宿日直許可に向けて病院が気を付けるべきことを医師アンケートから探る

2024年4月から医師の働き方改革の運用がスタートしました。

十分な準備を経て4月を迎えた病院もあれば、準備が整わない状態で突入した病院も少なくないのではないでしょうか。

医師の働き方改革の準備段階で避けて通れないことのひとつに、宿日直許可の問題があります。

今回は、日経メディカル Onlineの記事を参考に、宿日直許可を巡る議論についてみていきたいと思います。

目次

「実態が伴わない“名ばかり宿日直”」が発生?

宿日直許可を取得した時間帯については、労働基準法上の労働時間にカウントしないで済むことから、事前準備の段階で、許可取得にこぎつけた病院も多いと思います。

日経メディカル Onlineでは、何とか取得にこぎつけた宿日直許可によって、「実態が伴わない“名ばかり宿日直”」が発生してしまうのでは、と懸念を示しているのです。

宿日直許可が実態を伴っているかどうかが問題

宿日直許可を下す労働基準監督署には、統一的な許可基準があると思います。

ただ、実際に許可するかしないかについては、申請時の担当官の個別の判断によるものが大きいのも事実だと思います。

書面や聞き取りでその判断を行いますので、継続的に医師やその他のスタッフ、患者の生の動きを見て判断することは、極めて困難だと言えます。

完全に医療現場の実態を反映できませんので、仮に許可された時間帯であっても、日勤帯と同様の業務が生じる場合もあり、医師やスタッフの負担は従前どおり変わりません。

同じ二次医療圏内でも、許可のバラツキが起きる可能性もありますので、院内での議論や病院間を巡る議論など、これから活発になってくるものと思われます。

医師のアンケート結果から、宿日直許可の実態を探る

宿日直許可の是非に関するアンケート結果(期間:2024年5月6日~12日 対象:同誌の医師会員9,018人から回答)が、日経メディカル Online 2024年6月17日号に掲載されていました。

その結果の一部をまとめましたので、共有します。

※「宿日直許可を取得している」と回答した病院勤務医2,405人が対象

Q.常勤先での宿日直の勤務実態

Q.常勤先での宿日直の勤務実態

A.「ほぼ寝当直」17.8%
  「おおむね2時間未満/回の軽度な業務がある」34.0%
  「おおむね2時間以上/回の軽度な業務がある」26.2%
  「日勤帯と同様の勤務がある」22.0%

Q.診療科別の常勤先での宿日直の勤務実態

Q.診療科別の常勤先での宿日直の勤務実態

A.「日勤帯と同様の勤務がある」
 ●救急科(68.8%)
 ●初期研修医(36.0%)
 ●麻酔科(35.7%)
 ●腎臓内科(33.3%)
 ●呼吸器内科(31.9%)
 ●消化器内科(30.8%)
 ●小児科(29.4%)

A.「おおむね2時間以上の軽度な業務がある」
 ●初期研修医(44.1%)
 ●小児科(38.1%)
 ●循環器内科(36.1%)

Q.年齢別の常勤先での宿日直の勤務実態

Q.年齢別の常勤先での宿日直の勤務実態

A.「日勤帯と同様の勤務がある」
 ●20歳代(32.5%)
 ●30歳代(23.4%)
 ●40歳代(24.1%)
 ●50歳代(15.4%)
 ●60歳代(9.5%)

A.「おおむね2時間以上の軽度な業務がある」
 ●20歳代(33.4%)
 ●30歳代(32.6%)
 ●40歳代(25.2%)
 ●50歳代(20.7%)
 ●60歳代(11.4%)

Q.常勤先の宿日直許可の取得の有無

Q.常勤先の宿日直許可の取得の有無

A.「宿日直許可を取得している」(52.7%)
  「宿日直許可を取得していない」(18.6%)
  「分からない」(28.7%)

Q.医師の宿日直の実態(自由意見より抜粋)

Q.医師の宿日直の実態(自由意見より抜粋)

●「2時間以内の軽度な業務でも、深夜から未明に仕事があったりするため休めるとは言えない。」(40歳代、緩和ケア科)

●「寝ることができない大学病院分院のERにおいて、1人当直で宿日直許可が取れたことに驚愕している。」(30歳代、代謝・内分泌内科)

●「上司からも月に80時間は超えないようにと指示されている。実際は超えている人がほとんど。」(40歳代、産科・婦人科)

●「宿日直の時間帯で診察を受ける場合、担当医師が専門外である可能性が高いこと、緊急性が乏しければ後日受診を勧められる可能性もあることを、患者に分かるようにしてほしい。」(40歳代、一般内科)

●「働き方の管理をしているが、問題のある制度と感じる。ただ、当直の翌日には休みを取る文化ができたので、良い側面もあった。」(60歳代、腫瘍内科)

宿日直許可を取得も「日勤帯と同様の勤務」は22.0%、消えない「名ばかり」の懸念:日経メディカル (nikkeibp.co.jp)

日経メディカル Onlineより引用

回答の半数近くが宿日直許可基準をクリアしていないことを示唆

前掲したアンケート結果では、常勤先での宿日直の勤務実態について、1回当たり2時間以上の業務や、日勤帯と変わらない業務をしているとの回答が48.2%ありました。

現場の医師からは、半数近くが宿日直許可基準をクリアしていないのでは、と疑われるアンケート結果が出ています

院内では、すでに医師から意見が出始めているかも知れません。

ただ、病院は患者を救い、地域医療を守る使命がありますので、まずは勤務管理の運用で精一杯という病院がほとんどなのではないでしょうか。

働き方改革への姿勢で、病院間格差が広がる可能性も

日経メディカル Online2024年6月18日号では、「リポート◎”名ばかり宿日直”の放置が招く「ホワイト」と「ブラック」の二極化」と題し、働き方改革をきっかけに、医師の定着等で病院間格差が広がる懸念について掲載しています。

その記事の中では、医師の働き方改革で多くの病院のサポートをしてきた、福島通子・特定社会保険労務士のコメントも掲載しています。以下が、コメントの要約となります。

●「本格稼働に向け数年前から準備を進め、労働環境の改善を続けている医療機関」と、「宿日直許可は取得したが、見かけの労働時間だけを気にしている医療機関」に二極化している

●働き方改革への姿勢や取り組み方で、ホワイト”と“ブラック”の二極化が進み、病院間で医師の定着・採用などに大きな差が生じる可能性もある

働き方改革をきっかけに“病院間格差”が広がる?:日経メディカル (nikkeibp.co.jp)

日経メディカル Onlineより引用

まとめ

今回は、日経メディカル Onlineから、現場医師の現状の意見について共有しました。

まだスタートして間もないですが、医師の働き方改革自体、医療費削減が裏側の目的なのでは、との見方もあるようです。今後も議論が続くと思われますので、状況を注視してみていきたいと思います。

今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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