心理的安全性とは?正しく理解して医療現場を働きやすい職場に


この何年かで一般企業を中心に、「心理的安全性」という言葉を聞くようになりました。

心理的安全性が高い職場と聞いてイメージするのは、誰でも意見が言いやすく、皆がのびのび仕事ができている職場を思い浮かべます。

ただ、この心理的安全性を誤った解釈で取り入れてしまうと、いわゆる「ぬるい職場」になりかねません。

今回は、心理的安全性の意義や重要性を共有し、医療現場において働きやすい職場環境をつくるための方策について考えたいと思います。

目次

心理的安全性とは?

心理的安全性の定義

心理的安全性とは、「対人関係のリスクをとっても安全であると思うこと」と定義されています。

日本人の多くは、問題点に直面しても対人関係の摩擦を恐れ、問題点の指摘や改善の提案を避ける傾向があると思います。

心理的安全性が高い職場においては、問題点の発見とそれに対する改善が進みやすいため、学びの機会が得られ、生産性が高まると言われています。

ハーバード大学のエドモンドソン氏が研究を発展

心理的安全性に関する研究を発展させたのは、ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・C・エドモンドソン氏と言われています。

職場のパフォーマンス向上の要因は、従来、職場環境や賃金制度などのハード面が注目されていました。

それに対しエドモンドソン氏は、職場の対人関係などのソフト面が職場のパフォーマンス向上の要因になると提言しました。

医療過誤の調査から心理的安全性の重要性に気づく

そもそもエドモンドソン氏が心理的安全性の重要性に気づいたのは、病院における医療過誤の頻度の調査を行ったときと言われています。

その時の調査では、「インシデントの報告数」と「チームの開かれた雰囲気」に相関性があることが分かりました。つまり、優れたチームほど、積極的にインシデント報告を上げ、チーム内で情報共有を図り、改善に向けた議論を行っていることがわかったのです。

Google社の「プロジェクト・アリストテレス」で脚光

心理的安全性の考え方は日本の企業にも広く取り入れられています。そのきっかけになったのが、グーグル社が行った「プロジェクト・アリストテレス」という調査でした。

この調査は、効果的な職場の条件を探ることを目的に、2012年から4年にもわたり200弱の職場を対象に行われた一大プロジェクトと言われています。

Google社が示す”効果的な職場で重要度が高い5つの要因”

このプロジェクトの分析結果から、効果的な職場において特に重要度の高い条件として示されたのが、心理的安全性を含む以下の5つの要因でした。

効果的なチームとして特に重要度が高い5つの要因

心理的安全性
対人関係のリスクをとっても安全と思えること

相互信頼
メンバー同士が信頼し合っていること

構造と明確化
チームの目標達成に向けたプロセスが設計されていて役割が明確であること

仕事の意味
メンバーが仕事に目的意識を感じること

影響度
自分の仕事に重要性を感じていること

医療従事者にとっての心理的安全性の重要性

医療現場こそ、心理的安全性の確保は極めて重要な課題となります。

医療現場では、医師を中心に看護師やコメディカルなどの多職種が、性別、経験年数など様々な属性の人間が集まって一人の患者の治療を進めます。

心理的安全性が確保されていない医療現場で考えられるのは、例えば、明らかに誤った医師の診療上の指示に対して、周りの医療スタッフは疑問に思っていても誰も意見が言えず、治療が進められるリスクがあります。

前述したインシデント報告の例からも、心理的安全性の重要性に気づかされると思います。

職場の心理的安全性をチェック!

