果②:欠員後の補充に有利

もし現場スタッフで急な離職者が出た場合、若い世代が働きやすいと感じる職場では、好意的な口コミが増えることによって複数の中途採用による応募者が期待できます。

つまり、急な欠員にも時間をかけずに補充でき、現場への影響も最小限に抑えることができます。

効果③:職場に活気をもたらす

若い世代を迎い入れ、認める雰囲気を持つ職場環境では、若手人材の確保が進むとともに、スタッフの士気向上が期待でき、職場に活気をもたらします。

効果④:組織力の強化

新規採用から欠員補充まで優秀な人材が獲得でき、スタッフの士気の高い状態を維持できれば、若い世代からベテランまでバランスの取れた組織力の強い職場になります

若い世代の特徴を知る

いまの若い世代は、「Z世代」とも言われています。

Z世代とは、1990年代中盤から2010年頃までに生まれた世代を言います。

Z世代を含め、若い世代に選ばれる医療機関になるためには、まず、いまの若い世代の特徴を知ることから始める必要がありそうです。

以下のとおり、簡単に今の若い世代の特徴を挙げたいと思います。

  • デジタルネイティブ
  • タイムパフォーマンス重視
  • 価値観の多様性を重視
  • 自律的で柔軟な働き方を志向

以下、個別にみていきたいと思います。

特徴➊:デジタルネイティブ

大きな特徴として挙げられるのが、デジタルネイティブの世代ということです。生まれたときにはインターネットや携帯電話が発達していて、物心ついたときから手元でSNSでやり取りをしていた世代です。

Z世代は情報発信能力が高いため、社会への影響力が強いと言われています。

特徴➋:タイムパフォーマンス重視

Z世代は、物心ついた頃には手元にスマホがありますので、常に周りの友達とラインなどでショートメッセージのやり取りをして育っています。

文字でリアルタイムにコミュニケーションを取るのに慣れており、スピードや効率性を重視するのが特徴のひとつだと言われています。

特徴➌:価値観の多様性を重視

Z世代など若い世代の価値観として、自分が価値を感じるものには時間やお金をかけるのを惜しまない、というものがあります。

また、インターネットを介して、国籍を問わず、多様な思考を持つ他者も受け入れながら情報共有を図ることも得意としています。

特徴❹:自律的で柔軟な働き方を志向

Z世代は他の世代と比べると、ワークライフバランスを重視したり、所属組織内の昇進より自己のキャリア形成を志向する人が多いことが挙げられます。

つまり、自分を高められるかどうかを重視しているため、所属組織に固執せず、同業他社や異業種に転職していく柔軟性も持ち合わせる傾向があると言えます。

売り手市場の現状を認識する

少子高齢化の進展で、現在の就職戦線は売り手市場にあり、様々な職場で人手不足が叫ばれています。

それでは、過去と比べ、いまどの程度人手不足が進んでいるのでしょうか。

ここでは、全業種における有効求人倍率の推移や、医療職種における直近の有効求人倍率の状況を確認したいと思います。

有効求人倍率の推移を確認

始めに、1985年以降の有効求人倍率を10年単位で推移を確認したいと思います。

有効求人倍率とは、全国のハローワークにおける求人や求職の状況を示す数値で、以下の式で算出されます。

有効求人倍率=有効求人数÷有効求職者数

上の式からわかるとおり、有効求人倍率は、仕事を探している1人に対して、何社が求人募集をかけているかを示しています。

つまり、有効求人倍率が1倍を上回る場合、仕事を探している人数より募集をかけている会社の数の方が多いため、売り手市場であることを示しています。

直近の約40年間の全業種における有効求人倍率と新規求人倍率を、10年単位でまとめた表が以下になります。

有効求人倍率新規求人倍率
1985年0.680.97
1995年0.631.07
2005年0.951.47
2015年1.201.81
2023年1.312.29
2024年1.252.25
有効求人倍率の推移(1985年以降10年単位)
※季節調整値

上の資料で有効求人倍率の推移を見ると、就職氷河期と言われた1995年が0.63倍で最も低くなっているのがわかります。1995年は、仕事を探している1人に対して、応募先が1倍を割り込み0.63しかありませんでした。つまり買い手市場を示しています。

一方、直近の有効求人倍率のピークは2023年で1.31倍もあり、売り手市場の目安となる1倍を上回っています。2024年に若干下がって1.25倍になったものの、やはり現在も売り手市場にあることが確認できます。

新規求人倍率の推移を見ても、有効求人倍率の動きとほぼ同様のことが言えます。

参考:
図1 完全失業率、有効求人倍率|早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)

