内発的動機付けを具体的に実践し、医療従事者の離職防止を図る

組織の成長には、モチベーション管理が必要になります。

それは医療機関においても同じです。医療スタッフのモチベーションが低い職場では、診療の質が担保されず、患者サービスが低下し、医療安全上のリスクが高まります。

そしてスタッフの帰属意識が薄れ、離職者が後を絶たない不安定な職場になる可能性があります。

「最近、スタッフからやる気や覇気が感じられない…」と思う管理者の方も少なくないのではないでしょうか。

今回は、医療従事者に対する効果的なモチベーション向上策として、内発的動機付けについて考えていきたいと思います。

目次

内発的動機付けがモチベーション向上のカギ

スタッフのモチベーション向上策で重要になるのは、「内発的動機付け」と言われています。

内発的動機付けとは、仕事そのものの楽しさや有能感、満⾜感、⾃己決定の感覚など、自分の内から湧き上がるものを言います

それに対し、「外発的動機付け」とは、報酬、昇進など、自分の外から与えられるものを言います。

医療従事者はもともと社会貢献意欲や、職業上の使命感、倫理感が高い人材が多い傾向にあると思います。

自律的な特性を持つ医療従事者のモチベーションをいかに効果的に向上させるかは、内発的動機付けがカギを握っていそうです

「看護師の働き方に関する意識調査」から実態を探る

実際、医療従事者は自分の仕事に対して、どのような考えを持っているのでしょうか。

ここでは、株式会社エス・エム・エスが実施した「看護師の働き方に関する意識調査」(2021年11月~12月・「ナース人材バンク」、「ナース専科」を利用している看護職18,130名対象)を参考に、看護師の仕事に対する意識について確認していきたいと思います。

【看護師の働き方に関する意識調査】全国約1.8万人の看護職が採用と定着をテーマに回答。67%が安定的に働く意欲。定着の鍵は病院の方針やマネジメントの在り方〜患者や同僚との関係に満足しつつも、人員配置や指導方法のバラつきに悩んでいる実態〜 | 株式会社エス・エム・エス (bm-sms.co.jp)

現就業先に対する満足度

Q1 現在の就業先に対する満足度で最も近いものをお選びください。

●「満足」11.8%
●「まあ満足」49.2%
●「やや不満」27.3%
●「不満」11.7%

Q1では、現就業先へ満足と感じる割合が約6割不満を感じる割合が約4割いることが確認できます。

項目別の満足・不満足度

Q2 現職における以下の項目について「満足」「不満足」で教えてください。

●満足を感じる点
1位「患者との関係」・「同僚との関係」(81.6%)
3位「休日・休暇の希望考慮」(74.5%)
4位「やりがい」(66.7%)
5位「配属先の希望考慮」(65.6%)

●不満を感じる点
1位「適切な人員配置」(67.7%)
2位「指導方法のバラつき」(64.9%)
3位「管理職のマネジメント」(62.9%)
4位「企業・施設の方針」(61.4%)
5位「各種手当の充実」(60.8%)

