高齢者雇用のメリットとは?医療機関における労働力強化の方策を徹底解説

人生100年時代といわれるなか、生涯現役という生き方を目指す人も多くなりました。

2021年4月に施行された高齢者雇用安定法改正により、事業者は労働者に対して70歳まで就業機会を確保することが努力義務化されました。

これを受けて一部の民間企業では、定年年齢の引き上げや定年制度自体を廃止するなどの動きが活発化しています。

常に人手不足を抱える医療業界において、高齢者雇用は今後の人材確保策の重要課題になります。

しかし、どのような対策を立てればいいのか、お悩みの医療機関も少なくないのではないでしょうか。

この記事では、人手不足の現状や医療機関が認識しておくべき高齢者雇用のメリットについて解説し、シニア世代を活用した労働力強化の具体的な実践方法を提案します。

目次

人手不足解消の鍵?高齢者雇用の可能性と労働力としての強み

人手不足の現状

医療業界における人手不足は深刻です。医師については、近年、地域や診療科による偏在が問題視され、すでに定年年齢を引き上げている医療機関も少なくないと思います。

看護師については年間約3万人ずつ就業者が増えているという調査もあります。しかし、それでも疾病構造や人口動態の変化によって、2025年には人員不足に陥るというデータが出ているのです。

ここでは、医療業界における人手不足の現状について確認していきたいと思います。

看護職における需給ギャップの懸念

2017年7月の社会保障審議会医療部会では、看護職員が「2025年に約200万人」必要であると試算しました。

そして、看護師の就業者数は年間3万人ペースで増えているものの、「2025年で約3万人~約13万人分の需給ギャップが生じる見込み」と報告しています。

医療機関の職員の半数を看護師が占めます。多くの医療機関では、2025年を待たずに、すでに看護師不足に陥っていることが想像できます。

<現状及び課題>
・ 看護職員の就業者数は、近年3万人/年ペースで増加している。
・社会保障・税一体改革の試算による看護職員の必要数は「2025年に約200万人」。
・就業者数が3万人/年で増加しても2025年で約3万人~約13万人分の需給ギャップが生じる見込み。

引用:医療業 高齢者雇用推進ガイドライン(令和2年)|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 (jeed.go.jp)

看護職における50歳以上率の高まり

看護職員の高年齢化も、医療機関が認識しておくべきことのひとつとして挙げられます。

社団法人全日本病院協会医療業高齢者雇用推進委員会がまとめた「高齢医療従事者の雇用・働き方ハンドブック」において、看護職員の50歳以上率について報告されていますので、ここで紹介したいと思います。

看護職看護補助職
急性期14.9%48.5%
ケアミックス21.1%36.3%
慢性期49.0%40.4%
看護職員の50歳以上率(平均値)
「高齢医療従事者の雇用・働き方ハンドブック」より引用

上記の資料をみると、医療機関の特性によって特徴が異なることがわかります。

急性期病院については、看護職の50歳以上率は15%程度と低い割合を示していますが、看護補助職については全体の5割近くを占めます。

一方で、慢性期病院については、看護職の50歳以上率は全体の5割弱、看護補助職は4割強といずれも高い割合を示しています。

相対的にみると、慢性期病院の方が職員の高年齢化が進んでいることがわかります。

人手不足が医療機関に与える影響

人手不足は、医療機関に以下の影響を及ぼす可能性があります。

①医療サービスの質の低下
②離職者の増加
③減収による経営の不安定化
④地域医療の後退

①医療サービスの質の低下

人手不足に陥ると、職員一人当たりの仕事量が増えます。職員個々の業務過多が続くと、医療安全の確保が難しくなり、医療ミスやインシデントの発生の可能性が高まります。

②離職者の増加

人手不足により職員一人当たりの仕事量が増えると、長時間労働や過重労働による身体的な不調やメンタルヘルス不調の原因となり、離職者が増える可能性が高まります。離職者が出始めると、さらなる離職が増える悪循環を招く恐れもあります。

③減収による経営の不安定化

離職者が増えると、それまで確保できていた施設基準が満たせずに、大幅な収入減を招きかねません。収入の減少は医療機関の経営を不安定にし、事業の継続に大きな足かせとなる可能性があります。

