最近ネットやメディアから、管理職が罰ゲーム化しているとか、管理職になりたくない若年層が増えている、ということを目にすることが増えました。
恐らくこれは、若い層がいまの管理職の姿を下から見ていて、自分はこうはなりたくない、と感じていることが要因の一つになっているような気がします。
この人手不足のなか、次代を担う若い世代が管理職として育たない状況は、多くの企業にとって由々しき問題だと言えます。
医療機関においても同様、マネジメント人材が育たないと、複雑化する医療制度への対応やこれから待ち受ける地域医療構想といった難題に対応できなくなります。
今回は、若者世代が管理職になりたがらない理由を探り、組織がどのように対応する必要があるのか考えていきたいと思います。
「管理職になりたい」の回答割合はやはり低下傾向
実際、管理職になりたくない若い世代はどのくらい増えているのでしょうか。
ここでは、パーソル総合研究所が毎年行っている「働く10,000人の就業・成長定点調査」にて確認していきたいと思います。
Q.「今後どのようなキャリアを考えていますか」という質問に対して(一般社員・従業員、係長相当のみに聴取)、
A.「現在の会社で管理職になりたい」と回答した割合を以下の表にまとめました。
20代 | 30代 | 医療・福祉・教育(全体) | |
2020年 | 34.6% | 29.4% | 18.3% |
2021年 | 36.4% | 29.4% | 15.6% |
2022年 | 31.0% | 26.8% | 14.5% |
2023年 | 32.2% | 27.2% | 15.4% |
2024年 | 28.2% | 23.6% | 12.1% |
※パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」をもとに筆者作成
直近5年間でみると、管理職になりたいと考えている若年層の割合が低下傾向にあることが確認できます。
この5年間で20代では6.4ポイント、30代では5.8ポイントも下がっていることがわかります。
「医療・福祉・教育」の分野では、そもそも管理職になりたい率が10%代と低く、さらに低下傾向にあることがわかります。
今後どのようなキャリアを考えていますか? – 働く10,000人の就業・成長定点調査 – パーソル総合研究所 (persol-group.co.jp)
なぜ管理職になりたくないのか?
管理職になりたい若年層が減ってきているというのは、資料から見ても確かなようです。
それでは、なぜ管理職になりたくないのか、その理由について考えていきたいと思います。
①責任の重さとプレッシャー
管理職になることへの責任やプレッシャーを回避したいという理由が考えられます。
管理職としてのスキルや経験が不足していると感じ、自身の欠如から自分が管理職としてうまくやっていけるかという不安と、自己効力感の欠如からくるものと言えそうです。
②ワークライフバランスの難しさ
管理職になると仕事量や勤務時間が増えるため、それを避けてプライベートを大切にしたいという理由が考えられます。
管理職としての責任を果たすことと、ワークライフバランス維持することの両立が難しいという側面からきています。
③人間関係の複雑化
管理職のストレスや対人関係のトラブルを避けたいという理由が考えられます。
これは、日々の業務で管理職の大変さを垣間見てのことも含まれていると思います。
職場での人間関係が複雑化しているなか、その調整を担う煩わしさから管理職を回避したいと考えます。
④現状維持の志向
現在のポジションや仕事の内容に満足しており、変化を望まないという理由が考えられます。
これは、管理職としての仕事よりも、現場に近い業務にやりがいを感じることからきている考えです。
管理職不足が組織に及ぼす影響
ここまで、若年層が管理職になりたくない理由について考えてきました。ここでは、管理職希望の人材が減ることが、組織にどのような影響を及ぼすのかについて考えたいと思います。
①組織のパフォーマンスと全体の組織力低下
スタッフに対する育成機能が低下するため、部署のパフォーマンスは下がり、全体の組織力低下を招き、事業目標に対する成果も出せなくなります。
②スタッフの成長力低下
管理職がスタッフ一人一人と関わることができる時間が減るため、成長の手助けができずに個人の成長力が低下します。
③スタッフの貢献意欲低下
上司からの動機付けが少なくなるため、スタッフの組織に対する貢献意欲が低下し、モチベーションの低下を招きます。
④スタッフの離職リスク上昇
上司との関係性が弱くなりモチベーションが下がるため、「ここにいても成長できない」との判断から、離職者が増える可能性があります。