Q2では、現就業先への満足要因患者や同僚との人間関係に関するもの不満足要因マネジメントや処遇に関するものであることが確認できます。

現職を選んだポイント

Q3 現職を選んだ時に重視したポイントについて、当てはまるものを全て選んでください。

1位「勤務時間・体制」58.3%
2位「職場へのアクセス」54.5%
3位「給与」43.3%

Q3では、処遇や立地面を重視して就業先を選んだことが確認できます。

前職の退職理由

Q4 前職の退職理由について、当てはまるものをすべて選択してください。

1位「人間関係への不満」31.0%
2位「仕事内容への不満」24.8%
3位「管理職のマネジメントへの不満」20.3%

Q4では、前職の離職が、人間関係、マネジメント、処遇に関する理由だったことが確認できます。

今後のキャリアの志向

Q5 今後のキャリアの志向について教えてください。

1位「長く安定的に働きたい」67.5%、
2位「明確な意向・希望は無い」24.2%、
3位「他の医療機関での勤務経験も積みたい」14.3%

Q5では、自分のキャリア形成上、現職で継続雇用を希望している人が、7割近くもいることが確認できます。

ハーズバーグの二要因理論からモチベーション向上策を考える

ここでは、医療従事者のモチベーション向上策を考えるヒントとして、ハーズバーグの「二要因理論」について触れたいと思います。

アメリカの心理学者・ハーズバーグは、仕事に対する満足、不満足の要因は別々にあり、「衛生要因」と「動機付け要因」という2つに別れると提唱しました。

衛生要因とは

衛生要因」は、不満足要因とも言われます。希望が満たされないと不満が強いですが、満たしていたとしても特段幸せを感じない、という考え方です

衛生要因」の例

●経営理念
●上司との関係
●給与などの処遇
●対人関係
●作業環境

動機付け要因とは

動機付け要因」は、満足要因とも言われます。希望が満たされると幸せを感じますが、特段それがなくても不満は感じない、とされます。

動機付け要因」の例

●仕事の達成
●承認
●仕事そのものへの興味
●仕事の責任・権限

医療従事者に対するモチベーション向上策に必要な2つの条件

前掲した看護師のアンケート結果から推察すると、医療従事者に対するモチベーション向上策には、以下の2点を満たすことが必要になりそうです。

医療従事者に対するモチベーション向上策に必要な2つの条件

①「衛生要因」を(普通に)満たしてあげつつ

②「動機付け要因を重視して、限りなく改善を施していく

医療従事者に対する具体的なモチベーション向上策

それでは、医療従事者のモチベーションを向上させるためには、具体的にどうすればいいのでしょうか。

衛生要因と動機付け要因に分けて考えていきたいと思います。

衛生要因に対するモチベーション向上策

まず、衛生要因の対応策について考えていきたいと思います。

①上司との対話の機会を増やし、信頼関係を向上させる

看護職のアンケート結果で、現職への不満要因が、「適切な人員配置」、「管理職のマネジメント」という回答が多くありました。

また、前職の退職理由では、「管理職のマネジメント」、「仕事内容への不満」という回答もありました。

上司は、定期面談以外でも、「1 on 1」日々の声掛けで、スタッフとの対話の機会を増やして、本人の思いを汲み上げることが大事です。

②院内イベントを継続的に行い、スタッフ間の人間関係構築を促す

前掲のアンケート結果で、現職への不満要因が、「管理職のマネジメント」、「指導方法のバラツキ」という回答が多くありました。

また、前職の退職理由では、「人間関係への不満」、「管理職のマネジメント」という回答もありました。

継続的なイベントをとおして、スタッフ同士の懇親を深め、組織へのつながりを感じてもらうことが、離職防止につながりそうです

③給与等の処遇や勤務体制を改善し、福利厚生を充実させる

前掲のアンケート結果で、現職への不満要因が、「各種手当の充実」という回答が多くありました。

また、現職を就業先に選んだポイントとして、「給与」を挙げています。

給与の多寡が転職のきっかけにもなり得ます。職務上不可避な危険手当や、専門的スキルに対する手当が規程にない場合は、改善を図る必要がありそうです

動機付け要因に対するモチベーション向上策

次に、動機付け要因の対応策について考えていきたいと思います。

①職場の理念や価値観と、スタッフ個人の目標を同期させる

看護職のアンケート結果で、現職への満足要因が、「患者との関係」、「やりがい」という回答が多くありました。

組織の価値観や規範を「患者第一」とし、個人目標に落とし込みつつ、個々の目標設定を行えば、日々の業務にやりがいを感じることができると思います。

②院内表彰を継続的に実施し、承認欲求を満たす

上記同様、現職への満足要因は「患者との関係」、「やりがい」となります。

表彰制度を取入れ、日々の業務に対して評価し、達成感を感じてもらうことで、仕事へのやりがいにつながると思います。

③積極的に権限移譲を行い、職務充実を図る

上記同様、現職への満足要因は「患者との関係」、「やりがい」となります。

上司は積極的に権限委譲を行い、これまでの業務以上の責任を付与することで、日常業務に対するスタッフのやりがいを与えていくことが大事です。

「組織の価値観や規範の共有・浸透」が取組の前提

上記を実践する際の注意点は、あくまでも患者第一」という、組織の価値観や規範の共有と浸透がスタッフになされている、ということがベースにあるということです。

医療機関は、スタッフの大半が国家資格者が占める多職種による専門家集団と言えます。医療従事者の最大の関心事は、当然ながら、患者を治療することにあります。経営については恐らく二の次になります。

医療従事者は、そもそも経営層とは業務に向き合う視点が異なりますので、いかに継続的に動機付けを行っていくかが重要になります。

まとめ

医療機関が抱える最大の難題は、組織の大半を占める国家資格者の意思統一を、いかに図っていくかにあると思います。

モチベーション向上策の前提として、医療機関では、まず組織の価値観や規範を末端まで共有し、浸透させることが重要です。

それができて初めて、医療者は、患者のためにモチベーションを上げて業務に注力していけるのだと思います。

今回の記事が、医療機関の離職率低下や人材確保、安定的な組織づくりに貢献できれば何よりです。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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