医療職種の有効求人倍率

次に、医療職種における有効求人倍率の直近の状況を確認したいと思います。

職種ごとに以下の表にまとめましたのでご覧ください。

2022年度2023年度
医師,歯科医師,獣医師,薬剤師2.042.18
保健師,助産師,看護師2.141.99
医療技術者3.043.06
その他の保健医療従事者1.771.88
社会福祉専門職業従事者3.002.79
保健医療サービス職業従事者(看護助手等)3.113.24
事務従事者(全業種)0.440.45
医療職種別・有効求人倍率
※実数

上の資料を見ると、2023年度の有効求人倍率で最も数値が高いのが「保健医療サービス職業従事者(看護助手等)」で3.24倍、最も低いのが「事務従事者(全業種)」で0.45倍となっています。

前の項で説明したとおり、全業種の有効求人倍率の直近のピークが2023年で1.31倍でした。この数値と比較して医療職種の数値の高さが上の資料からご覧いただけると思います。

2023年度に3倍を超えている職種は、「医療技術者」と「保健医療サービス職業従事者(看護助手等)」の2つありました。

つまり、仕事を探している1人の医療技術者または看護助手に対して、3つ以上の医療機関が募集をかけて取り合っていることを示しています。すでに各医療現場でもお感じのとおり、特にこの2つの職種については、人材獲得が非常に困難な状況であることが客観的にお分かりいただけたかと思います。

また、人材獲得に苦労する職種の代表格、看護職については、2022年度が2.14倍、2023年度が1.99倍となっています。直近の数値は若干下がっているものの、依然として看護職も売り手市場にあることがわかります。

引用:一般職業紹介状況(職業安定業務統計) 一般職業紹介状況 長期時系列表 21 職業別労働市場関係指標(実数)(平成21年改定)(令和4年4月~) | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

この先も売り手市場は続いていく

前掲の資料を見ても、少子高齢化のさらなる進展が重なり、この先人手不足は続くと思われます。

そして人手不足の状況は、Z世代のその先の世代にも続いていくと言っても過言ではありません。そのため、どの事業者も、若い世代に選ばれる職場にならないと生き残りが難しくなると考えます。

特に労働集約型産業と言われる医療機関にとっては、人が最大の経営資源です。いかに若い世代に選ばれ、人材獲得につなげ長期雇用につないでいけるるかが、今後、医療機関が生き残っていくうえでの重要な課題であると言えます。

医療機関が実践したい具体的な方策

売り手市場が続く状況において、医療機関はどのように考えていくべきなのでしょうか。具体的な方策について考えていきたいと思います。

医療機関が若い世代に選ばれるための具体的方策
  • トップから一般層まで意識改革
  • 働き方改革の完了
  • 中堅以下への権限移譲
  • 入職後のキャリアパス確立
  • 研修制度確立
  • ワークライフバランス重視の柔軟な雇用形態整備
  • 心理的安全性の確保

方策➊:トップから一般層まで意識改革

もし若い世代に選ばれる医療機関を目指すのであれば、多様な考え方を迎え入れる必要があります。それには、皆が働きがいを感じる職場へ変革するという、トップからの強いメッセージが重要です。

医療の世界には、各職種ごとに独特な階層構造があります。特定の分野を極める姿勢など、職人気質の良い部分は残す必要があります。

しかし、自分たちが育ってきた環境や姿勢を同じように若い世代に当てはめようとしても、受け入れてもらえない可能性が高いでしょう。

トップから一般層まで、「若い世代を歓迎し、共に学んでいく」という姿勢に意識を変革する必要があります。

医療スタッフの働きがいを高める方策について、以下の記事でも取り上げていますので、併せてお読みいただければと思います。

方策➋:働き方改革の完了

第2の方策は、働き方改革の完了です。

働き方改革を完了して、法令遵守を自院の経営指針に掲げることは、若い世代に選ばれる職場の大前提になると考えます。

なぜなら、前に紹介したとおり、若い世代は「タイムパフォーマンスを重視」し、「自律的で柔軟な働き方を志向」するからです。

2024年度から医師の働き方改革がスタートしました。医師以外の職種の働き方改革は、2019年度から実施していると思います。

医療の現場では、人手不足により日々の交代制勤務を組むのにも苦労していると思いますが、若い世代にも選ばれる職場の大前提として、働き方改革の完了が急務と言えるでしょう。