ここでは、職場の心理的安全性を確認するためのチェックリストを紹介したいと思います。

以下のリストで、心理的安全性が高い職場か、低い職場かを別々にチェックすることができます。管理職だけではなく、スタッフ全員がチェックを行うことが望ましいでしょう。

立場や個人によって回答が異なると思いますので、回答者同士で話し合いを持つことができれば、職場改善の一歩となるかも知れません。

伊達洋駆著「60分でわかる!心理的安全性超入門」より引用

心理的安全性が高い職場

以下の項目に当てはまるものが多いと、心理的安全性が高い職場と言えます。

心理的安全性が高い職場

☐ 職場では問題点を提起できる
☐ 職場では、メンバー同士で故意に努力を損ねることはしない
☐ 自分の能力は職場で適切に評価され、活用されていると感じる

心理的安全性が低い職場

以下の項目に当てはまるものが多いと、心理的安全性が低い職場と言えます。

心理的安全性の低い職場

☐ 職場では、失敗したら悪く思われる
☐ 職場において、異質なメンバーが拒絶されることがある
☐ 職場では、他のメンバーに助けを求めにくい

心理的安全性の向上がもたらす4つの効果

心理的安全性の向上が、職場にどのような効果をもたらすか。以下のことが考えられると思います。

心理的安全性の向上がもたらす4つの効果

①心理的安全性向上による医療ミスの減少
②医療チームのパフォーマンス向上
③医療従事者のストレス低減と離職率低下
④改善が行われやすい組織文化の醸成

①心理的安全性向上による医療ミスの減少

医療安全の分野では、インシデントから多くの学びを得ていると思います。心理的安全性が高く、インシデント報告がしやすい職場であれば、その部署に限らず院内全体で情報共有が進み、改善活動が行われることで、どのスタッフも同様のミスを犯す可能性が低下します。

②医療チームのパフォーマンス向上

同じチームや部署のメンバーが気兼ねなく話せることで、新しいアイデアが生まれやすく、チームのパフォーマンス向上に期待ができます。

③医療従事者のストレス低減と離職率低下

否定される心配が減りますので、業務上のストレスが軽減され、いきいきと業務に励むことができます。チーム内のコミュニケーションが活性化され、メンバー同士の信頼関係が醸成されます。医療機関でも近年多くみられるメンタル不全での休職者の減少や、経営課題でもある離職率の低下が期待できます。

④改善が行われやすい組織文化の醸成

自分の声組織の改善に活かされれば、それが自信に繋がりまた次の改善行動につながります。個人の意見が職場改善に活かされることを組織全体が認識するようになれば、改善が行われやすい組織文化の醸成につながります。

成功事例に学ぶ心理的安全性向上の取り組み

2023年7月21日の日経ヘルスケアon the webにて、心理的安全性の取り組みについて掲載されていましたので紹介したいと思います。

ここでは、「あなたの職場の「心理的安全性」は高い?」というテーマで、香川医療生活協同組合・高松平和病院を例に、心理的安全性の活用について取り上げています。

心理的安全性を高める職場づくり」の取組事例
(事例病院)香川医療生活協同組合・高松平和病院(高松市、123床)

●同院では、2020~2021年に人間関係のもつれなどから複数の職員の退職が相次いだ

●この問題に対応するために、「気兼ねなく意見を出せる職場の雰囲気作り」に着手

●2022年度病院目標に「情報発信と情報共有・心理的安全性の構築」という言葉を入れ、浸透を図る

●全職員250人を対象に、チェックリストを使って心理的安全性の現状を把握

●取組の効果は「インシデント・アクシデントレポート」が職員に定着したこと
2021年度600件→2022年度700件に提出数増加
医師からの提出ほぼゼロ約9%医師からの提案

●コロナ対応時には、部署の垣根を越えて助け合い、職場では感謝の言葉が飛び交った

あなたの職場の「心理的安全性」は高い?:日経メディカル (nikkeibp.co.jp)

心理的安全性を取り入れる際の注意点

緊張感のない「ぬるま湯組織」になる可能性

心理的安全性の考え方を職場に取り入れると、失敗を恐れずに仕事に打ち込めるプラス面はあるものの、反対に仕事に対する緊張感がなくなりモチベーション低下を招く可能性があります。

そうした「ぬるま湯組織」になってしまわないためにも、導入前と導入後にアンケートを取るなどして、施策の評価を行うことが大事になります。また、定期面談等をとおしてスタッフの生の意見を吸い上げることも大事です。

年齢にばらつきがある職場とは相性が悪い

職場内で年齢のばらつきがあると、派閥が形成されやすくなり、派閥同士の対立から心理的安全性の確保が難しくなる側面が考えられます。

そもそも年齢にばらつきがあるということは、言い換えれば多様性があるということになります。組織にとっての多様性は、生産性向上につながる肯定的な側面として捉えられています。

こうした職場で心理的安全性を高めていくには、多様性の意義や重要性について管理者から繰り返し発信し、職場に浸透させていくことが重要になります。

まとめ

ここまで、心理的安全性の本当の意味やその重要性を共有し、医療現場において働きやすい職場環境をつくるための方策についてみてきました。

患者の命を預かる医療機関において、心理的安全性を高めることは、医療安全上はもちろんのこと、組織のパフォーマンス、スタッフのストレス管理や離職防止、また組織文化の醸成にも好影響を与えることがわかりました。

正しい理解のもとに、この心理的安全性を職場に浸透させていくことが、今後スタッフからも選ばれる医療機関になるための条件になるのかも知れません。

今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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