⑤管理職の離職やメンタル不調のリスク上昇
管理職不足が続くと、今いる管理職の責任の範囲や仕事量が増えることになります。現管理職の勤務時間は増え、心身ともに疲労が蓄積されるため、体調不良や離職に至る可能性が高まります。
管理職になるメリットを確認
それでは、管理職になるメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。簡単に挙げたいと思います。
管理職になるメリット
①マネジメント能力が身につく
②裁量が広がり挑戦的な仕事ができる
③仕事へのモチベーションが向上する
④給料が上がり経済的自立が近づく
⑤経験をとおしてキャリア形成が豊富になる
管理職になることで、このようなメリットがあることを、いかにスタッフに伝えていけるかがカギになりそうです。
管理職への士気を上げるための5つの戦略
ここでは、管理職への士気を上げるために必要な5つの戦略についてみていきたいと思います。
管理職への士気を上げるために必要な5つの戦略
①研修やリスキリングによる成長の機会の提供
②管理職に対する処遇や制度の拡充
③中長期的なキャリアプランの構築・提示
④ワークライフバランス維持の体制整備
⑤開かれたコミュニケーションを重視する組織文化の醸成
①研修やリスキリングによる成長の機会の提供
スタッフが抱えるスキル不足や自信の欠如を解決する必要があります。
社内外の研修やリスキリングにより、リーダーシップやマネジメント能力向上の機会を与えることで、個人の成長を促し、管理職になることへの動機付けを行います。
こうした研修のほかでも、管理職の魅力ややりがいについて継続的にスタッフに発信し、啓蒙を図っていくことが大事になります。
また、上司との1 on 1や定期面談で、自身の長所や短所、特性について客観的に評価、改善する仕組みをつくることで、内面からも成長を促します。
②管理職に対する処遇や制度の拡充
管理職になることに対して経済的なインセンティブを付与することも考える必要があります。
例えば、管理職という責任に対する魅力的なインセンティブの付与や、責任や働きを適正に評価する業績評価制度の改善がそれにあたります。
処遇の拡充や評価制度を改善をすることで、管理職に向けての士気が上がる可能性があります。
③中長期的なキャリアプランの構築・提示
現状維持の希望に対応する必要があるため、中長期的なキャリアプランを構築し、条件面を含めて提示する仕組みを作ることが必要です。
1 on 1や定期面談では、スタッフのキャリアに対する志向を上司としっかり情報共有し、管理職で得られるスキルや経験を伝えながら、キャリア形成を支援することが大事になります。
④ワークライフバランス維持の体制整備
管理職として働きながら、スタッフが望むワークライフバランスが維持できる体制を整備できれば、管理職の負担軽減につながります。
例えば、同じ部署に複数の管理職を配置する体制を整備できれば、責任と業務量が分散しますので、休みも取りやすくワークライフバランスが維持されやすくなります。
⑤開かれたコミュニケーションを重視する組織文化の醸成
人間関係の複雑化に対応するため、透明性が高く開かれたコミュニケーションを重視した組織文化の醸成を図る必要があります。
上司との1 on 1や定期面談では、できるだけ互いが自己開示できるくらいの開かれた関係性を構築することが大事になります。
それにより、スタッフの貢献意欲やモチベーションが高まり、前向きで協力的なスタッフの育成が図れます。
管理職不足解消がもたらす効果
今回は、若い世代が管理職になりたくない理由から、組織としての対応策について考えてきました。
これまでみてきた方策によって管理職になるための士気を高め、管理職が豊富に育成できれば、以下のことが期待できるでしょう。
管理職不足解消がもたらす4つの効果
①組織の人材育成機能が高まり、組織力を向上させることができる
②スタッフの成長が促進され、個々のモチベーションが向上し、生産性が向上し、そして患者満足度向上につながる
③組織に対するスタッフの貢献意欲が高まることで、組織全体の離職率低下が図れる
④管理職の疲弊が解消されることで管理職の定着が進み、次代を担うトップ層の育成が進む
まとめ
今後の医療機関には、変化の激しい時代に自院を背負う、マネジメント能力に長けた視野の広いトップ層が必要不可欠となります。
方策として考えられることは様々ありますが、まずは今からでもできることから着手して、管理職の確保を図っていくことが大事になりそうです。
今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。