医療スタッフの働きがいを高めて、医療機関の価値を高める方策とは

コロナ禍を経て、働く人の価値観の変化や、働き方の多様化がおきています。

産業構造が急激に変化するなか、企業は、人的資本経営に乗り出し、従業員の働きがいを喚起し、個の価値の最大化を図ることで、持続的な企業価値の向上を目指しています。

医療機関にとっても、人材の価値の向上は重要な課題と言えます。とは言え、常に人手不足を抱えている医療機関においては、スタッフの働きがいまで手が回らない、というところも少なくないのではないでしょうか。

今回は、医療スタッフの働きがいを向上させる方策について、どのような項目に着目し、どのような対応が必要なのかについて考えてみたいと思います。

目次

働きがいのポイントは、「信頼関係」と「主体性」

そもそも働きがいとは、働くことによって得られる価値や喜びを指します。スタッフが働きがいを感じる状態というのは、医療機関とスタッフが互いに信頼し合って、スタッフが主体的に仕事に取り組むことができている状態なのだと思います。

日本医療機能評価機構の「職員やりがい度調査」から考察する

公益財団法人日本医療機能評価機構が発行した、2022年度「患者満足度・職員やりがい度 活用支援プログラム【年報】」から、「職員やりがい度」について確認していきたいと思います。

上記のプログラムは、同機構が2018年度から毎年行っているもので、2022年度は、2022年7月から12月までの期間に、329病院が参加しています。

職員やりがい度調査については、そのうちの226病院が集計対象となり、各質問項目に対して、1点から5点の5段階評価で回答を行っています。

ここでは、「職種別平均得点比較」から、やりがい度の状況をみていきたいと思います。

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公益財団法人日本医療機能評価機構・2022年度「患者満足度・職員やりがい度 活用支援プログラム【年報】」より筆者作成 

manzokudo_nenpo_2022.pdf (jcqhc.or.jp)

公益財団法人日本医療機能評価機構ホームページより引用

全職種で得点の高い項目に着目

まず、「全体」(全職種)で高い項目から確認したいと思います。

最も高いのは、3.7点の「雰囲気や人間関係」、「仕事のやりがい」、「上司への信頼となっています。

全職種で得点の低い項目に着目

次に、「全体」(全職種)で低い項目を見てみたいと思います。

最も低いのは、2.9点の「処遇条件」、「精神的不安」となっており、次いで3.0点の「総合評価となっています。

低い項目については、職種間でのバラツキが目立ちますので、項目ごとに点数の低かった職種もみていきます。

処遇条件
看護師2.7点、事務2.8点、薬剤師2.9点、その他2.9点

精神的な不安
看護師2.7点、薬剤師2.8点、事務2.8点

医療介護の質
事務2.8点、看護師2.9点

医療機関にとっての胆は、人にすすめられる職場かどうか

職員やりがい度調査の結果によると、医療従事者にとって、どのようなことが働きがいにつながっているのか、その傾向がわかります。

表中の質問項目のうち、医療機関にとって胆になるのは、「総合評価」と「医療介護の質の2項目になると思います。

この2項目の質問内容は以下のとおりです。

総合評価
「〇〇〇〇(病院名)を職場としてすすめようと思いますか?」

●医療介護の質
「病院・施設として、知人にすすめようと思いますか?」

この2つの質問は、前者が3.0点、後者が3.1点と、高くもなく低くもない点数となっています。これらの点数は、職場に対する信頼愛着の度合いを示していると思います。

医療機関の取り組みで、この2項目以外の点数を上げることができれば、この2項目の点数もおのずと上昇してくることが想像できます。

スタッフに、職場として信頼や愛着を感じてもらうことができれば、スタッフの働きがいにつながり、医療機関自体の価値向上が図れます。

これは、スタッフの定着率向上や、外部からの円滑な人材登用にもつながることになります。

医療従事者の働きがいを向上させるポイント3つ

それでは、スタッフの働きがいを向上させるには、具体的に何を考えればいいでしょうか。

前述の職員やりがい度調査の結果を参考に、以下の対応を考えてみたいと思います。

① 全職種で高い点数項目の向上策

全職種をとおして高い点数の項目に着目します。これらの項目の向上策を経営戦略に組み込んで、さらに評価を伸ばしていきます。

雰囲気や人間関係

定期的に、院長の思いや病院の方針をスタッフにアナウンスすることや、経営層と直接対話の機会を持つことにより、オープンで風通しのいい雰囲気をつくっていきます。

仕事のやりがい

公平公正な評価制度の導入や、目標管理制度を取入れ、上長との振り返りの機会を設けて、スタッフのモチベーションを上げていきます。

上司への信頼

年1~2回の定期面談だけではなく、「1on1」ミーティングを毎月行うことや、普段からの意識的な声掛けにより、互いの信頼関係を向上させます。

② 全職種で低い点数項目の向上策

全職種をとおして低い項目に着目します。その中でも特に低い職種からケアを行い、評価の底上げを図ります。

処遇条件

評価制度や目標管理制度を取り入れ、給与や賞与に反映させることで、公平公正な処遇を行います。上長とスタッフとの対話の機会を増やし、スタッフの想いを汲み上げる仕組みを作ります。

精神的な不安

上長とスタッフとの対話の機会を増やすこと、スタッフ同士で話し合う機会を設け、部署における心理的安全性を確保すること、メンタルヘルスの相談窓口を設置することが挙げられます。

③ ①・②の取り組みをとおして、働きがい向上へ

と②の取り組みにより、「総合評価」と「医療介護の質」の評価を上げ、スタッフの働きがいを向上させます

まとめ

今回の記事の内容につきまして、以下のとおりまとめたいと思います。

①スタッフの価値を向上させるには、スタッフに働きがいを感じてもらうことが大事。

②働きがいとは、働くことによって得られる価値や喜びを指す。

③医療機関とスタッフが互いに信頼し、スタッフが主体的に仕事に取り組むことができている状態が、働きがいを感じている状態。

④医療機関にとっての胆は、「総合評価」(他人にすすめられる職場か?)と「医療介護の質」(知人に診療ですすめられる病院か?)の2項目。

⑤全職種をとおして点数の高い項目は、経営戦略に組み込んで、さらに評価を伸ばしていく。(「雰囲気や人間関係」・「仕事のやりがい」・「上司への信頼」)

⑥全職種をとおして点数の低い項目は、特に点数の低い職種からケアを行い、評価の底上げを図る。(「処遇条件」・「精神的な不安」)

⑦上記の取り組みにより、信頼や愛着を感じてもらい、「総合評価」と「医療介護の質」の点数を上げる。スタッフに働きがいを感じてもらい、自院全体の価値向上を図る。

私も長い間医療機関で働いてきましたが、医療機関の評価は、そこで働くスタッフの声に表れることが多いと思います。

自分以外の大事な人に薦められる職場か、または、大事な人に診療を薦められる医療機関か。

スタッフから評価を受ける医療機関は、これから先も自院の価値を向上させられる可能性が高いと思います。

今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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