医療従事者は、コロナ禍で世間から注目を集めた職業のひとつとして挙げられます。
その際、感染拡大の最前線で治療にあたった、医師や看護師などの医療職が称賛されましたが、その医療職を陰で支える職種もたくさんあります。
そのなかで、近年、重要な存在と認められているのが、診療情報管理士です。
今回は、診療情報管理士の役割や、診療情報管理士を職業にする際のメリットなどについて紹介したいと思います。
診療情報管理士の基本情報
診療情報管理士とは、どういった職種なのでしょうか。
ここでは、診療情報管理士の基本情報についてみていきたいと思います。
診療情報管理士が注目される背景
現在政府は、医療DXの推進を掲げています。医療DXとは、デジタル技術を活用して、医療全般を改革することを意味します。
そうしたなかで、医療機関個々の情報管理の重要性は、ますます高まっていくものと思われます。そうした環境において、大事な診療情報を管理する役割を担うのが診療情報管理士です。
診療情報管理士とは
診療情報管理士とは、病院で患者のカルテなどの診療情報を管理し、診療情報を分析・活用して、病院の統計資料等を作成する専門職です。
患者の大切な個人情報を守り、診療情報を病院の経営や治療に役立てるための大事な職種と言えます。
診療情報管理士と医療事務との違い
診療情報管理士は、事務系職種に分類されますが、病院事務職にも色々役割があります。
病院事務職で思いつくのは、医療事務だと思います。医療事務は、日々の受付や会計、毎月初めのレセプト請求業務などを行います。
また別に、医師事務作業補助者という職種もあります。医師事務作業補助者は、医師の事務周りのサポートを行い、医師の負担軽減を図って、医師の生産性向上に貢献する職種です。
診療情報管理士は、医療事務や医師事務作業補助者とは異なり、患者と接する機会が少ない職種となります。一般的にイメージするのが難しいですが、事務職の中では診療行為にも精通した医療職により近い診療情報の専門家と言えるでしょう。
なお、医師事務作業補助者に関しては別の記事でも説明していますので、よろしければお読みください。
診療情報管理士の仕事内容
診療情報管理士の仕事内容は、具体的に以下の項目があります。
診療情報管理士の仕事内容
①カルテに書かれた病名や各種処置を、国際疾病分類に基づいてコード付け(コーディング)
②疾患、病歴のデータや診療記録をシステム入力
③カルテ類の保管やカルテ検索システムの管理
④診療データを抽出、加工、分析し、病院の統計報告資料を作成
診療情報管理士の資格は必要か?
実際に、病院で診療情報管理の仕事をする場合、資格は必要なのでしょうか。
結論としては、必ずしも診療情報管理士の資格が必要ではありません。
ただ、専門性が高い職種なので、業務に対する知識を深めるためにも、資格はあるに越したことはありません。
病院が募集する際には、診療情報管理士の有資格者として求人募集をかけることが多いと思います。
診療情報管理士になるには
それでは、どうすれば診療情報管理士になれるのでしょうか。
診療情報管理士になるには、以下の条件が必要です。
診療情報管理士になるための条件
①通信教育修了または指定学校での単位習得
②診療情報管理士認定試験合格
①通信教育修了または指定学校での単位習得
診療情報管理士になるためには、まず診療情報管理士認定試験の受験資格を得る必要があります。
認定試験の受験資格を得るには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
●一般社団法人日本病院会の診療情報管理士通信教育を修了(2年制:基礎1年・専門1年)
●一般社団法人日本病院会の指定学校で所定の単位数を習得し卒業
なお、通信教育の受講資格として、以下の条件があります。
●2年制以上の短期大学か専門学校卒以上の学歴がある
●病院に勤務中の者は、当分の間、高卒者でもよい
②診療情報管理士認定試験合格
所定の学校で履修が得られたら、認定試験に合格する必要があります。
参考までに直近の試験概要を紹介します。
試験日程 | 2025年2月9日(日) ※毎年1回、2月に実施 |
試験会場 | 北海道、宮城、栃木、東京(2会場)、神奈川、新潟、長野、愛知、大阪、岡山、広島、高知、福岡、鹿児島、沖縄 |
