皆さんは社労士という資格をご存知でしょうか?
名前は聞いたことはあるけれど、実際何をしている人なのかは詳しく知らない、という人がかなり多いと思います。
今回は、社労士の仕事内容や、医療機関の職員が社労士資格を取得するメリット・注意点などについてみていきたいと思います。
社労士ってどんな資格?
社労士とは
実際、社労士(社会保険労務士)とはどのような資格なのでしょうか?
社労士とは、一般的に、事業で必要な経営資源とされる「ヒト・モノ・カネ」のうち「ヒト」に関する専門家と言われ、社会保険労務士法で定められた国家資格者となります。
社労士は、1968年(昭和43年)に制定された比較的新しい国家資格で、いわゆる8士業のひとつに数えられています。
8士業とは、依頼された業務を行うために、第三者の戸籍謄本や住民票を法令上請求する権限が与えられた8つの士業のことです。以下の資格が8士業に該当します。
資格名 | 主な業務 | 制定時期 |
弁護士 | 訴訟・法務全般 | 1893年 |
司法書士 | 登記・供託 | 1872年 |
土地家屋調査士 | 土地家屋の調査・測量 | 1950年 |
税理士 | 税務 | 1951年 |
社会保険労務士 | 労働・社会保険 | 1968年 |
弁理士 | 特許等・知的財産権 | 1921年 |
海事代理士 | 船舶登記・海事許認可 | 1951年 |
行政書士 | 官公庁提出の許認可 | 1951年 |
社労士ができること
社労士の業務範囲は広く、事業所における採用から退職までの労働・社会保険に関する諸手続きから、年金相談まで行います。
今では社会全体で課題となっている働き方改革や、ハラスメント対応の相談業務も行います。
社労士の業務範囲については、社会保険労務士法第2条で定められています。以下、簡単にみていきたいと思います。
労働及び社会保険に関する申請書等の作成、提出(1号業務)
これは1号業務と言われる社労士の独占業務です。
例えば、職員の採用・退職時に生じる健康保険や雇用保険の申請書類を作成して、提出する業務がこれにあたります。その他、職員が仕事中にケガをした場合の、労災手続の書類を作成する業務もあります。
労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類を作成(2号業務)
これは2号業務と言われる社労士の独占業務です。
例えば、職場の法定三帳簿と言われる労働者名簿や賃金台帳、出勤簿の作成がこれにあたります。また、職場のルールブックとなる就業規則の作成も社労士の独占業務となります。
労務管理・社会保険に関する相談、指導(3号業務)
これは3号業務と言われる業務で、1・2号業務と異なり社労士以外の人でもできる業務となります。
例えば、働き方改革の対応のための適切な勤務時間管理の相談や助言・指導をする場合がこれにあたります。
その他、賃金制度や安全衛生管理、ハラスメント対応など、人事・労務の多岐にわたるコンサルティング業務があります。
社労士になる方法
それでは、いざ社労士を目指そうとした場合、どのような方法でなることができるのでしょうか。
社労士になるには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 年1回行われる国家試験に合格
- 全国社会保険労務士会連合会の名簿に登録
以上2点ありますが、問題は➊の国家試験合格になります。
ここで、社労士試験の概要について紹介します。
●試験日:
年1回(例年8月)
●試験科目:
①労働基準法及び労働安全衛生法
②労働者災害補償保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む)
③雇用保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む)
④労務管理その他の労働に関する一般常識
⑤社会保険に関する一般常識
⑥健康保険法
⑦厚生年金保険法
⑧国民年金法
●試験形式:
①選択式試験(語群から選ぶ穴埋め問題)
②択一式試験(5肢択一問題)
●合格基準:
①②とも、それぞれの総得点と、それぞれの科目ごとに基準が定められる
※例年6~7割が合格ライン
※科目ごとに足切りあり
●合格率:
例年6%前後で推移
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
2024年度 | 43,174人 | 2,974人 | 6.9% |
2023年度 | 42,741人 | 2,720人 | 6.4% |
2022年度 | 40,633人 | 2,134人 | 5.3% |
(社会保険労務士試験オフィシャルサイトを基に筆者まとめ)
医療機関職員として社労士資格を取得するメリットとは?