④地域医療の後退

医療機関の人手不足は、地域医療に少なからずマイナスの影響を及ぼします。医療人材が不足することにより診療時間の短縮や診療科の縮小、救急患者への非対応などの可能性が高まり、地域医療の後退につながりかねません。

高齢者雇用の可能性

今後も少子化は進行することが予想されます。現役世代が減少すれば、医療の担い手も減少することは明らかです。

医療業界においては、潜在的な人材の掘り起こしが必要とされています。そのなかで課題となるのは、女性やシニア世代を労働力としていかに確保していくかにあります。

ここでは高齢者雇用の可能性について、資料を参考に確認していきたいと思います。

平均寿命と健康寿命の延伸

近年、日本人の平均寿命が延伸していることはご存知だと思います。そして、平均寿命とともに健康寿命についても年々右肩上がりで延伸しています。

「令和5年度高齢社会白書(全体版)」を基に、健康寿命と平均寿命の推移について表にまとめると、以下のとおりとなります。

スクロールできます
A平均寿命
(男性)
B健康寿命
(男性)
A-B
(男性)
A平均寿命
(女性)
B健康寿命
(女性)
A-B
(女性)
2001年78.0769.408.6784.9372.6512.28
2004年78.6469.479.1785.5972.6912.90
2007年79.1970.338.8685.9973.3612.63
2010年79.5570.429.1386.3073.6212.68
2013年80.2171.199.0286.6174.2112.40
2016年80.9872.148.8487.1474.7912.35
2019年81.4172.688.7387.4575.3812.07
健康寿命と平均寿命の推移 (単位:歳)

上記の資料のとおり、直近の健康寿命は男性が72.68歳、女性が75.38歳となっています。

男性も女性も70歳過ぎまでは健康に生活できることを示しており、シニア世代の労働力としての可能性を示唆しています。

なお、健康寿命に関しては別の記事でも取り上げていますので、よろしければご参照ください。

引用:令和5年版高齢社会白書(全体版) (cao.go.jp)

年齢階級別就業率の推移

ここでは、シニア世代の就業率について確認したいと思います。

総務省統計局「労働力調査(基本集計) 2023年(令和5年)平均結果」によると、10年前と比較してシニア世代の就業率が各年代とも上昇していることがわかります。

60~64歳65~69歳70~74歳75歳以上
2013年58.9%38.7%23.3%8.2%
2023年74.0%52.0%34.0%11.4%
総務省統計局「労働力調査(基本集計) 2023年(令和5年)平均結果」
「年齢階級別就業率の推移」を基に筆者作成

参考:労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果の概要 (stat.go.jp)

シニア世代が考える就業終了希望年齢

次に、シニア世代の就業意欲について確認したいと思います。

パーソル総合研究所が行った「働く10000人の成長実態調査2023」の回答結果をご覧ください。

Q.あなたは人生で何歳まで働きたいと思いますか。希望する年齢をお知らせください。

年齢区分71歳以上と回答就業終了希望年齢平均
55~59歳就業者15.4%68.1歳
60~64歳就業者17.2%69.8歳
65~69歳就業者40.7%73.5歳
71歳以上まで働きたいと回答した割合と就業終了希望年齢の平均
パーソル総合研究所の調査「働く10000人の成長実態調査2023」を基に筆者作成

この調査によると、シニア世代の多くが70歳前後まで働きたいということを示しており、71歳以上と回答したのは各年齢区分とも15%以上回答しています。

また、年齢区分が上がるにつれて就業終了希望年齢が上がっており、なんと65~69歳の就業者のうち4割以上の人が、70歳を超えるまで働き続けたいと回答しています。

参考:~働く10,000人成長実態調査2023~シニア就業者の意識・行動の変化と活躍促進のヒント- パーソル総合研究所 (persol-group.co.jp)

就業終了希望年齢まで働き続けたい理由

それでは、なぜシニア世代はそこまで長く働き続けたいのでしょうか。

以下の資料からわかるとおり、働き続ける理由として、収入や年金不安が上位にくる一方で、自身の健康維持ややりがい、社会貢献という意見が多いことが確認できます。

順位71歳以上まで働き続けたい理由回答割合
1位働くことで健康を維持したいから57.8%
2位生活を維持するために収入が必要だから47.6%
3位働かないと時間をもてあましてしまうから39.9%
4位将来の年金生活が不安だから39.7%
5位仕事をとおしてやりがいを得たいから35.8%
6位働くことで社会に貢献したいから26.6%
7位趣味などに充てる資金を得たいから25.2%
8位体力的に限界の年齢だと思うから24.9%
9位仕事を通じて友人や仲間を得ることができるから24.3%
10位仕事を通じて成長していきたいから21.4%
「就業終了希望年齢まで働き続けたい理由」71歳以上希望者(55~69歳就業者 n=2,297)
パーソル総合研究所の調査「働く10000人の成長実態調査2023」を基に筆者作成