医師の働き方改革に関して、以下の記事で詳しく解説していますので是非ご参考ください。

方策➌:中堅以下への権限移譲

医療機関では、所属長に権限と業務が集中する傾向があります。

そのため、なるべく早期に中堅以下の層に権限移譲を図り、若い世代への能力開発やコミュニケーションを図るための所属長自身の余力を確保することが重要です。

中堅以下への権限移譲は、全体的な業務レベルの底上げにつながるとともに、若手人材個々のキャリア志向を後押しすることができ、若手の長期的な雇用につながるメリットもあります。

なお、若い世代の人材開発について、以下の記事でも取り上げていますので是非ご参考ください。

方策❹:入職後のキャリアパス確立

第4の方策は、入職後のキャリアパスの確立です。

各職種においてキャリアパスを確立することは、短期・中長期的目標が明確になるため、モチベーションの維持・向上につながります

どの時期までに自分が何をすべきか具体的にイメージでき、イメージした目標達成を積み重ね、成功体験を重ねていくことで、自己効力感が高まります。

キャリア形成に関する記事は以下から参照することができますので、よろしければご一読ください。

方策❺:研修制度確立

第5の方策は、研修制度の確立です。

同じ職種の有資格者のなかでも、経験年数によって知識や技術の差が出てくるのは当然です。

自院で研修制度を確立し、若い世代でも安全に、かつ安心して医療サービスを提供できる環境づくりを進めることができれば、仕事で生じる過度なストレスを避けることができるようになります。

さらに、研修制度の充実は、新規採用や第二新卒など若手人材の採用活動で大きなPR要素にもなるとともに、就業後のモチベーションの維持・向上につながり、スタッフの定着に寄与すると考えます。

方策❻:ワークライフバランス重視の柔軟な雇用形態整備

第6の方策は、柔軟な雇用形態の整備です。

医療従事者は交代制勤務があるため、他の職種に比べて変則的な働き方になり、休みが取りづらくなる傾向にあります。

そのため、ワークライフバランスを重視して、連続で休みを取得できる制度や、休みを取りやすい職場の雰囲気を作ることができれば、若い世代にアピールすることができます。

雇用形態については、フルタイム勤務とパートタイム勤務のあいだを埋めるような雇用形態を設けることが理想です。そうすれば、採用の間口が広がり、求職者が求める柔軟な働き方にも対応することができるようになるでしょう。

方策❼:心理的安全性の確保

最後の方策は、心理的安全性の確保です。

今後、ベテランスタッフの再雇用が進み、職場の平均年齢はさらに上がっていくものと考えられます。そのなかで、若い世代が入りやすい雰囲気を職場全体で作っていくことが大事になります。

そのためには、「既存の価値観を他者に求めず、他者を尊重した柔軟な気持ちを持つこと」が重要です。

スタッフへの日々の声掛けや1on1などと併せて、少なくなりつつあるレクリエーションなどを復活させて、スタッフ同士の交流を深めるのもいいでしょう。

レクリエーションをとおして職場のコミュニケーションを促進できれば、若い世代からベテラン世代まで、世代間の理解も深まって、長く働いていたい職場に感じてもらえるかも知れません。

心理的安全性の確保の仕方や、1on1によるコミュニケーション活性化の方法について、以下の記事で取り上げています。よろしければご参考ください。

変化に対応できたものだけが生き残れる

若い世代から選ばれる医療機関になるために、前の項で7つの方策を提案しました。

筆者がこの中で一番難しいと考えるのは、「方策➊:トップから一般層まで意識改革」です。

人手不足や売り手市場の状況は、今後もなかなか変わらないと思います。医療機関はこの現実に目を向けて、変化に対応できたものだけが生き残れるという覚悟で事業を進める必要があるでしょう。

将来的には、多くの外国人労働者を受け入れていく可能性があります。そうしたときに、さらに柔軟な考え方をもつことや、多様性を認める職場であることが何より重要になると考えます。

そのためには、トップから全職員へ、意識の変革を求める強いメッセージを継続して発信していくことが不可欠になります。

まとめ

今回は、医療機関が若い世代に選ばれる職場になるための具体的方策について考えてきました。

そのなかで、柔軟性や多様性、お互いを認め、尊重する気持ちが何より重要であることをお伝えしました。

しかし、多様性を認め互いを尊重する気持ちは、若い世代のためだけではなく、全世代に共通して必要なことだと言えるでしょう。

ベテランから若手スタッフまでが、いきいきと長く働ける医療機関が増えれば、私たちが安心して暮らせる地域づくりにつながると思います。

今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、健康経営アドバイザー、ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関や医療従事者の方々へのお役立ち情報を発信しています。今後ともよろしくお願いします。

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