増え続ける医療従事者の精神障害と看護師が抱えるストレス事情

コロナ禍では、新型感染症の最前線で治療に向かう医療従事者に称賛の声が上がりました。

その一方で、日常業務や生活において強いストレスに疲弊した医療従事者のバーンアウト(燃え尽き症候群)が問題視されました。

コロナ禍に限らず、医療従事者は人の命に係わる仕事を日常としています。一般の職場よりも緊張度を高く保つ必要があるため、日常のストレス状態からメンタル不調に陥る人も少なくありません。

今回は、看護師を中心に医療従事者が抱えるストレスの現状とその理由について、資料をもとに考えていきたいと思います。

目次

労災請求件数からみる精神障害の実情

実際、職場におけるメンタル不調者がどれくらい増えているのか。厚生労働省が公表している「過労死等の労災補償状況」をもとに、現状を確認していきたいと思います。

令和5年度「過労死等の労災補償状況」を公表します|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

精神障害労災請求件数は一貫して増加

まず始めに、精神障害の労災請求件数の推移について表にまとめましたので、共有します。

請求件数
(全業種)
うち自殺請求件数
(医療、福祉)
医療、福祉割合
2019年度2,06020242620.7%
2020年度2,05115548823.8%
2021年度2,34617157724.6%
2022年度2,68318362423.3%
2023年度3,57521288724.8%
精神障害労災請求件数推移
(厚生労働省・「過労死等の労災補償状況」を参考に筆者作成)

直近5年でみると、請求件数は「全業種」も「医療、福祉」も共に一貫して増加していることがわかります。

医療、福祉」の割合をみると、2019年度の20.7%から増加傾向が続き、2023年度に至っては24.8%となり、全体の4分の1まで割合が増えています

精神障害請求件数の多い業種とは?

次に、2023年度における精神障害の労災請求件数の多い業種について表にまとめました。

業種(大分類)業種(中分類)請求件数割合
1位医療、福祉社会保険・社会福祉・介護事業49413.8%
2位医療、福祉医療業39010.9%
3位運輸業、郵便業道路貨物運送業1524.3%
4位サービス業(他に分類されないもの)その他の事業サービス業1343.7%
5位卸売業、小売業その他の小売業1113.1%
2023年度精神障害請求件数の多い業種
(厚生労働省・「過労死等の労災補償状況」を参考に筆者作成)

全業種の中で、最も多いのが「社会保険・社会福祉・介護事業」の494件、次に「医療業」が続き390件となります。

この資料をみても医療、福祉」が他業種に比べて著しく多いことがわかります

精神障害請求件数の多い職種とは?

さらに、2023年度における精神障害の労災請求件数の多い職種について表にまとめました。

職種(大分類)職種(中分類)請求件数割合
1位事務従事者一般事務従事者58216.3%
2位専門的・技術的職業従事者保健師,助産師,看護師2246.3%
3位サービス職業従事者介護サービス職業従事者2246.3%
4位販売従事者商品販売従事者1825.1%
5位専門的・技術的職業従事者社会福祉専門職業従事者1674.7%
2023年度精神障害請求件数の多い職種
(厚生労働省・「過労死等の労災補償状況」を参考に筆者作成)

全職種の中で、2番目に多いのが「保健師,助産師,看護師」と「介護サービス職業従事者」の224件となります。

看護、介護系職種だけで、全体の12.6%を占めています

精神障害決定事案で多くみられた具体的な出来事とは?

さらに、2023年度の精神障害決定で多くみられた具体的な障害の要因について表にまとめました。

出来事の類型具体的な出来事決定件数うち自殺
1位対人関係上司とのトラブル59927
2位パワハラ上司等からパワハラを受けた28911
3位仕事の量・質仕事内容・仕事量の大きな変化26534
4位セクハラセクハラを受けた1560
5位事故や災害の体験業務関連の悲惨な事故、災害体験や目撃1542
 2023年度精神障害決定件数の多い出来事
(厚生労働省・「過労死等の労災補償状況」を参考に筆者作成)

精神障害の決定となった障害の要因は、最も多いのが「上司とのトラブル」599件、次に多いのが「上司等からパワハラを受けた」289件、3番目が「仕事内容・仕事量の大きな変化」265件となっています。

上位3位まで合計1,153件のうち72件(6.2%)自殺に追い込まれていることは見逃してはいけないでしょう。

労働実態調査からみる看護職員のストレス事情

それでは、実際に医療の現場で働く人は、どのようなストレスを抱えているのでしょうか?

ここでは、日本医療労働組合連合会がまとめた「2022年看護職員の労働実態調査「報告書」」から、実態を探っていきたいと思います。

看護職員の労働実態調査一覧│トピックス│医労連・日本医療労働組合連合会 (irouren.or.jp)

【問】仕事での強い不満、悩み、ストレスはある?

65%が強い不満やストレスを感じている

Q.「今の仕事に強い不満、悩み、ストレス」

「ある」65.4% 
●「ない」19.8%
●「わからない」14.9%

交代制勤務の方がストレスを感じる

Q.「今の仕事に強い不満、悩み、ストレスが「ある」(勤務形態別)」

●「日勤のみ」54.8%
「3交替」69.6%
「2交替」(夜勤16時間以上)68.2%

時間外労働が多いほどストレスを感じる

Q.「今の仕事に強い不満、悩み、ストレスが「ある」(時間外労働別)」

「なし」41.3%
●「10-20時間」71.8%
●「30-40時間」81.7%
「60-70時間」88.6%

ストレスの原因トップは「仕事の量の問題」

Q.「仕事での強い不満、悩み、ストレスの大きな要因」

1位:「仕事の量の問題」48.7%
2位:「仕事の質の問題」31.8%
3位:「職場の人間関係」22.2%
4位:「夜勤」16.2%
5位:「仕事への適性の問題」11.5%
6位:「教育の問題」9.1%
7位:「昇進昇級の問題」6.6%
8位:「患者・家族からのクレーム」6.3%
9位:「定年後の仕事・老後の問題」6.1%
10位:「勤務先の将来性の問題」6.0%

【問】患者・家族からのクレームに対するストレスは?

合わせて75%がストレスを感じている

Q.患者や家族からのクレームに対するストレス

「強く感じている」25.6%
「少し感じている」49.6%
●「あまり感じていない」18.0%
●「感じていない」6.9%

【問】仕事を辞めたい?

合わせて80%弱が辞めたいと思っている

Q.仕事を辞めたい

「いつも思う」24.0%
「ときどき思う」55.2%
●「思わない」16.6%
●「わからない」4.2%

辞めたい理由のトップは「人手不足で仕事がきつい」

Q.仕事を辞めたいと思う主な理由

1位:人手不足で仕事がきつい」58.1%
2位:「賃金が安い」42.6%
3位:「思うように休暇が取れない」32.6%
4位:「夜勤がつらい」23.6%
5位:「思うような看護ができず仕事の達成感がない」23.1%

まとめ

ここまで、主に看護師のストレスの現状や要因について確認してきました。

特に看護師は、人手不足を背景に、一人に係る仕事量が多いことに加え、自身で仕事のコントロールがしづらいという業務の特性があります。

他の職種より精神的なストレスがかかりやすいため、医療機関としては、組織的な対策の検討や具体的な支援が重要になります。

医療従事者個人としては、バーンアウトを防ぎ長期的なキャリアを維持するためには、自分を大切にしながら働くことが重要です。

そのためには、まずは自身のストレスのことを知り、自身で予防や対処を行いながら周りにも支援を求めて、心の健康を保つことが大事になります。 

今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

目次