高齢者にみる労働力としての強み

前項では、シニア世代の就業意欲の高さについて確認しました。

ここでは、シニア世代が医療機関の労働力としてどのような強みを持っているのか、簡単に確認したいと思います。

安定した業務遂行能力

医療機関においては専門性の高い人材が求められます。シニア世代は長年の経験に基づく専門知識の多さや医療技術の高さから、安定して実務遂行能力を発揮できることが強みだと言えます。

患者に与える安心感

シニア世代は若い世代に比べ、社会経験や業務経験が豊富にあります。患者の高齢化も進んでいるなか、患者と年齢が近い立場にあるシニア世代の医療スタッフは、患者やその家族の立場に立って振る舞うことができます。

そうした振る舞いは、患者に対するの安心感や信頼感につながり、医療機関の患者満足度向上に貢献できる強みとなります。

高齢者の力を活かす!医療機関が得られる3つのメリット

これまで医療業界の人手不足や高齢者雇用の可能性についてみてきました。

ここでは、医療機関における高齢者雇用のメリットについて考えたいと思います。高齢者雇用のメリットとして、主に以下の3点が挙げられます。

①労働力不足の解消
②若手育成の強化
③多様な人材活用による組織活性化

①労働力不足の解消策としての高齢者雇用

前掲のとおり、今後も進行していく医療業界の人手不足や高齢者雇用の可能性の大きさを考えると、シニア世代の雇用推進は、医療機関にとって必要不可欠な施策となります。

現状は定年を60歳に定めている医療機関は7割以上あり、ほとんどの医療機関が継続雇用を導入していますが、65歳を在職の区切りにしています。

法令上、今後は70歳までの就業機会の確保が求められています。シニア世代の雇用推進は、人手不足の解消とともに労働力の安定的な確保につながります

②経験と知識の継承による若手育成の強化

シニア世代の雇用推進は、ベテランとして蓄積された業務経験やスキルを、若い世代に継承し育成強化を図ることができるメリットがあります。

ベテラン職員の豊富な経験やスキルは暗黙知であり、医療機関にとって非常に価値の高い無形資産と言えます。この暗黙知を形式知化して、いかに若い世代に継承していくかが重要となります。

すでに高齢者雇用を実践している医療機関では、経営課題として管理職中心にベテラン職員の経験を集積したマニュアル作りを進めているようです。

ベテラン職員の知見が詰まったマニュアルでの業務継承は、業務の標準化とともに業務レベルの高度化を図ることができます。

これにより若手育成の強化が進めば、医療現場の生産性向上による業務負担の軽減や、医療の質向上による患者満足度向上にもつながります。

③多様な人材活用による組織活性化

高齢者雇用はダイバーシティ経営にもつながると言えます。ダイバーシティとは「多様性」のことを表します。

経済産業省は、ダイバーシティ経営を以下のとおり定義しています。

「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」

引用:ダイバーシティ経営の推進 (METI/経済産業省)

同じ組織内に、同じような年代や考え方の人材が集まっても、なかなか新しい発想は生まれません。ひとつの組織内に、若手や中堅、ベテランなど異なる視点を持った人材を構成することで組織は活性化されます

活性化された組織では、個々のスタッフの個性が活きることで、創造的かつ革新的なアイデアが生まれやすくなります。そして、職場の生産性が向上し、医療機関の価値の継続的な向上につながります。

なお、人材の多様性を活かすには、個々のスタッフが活き活きと働くことができる職場環境づくりが必要になります。一例として、以下の取り組みが考えられます。

・ワークライフバランスの改善
・勤務時間や雇用形態など柔軟な働き方の普及
・年功序列に偏った人事制度の見直し
・多様な人材のコミュニケーション活性化に向けた管理職のマネジメント能力向上