医療従事者の方々、特に事務職の方はこの社労士資格にチャレンジすることをお薦めします。
ここでは、医療機関の職員が社労士資格を取得する場合にどのようなメリットがあるのかについてみていきたいと思います。
社労士資格を取得するメリット
①職業人として知っておくべき労働法令を学べる
②事務職は業務の根拠となる法律を学べる
③業務効率の向上やモチベーションアップにつながる
④患者や職員へのサービス向上で医療現場への貢献度が上がる
①職業人として知っておくべき労働法令を学べる
いま社会が複雑化していて、皆さんの施設でも患者さんや自施設の職員への対応に苦慮するケースが増えていると思います。
そうした状況下では、社労士資格の勉強をとおして、働く人全てが知っておくべき労働法令などの知識が得られます。
法律を知ることで、自分も含め働く人や職場を守ることができます。
それでは、実際の社労士試験ではどのような問題が出題されるのかみてみましょう。
令和2年度 労働基準法
【問1】
労働基準法第10条に定める使用者等の定義に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
【肢B】
事業における業務を行うための体制が、課及びその下部組織としての係で構成され、各組織の管理者として課長及び係長が配置されている場合、組織系列において係長は課長の配下になることから、係長に与えられている責任と権限の有無にかかわらず、係長が「使用者」になることはない。
上記は、令和2年度の労働基準法の択一試験(5肢択一)の一部切り抜きで、この【肢B】は誤りの選択肢となります。
つまり、組織の形式によらず実質的な責任と権限の付与の有無で判断されるため、係長でも使用者になり得るという問題です。
これは医療従事者に限らず、職業人であれば皆が学びになる問題と言えると思います。
②事務職は業務の根拠となる法律を学べる
前述したとおり、試験科目は、労働・社会保険関係の法律や、それに関する一般常識となります。医療機関の事務職、特に総務や医事部門において、業務の根拠となる法律の知識が得られます。
具体的には、総務部門では、職場の就業規則や雇用契約、給与計算、安全衛生に関する知識が得られます。また、医事部門では、患者の治療費に関する制度全体の知識が得られます。
ここでも実際の社労士試験の問題で確認してみましょう。
令和5年度 健康保険法
【問2】
健康保険法に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
【肢B】
高額療養費は公的医療保険による医療費だけを算定の対象にするのではなく、食事療養標準負担額、生活療養標準負担額又は保険外併用療養に係る自己負担分についても算定の対象とされている。
上記は、令和5年度の健康保険法の択一試験(5肢択一)の一部切り抜きで、この【肢B】は誤りの選択肢となります。
つまり、健康保険扱いとならない食事代や差額ベッド代は、高額療養費の計算には含まれないという問題です。
このように、医事課の職員が日々触れているような基本的な問題も出題されています。
③業務効率の向上やモチベーションアップにつながる
試験の合否に関わらず、業務の土台となる知識の習得を図ることができます。それにより、業務効率の向上やモチベーションアップが期待できます。
④患者や職員へのサービス向上で医療現場への貢献度が上がる
社労士試験の勉強で得られた確かな知識がありますので、患者や職員に対するサービス向上の効果が期待できます。
晴れて試験に合格した場合は、独立開業もできますが、勤務登録する働き方もあります。
勤務登録することで、社労士としての知識を自院に還元し、人事労務関係の業務改善などをとおして、職場に貢献することもできます。
つまり、医療現場に対する貢献度の向上を果たすことができるのです。
社労士資格を取る際の注意点とは?
これまで社労士資格に挑戦する場合のメリットについてみてきましたが、やはり気を付けるべき点もあります。
ここでは、社労士資格取得における注意点を2点挙げたいと思います。
社労士資格取得上の注意点
①経済的コストがかかる(予備校費用年間約20万円)
②時間的コストがかかる(受験期間3~4年の覚悟)
①経済的コストがかかる
まず始めに、経済的なコストがかかることが挙げられます。
筆者がそうでしたが、独学ではなかなか理解が進みませんので、予備校に通うことも選択肢に入ります。もしそうなると、一般的に受講料として年20万円前後の出費がかかり、家計を圧迫しかねません。
ただ、雇用保険法の試験範囲にも含まれる「一般教育訓練給付金」を利用すれば、予備校の受講費用の20%(最大10万円)分の支給を事後に受けることができ、費用負担を低減することもできます。
②時間的コストがかかる
次に、当然ながら時間的なコストがかかります。
これも筆者がそうでしたが、合格まで複数年かかるのがこの試験の特徴となっています。
令和6年度の試験では、受験者数43,174人に対し合格者は2,974人と、合格率は6.9%でした。ここ数年の合格率をみると、例年6%前後で推移しているようです。
勉強自体は決して無駄にはなりませんが、試験に合格することが最終的なゴールだと言えます。もし合格できなければ、当然ですがそれと引き換えに、家庭サービスなど別に充てることができた時間が奪われることになります。
受験にあたっては、周りの方からの理解も必要でしょう。
業務の土台となる知識を養い医療に貢献する
筆者が社労士資格を取ろうと思ったのは、ただの自己啓発がきっかけでした。この資格で食べていくということではなく、新卒当初、病院業務と関連した資格を取得して、専門性を身につけたかった、というのが最初の動機でした。
ただ、それも表向きの理由で、本当は、自分の周りに医師や看護師、コメディカルの有資格者がたくさんいたので、「資格」というものに憧れていた、というのが本音です。
最初独学で勉強を始めましたが、進めていくうちに独学では合格が難しそうなことがわかったので、資格の予備校に通うようになりました。それでも結局、試験合格まで3~4年かかってしまいました。
筆者自身が感じるのは、この資格取得で医療機関で働くうえでの土台となる知識が得られたことは確かです。特に、総務と健診部門における人事や安全衛生関係の業務に活かされたと思っています。
まとめ
今回は、社労士の仕事内容や、医療機関の職員が社労士資格を取得するメリットや注意点などについてみてきました。
合格率などの数字をみると決して簡単な試験とは言えませんが、必ず自身の財産になりますので、受験を検討してみてはいかがでしょうか。
今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。