受験料 | 10,000 円(税込) |
試験内容 | ①基礎分野(医療概論、臨床医学総論他) ②専門分野(医療管理総論、医療情報学他) |
合格基準 | 100点満点中60点以上 |
受験者数 (合格率) | 2024年:2,310人(72.8%) 2023年:2,457人(66.0%) 2022年:2,625人(66.7%) |
参考:一般社団法人日本病院会ホームページ
上記の資料の受験者数をみてもわかるとおり、ここ数年では受験者数が減っている反面、合格率は上昇傾向にあるようです。
2024年には7割以上が合格していますが、試験範囲が広く専門性が高い内容のため、しっかりした受験対策が必要となります。
診療情報管理士の求人状況
2024年現在、診療情報管理士の認定者数は、47,000人を超えるとされています。
医療DXの対応や、診療上のデータ利用から収益性向上の糸口にするために、各病院とも診療情報管理士の拡充を図ってきているところです。
診療情報管理士会のホームページをみると、大学病院から中小規模病院まで、様々な病院からの求人情報が多数掲載されていることが確認できます。
日本診療情報管理士会ホームページより引用
地方での人材確保は苦労している
実際に、以前担当者として採用活動をしていた感覚から言うと、やはり地方に行くほど、診療情報管理士の人材が不足しているものと思われます。
理由は、認定試験の受験の条件となる指定学校が少ないことや、そもそも職業として世間に認知されていないこと、などがあると思います。
診療情報管理士は、患者の前にあまり出ることがありませんので、前述した医師事務作業補助者よりも認知度は低いと思います。
診療情報管理士になる3つのメリット
ここでは、元病院採用担当者として感じた、診療情報管理士になるメリットについて紹介したいと思います。
①医療に貢献でき、働きがいを感じる
適正な診療情報管理は、医療安全や医療の質向上につながります。医師や病院スタッフから感謝され、地域医療にも貢献できることから、働きがいを感じることができます。
②責任ある仕事をとおして成長できる
病院が扱う多くの情報のなかでも、カルテは最も重要な情報資源となります。その重要な情報を管理するには相当の責任を伴います。その業務経験が自身に成長をもたらし、自己効力感につながります。
③スキルや経験を長く活かせる
診療情報管理士の持つ高い専門性は、病院運営において今後さらに重要視されると思います。スキルや経験を身に付ければ、自身のライフステージに合わせて、長く活用して働くことができます。
診療情報管理士に向いている4つのタイプ
ここでは、元病院採用担当者として感じた、診療情報管理士に向いているタイプについて紹介したいと思います。
①情報処理を正確に行える人
治療内容をカルテから読み取って行うコーディングや、診療記録をシステム入力する業務があります。電子カルテやPC端末を使った情報処理が得意な人に向いています。
②分析能力が高い人
診療データを抽出、加工、分析し、報告資料を作成する業務があります。分析した資料は、病院経営に活用されますので、分析能力の高い人に向いています。
③論理的に説明する能力が高い人
診療情報の分析資料は、病院経営に活用されます。医師や経営層から納得感を得るためにも、論理的に説明する能力が高い人に向いています。
④自ら学べる成長意欲が高い人
診療情報管理士は、高い専門性が求められる仕事です。資格があっても継続して知識の吸収やスキルアップを図る必要があります。自ら学習して実務に活かし、病院経営に貢献する成長意欲が高い人に向いています。
まとめ
診療情報管理士の主な業務として、カルテの適正管理やコーディング業務がありますが、採用する病院の立場から言うと、むしろ診療情報の加工・分析業務に、その能力発揮が求められていると思います。
診療情報管理士を経営に活用できている医療機関には、経営上のアドバンテージがあると言ってもいいと思います。
そして、政府は医療DXを今後も推進していくことと思われます。
そうした環境下では、診療情報管理士は病院からも社会からも求められる職種と言えます。
今回の記事が、少しでも診療情報管理士の仕事への関心につながれば幸いです。