高齢者雇用のデメリットや問題点を考える

前項では高齢者雇用のメリットに確認しましたが、反対にデメリットはあるのでしょうか。

ここでは、高齢者雇用におけるデメリットや問題点について考えたいと思います。高齢者雇用で想定されるデメリットや問題点として、以下の4点が挙げられそうです。

①人件費の増加
②若い世代のモチベーション低下
③体力・体調面に関する不安
④変化への対応力に関する不安

①人件費の増加

年功賃金が導入されている医療機関にとっては、職員の高齢化は人件費の増加につながります。

シニア世代の雇用推進策として定年年齢の引き上げを行う場合は、年功序列に偏った賃金制度や評価制度を見直し、個々の能力に見合った賃金や評価設定を行うなど、人件費を抑制する施策をセットで行うことが重要となります。

なお、年功序列に関しては別の記事でも取り上げていますので、よろしければご参照ください。

②若い世代のモチベーション低下

年功序列制度を取り入れている医療機関にとっては、役職者の高齢化も問題になります。

役職者の高齢化は、次世代を担うべきミドル層や若手職員の昇進・昇格が停滞し、若い世代のモチベーション低下を招きます。

シニア世代の雇用維持を図り、事業を継続していくためには、年功序列に偏った人事制度が見直しが必要になります。役職定年制度を導入するほか、個々の能力を正当に評価し、若い世代からも役職者に抜擢するといった公平性を担保した人事制度を導入することが重要です。

③体力・体調面に関する不安

年齢を重ねるごとに、体力の低下や身体的な疾患を抱えやすくなるのは仕方ないと言えます。若い頃と比べて、不規則なシフト勤務や夜勤が重なると体力的に厳しくなるのは当然です。

また、腰痛に悩む看護師が多いのも事実です。看護業務においては、中腰での患者対応が多いことから、シニア世代の雇用推進においては、補助具の整備など腰痛対策を含めた職場環境の配慮やケアの充実が重要となります。

④変化への対応力に関する不安

新しい制度や取り組み、システム導入に際してシニア世代が苦慮する場面が多くなります。

また、医療技術の進歩はめざましく、働いていくうえでは、専門知識や新しい技術のアップデートは必須事項となります。

シニア世代の雇用を推進し、長く勤めてもらうには、組織運営について丁寧に説明して協力を促すとともに、専門知識や新しい技術を学ぶ機会の提供を行う施策が重要になります。

高齢者雇用で医療機関の労働力を強化する方法

ここでは、高齢者雇用で医療機関の労働力を強化する具体的な方策として、以下の5点を挙げて説明したいと思います。

①柔軟な勤務時間の設定
②業務内容の適正化
③サポート体制の強化
④研修制度の充実
⑤労働意欲の喚起

①柔軟な勤務時間の設定

シニア世代の雇用を進めるうえで重要になるのは、柔軟な勤務制度を導入することにあります。

実際に高齢者雇用を実践している医療機関の具体例として、以下の施策を紹介します。

●夜勤回数の軽減
●早朝勤務、深夜勤務の軽減
●半日勤務の導入
●隔日勤務の導入

②業務内容の適正化

シニア世代の雇用を進めるうえでは、業務内容の適正化が重要になります。

そのためには、シニア世代の声に耳を傾け、個々の適正に見合った業務配分や配置を行う必要があります。

ここでも実際の具体例として、以下の施策を紹介します。

●高齢職員の意見を反映させた業務改善制度の導入
●高齢職員の体力、能力に応じた業務設定
●業務改善アンケートで各職場の課題を抽出し改善活動実施
●退職者アンケートで退職事由を抽出し職場風土や人間関係を改善

③サポート体制の強化

シニア世代の雇用を進めるうえでは、体力面に配慮したサポート体制の強化が重要となります。

シニア世代は体調や体力面で不安を抱えています。前述したとおり、腰痛を抱えながら業務に励むシニア世代の医療従事者も少なくないと思います。

補助具等の整備は病棟単位になることも多いと思いますが、シニア世代に限らず全職員の作業環境改善のため、病院全体での導入が重要です。

実際の具体例として、以下の施策を紹介します。

●介護支援用ロボットの導入
●補助ベルトなど用具の整備
●給食運搬車は高齢職員が使いやすいものへ更新
●ナースステーションを中心に配置し病棟内の動線短縮

④研修制度の充実

シニア世代が戦力として活躍するには、日々進化していく医療技術や知識のアップデートが欠かせません。

医療機関全体の研修参加と併せて、シニア世代に特化したフォロー制度を取り入れるなど、研修制度の充実が重要となります。

実際の具体例として、以下の施策を紹介します。

●研修テキストやスライドの文字を拡大し、イラストを多用するなど見やすさを工夫
●高齢職員向けの教育訓練、研修参加の機会を提供
●院長主催の定期カンファレンスで治療や看護のあり方の共有を図りチーム医療の質向上

⑤労働意欲の喚起

年齢を重ねるうちに現状維持バイアスが働きやすくなると言えます。

医療機関として、シニア世代の雇用を推進していくためには、モチベーション管理やコミュニケーション活性化を図り、ベテラン職員の労働意欲を喚起することが重要になります。

実際の具体例として、以下の施策を紹介します。

●顧問制度による後継者育成
●トレーナー制度の導入
●若手職員とのペア就労
●毎年度末の研究事例発表会でベテラン看護師が若年職員とチームで発表

なお、モチベーション管理については別の記事でも取り上げていますので、よろしければご参照ください。

助成金を活用して高齢者雇用を充実させる

国は助成金を設定して、高齢者雇用の推進を後押ししています。

ここでは、高齢者雇用に関わる主な助成金について簡単に紹介します。申請方法などの詳細については、厚生労働省のホームページ等から確認するようにしてください。

高齢者雇用に関わる助成金には、大きく分けて以下の2つがあります。

●特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
●65歳超雇用推進助成金

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

まず始めに、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)を紹介します。

特定求職者雇用開発助成金には、以前「生涯現役コース」というものもありましたが、2022年度末で廃止となり、こちらで紹介する特定就職困難者コースで申請することになっています。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

●助成金内容
高年齢者、障害者、母子家庭の母などの就職困難者を、ハローワーク等の職業紹介により、継続雇用労働者を雇い入れる事業主に対して支給される助成金

●助成金額【高年齢者(60歳以上)】 
60万円(大企業50万円)・短時間40万円(大企業30万円)

●対象者
正規雇用、無期雇用、有期雇用(自動更新※対象者が望む限り更新できる契約のみ)

引用:特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース) |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

65歳超雇用推進助成金

次に、65歳超雇用推進助成金を紹介します。

65歳超雇用推進助成金には以下の3種類のコースが設定されています。個別に概要をまとめましたので、参考にしてください。

65歳超雇用推進助成金
Ⅰ.65歳超継続雇用促進コース
Ⅱ.高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
Ⅲ.高齢者無期雇用転換コース

引用:65歳超雇用推進助成金 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

Ⅰ.65歳超継続雇用促進コース

65歳超雇用推進助成金
Ⅰ.65歳超継続雇用促進コース


●助成内容
下記のいずれかを実施した事業主に対して助成するコース
A.65歳以上への定年引上げ
B.定年の定めの廃止
C.希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
D.他社による継続雇用制度の導入

●助成金額
対象者数・措置の内容・年齢の引上げ幅等に応じて以下の金額を支給
【A・B】
65歳    15万円~ 
66歳~69歳 20万円(5歳未満引上)・30万円(5歳以上引上) 
70歳以上  30万円 
定年廃止  40万円~
【C】
66歳~69歳 15万円~ 
70歳以上  30万円~
【D】
66歳~69歳 10万円上限 
70歳以上  15万円上限

Ⅱ.高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

65歳超雇用推進助成金
Ⅱ.高年齢者評価制度等雇用管理改善コース


●助成内容
高年齢者向けの雇用管理制度の整備等に係る措置を実施した事業主に対して助成するコース(実施期間1年)

●対象となる措置
① 高年齢者の職業能力を評価する仕組みと賃金・人事処遇制度の導入または改善
② 高年齢者の希望に応じた短時間勤務制度や隔日勤務制度などの導入または改善
③ 高年齢者の負担を軽減するための在宅勤務制度の導入または改善
④ 高年齢者が意欲と能力を発揮して働けるために必要な知識を付与するための研修制度の導入又は改善
⑤ 専門職制度など、高年齢者に適切な役割を付与する制度の導入または改善
⑥ 法定外の健康管理制度(胃がん検診等や生活習慣病予防検診)の導入 等

●助成金額 
上記の支給対象経費の額に以下の助成率を乗じた額を支給
・中小企業   60% 
・中小企業以外 45%
※初回は30万円支給(中小企業以外22.5万円)
 2回目以降は支給対象経費a・b合計50万円を上限に助成率を乗じた額を支給
 a.専門家・コンサルタント経費 b.機器ソフトウェア経費

Ⅲ.高齢者無期雇用転換コース

65歳超雇用推進助成金
Ⅲ.高齢者無期雇用転換コース


●助成内容
50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業に対して助成するコース(実施期間:2年~3年)

●助成金額 
対象労働者1人につき以下の金額を支給
・中小企業   30万円 
・中小企業以外 23万円
※ 1支給申請年度1適用事業所あたり10人まで

医療機関における高齢者雇用の実際の成功事例

ここでは、実際に高齢者雇用を実践している医療機関から、以下の2つの成功事例を紹介したいと思います。

60歳定年制を改め、65歳定年・70歳継続雇用制度導入事例

●事例施設の概要
医療法人社団 五色会
【従業員数】554人
【平均年齢】60~64歳:8.6%, 65歳~69歳:2.9%, 70歳以上:1.1%
【60歳以上】12.6%

●取組のポイント
「高齢者の豊かな経験を活かし心に寄り添う医療・介護・福祉サービスを実現」
①定年年齢、雇用上限年齢を5歳引き上げ65歳定年、70歳までの継続雇用制度に
②定年・継続雇用制度改定に伴う人事管理制度の変更は行わず、モチベーションを維持
③改善提案制度を通して職場環境の改善と理事長と職員との意思疎通を円滑に

●高齢職員を活用するための工夫
①制度面の工夫:
短時間正職員制度の導入
②業務面の工夫:
機械設備の導入、高齢職員の意見を反映させた業務改善、高齢職員の体力・能力に応じた業務設定
③意識・風土面の工夫:
改善提案制度の導入と職場コミュニケーションの推進
④能力開発の工夫:
顧問制度による後継者育成、トレーナー制度の導入、若手職員とのペア就労
⑤健康対策:
永年勤続表彰の適用範囲の拡大

引用:医療法人社団 五色会 | 事例検索 | 高年齢者活躍企業事例サイト| 独立行政法人高齢·障害·求職者雇用支援機構 (jeed.go.jp)

定年制を廃止した事例

事例施設の概要
医療法人 信和会 高嶺病院
【従業員数】107人
【平均年齢】53.1歳
【60歳以上】42.0%
 
●取組のポイント
定年の廃止が看護師の人材難解消、看護技術向上にもつながる
①看護師の採用難から1992年に定年を廃止。
②その結果、高い看護技術と若手に対する指導力をもったベテラン看護師が多数応募してくるようになり、人材難の解消ばかりでなく、看護技術の底上げにも寄与。

高齢職員を活用するための工夫
①柔軟な勤務制度の導入:
本人の希望に応じて、隔日勤務、半日勤務など多様な勤務形態を認めている
②就業環境の改善:
ナースステーションを中心に病棟を配置することで動線を短縮、高齢者であっても働きやすい環境の整備
③人材育成の仕組み:
定期的に職員を集め、院長主催のカンファレンスを行い、治療や看護のあり方を確認、看護師ごとに異なった方法でアプローチすることもあったが、これによりチーム医療の質が向上

課題
①定年廃止により、人材難は解消しつつある。高齢のベテラン看護師の確保・活用に成果を上げてきたが、年齢構成のバランスに偏りがあるのも事実。
②治療において、ベテラン看護師と若手看護師が補完し合い、チーム医療をさらに活性化。

引用:医療法人 信和会 高嶺病院 | 事例検索 | 高年齢者活躍企業事例サイト| 独立行政法人高齢·障害·求職者雇用支援機構 (jeed.go.jp)

まとめ

今回は、医療機関における高齢者雇用のメリットや労働力強化に向けた具体的な実践方法について解説しました。

この先も少子高齢化は進行し続けます。医療業界において、人手不足はさらに深刻化するでしょう。

そのなかで自院を存続させていくためには、経験豊富な質の高いシニア世代を戦力としていかに確保していくかが重要課題となるのです。

今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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