少子高齢化による売り手市場のいま、転職が当たり前の時代になってきました。
背景にあるのは、産業構造の変化や、コロナ禍をとおした職業観の変化、働き方の多様化があります。約3分の1の新卒採用者が、3年以内に離職する現実があります。
医療従事者については、以前から、キャリアアップや、ワークライフバランスを重視して、新天地へ転職するケースは珍しくありませんでした。
特に看護師は、常に売り手市場の状態です。手に職を持っている分、一般社会人よりは転職に抵抗がないのかも知れませんが、転職時の採用試験で苦労した方も少なくないのではないでしょか。
私は医療機関を退職するまで、人事担当として500人を超える医療従事者の採用試験を行ってきました。
この記事では、人事の経験も踏まえ、主に看護師の中途採用における採用試験の実態と転職時の心構え、面接のポイントについてお伝えします。
「面接アンケート」から見る看護師の転職事情
2024年7月5日付日経メディカル Online「みんなの本音は? 看護師アンケート」の特集の中で、2022年9、10月に同サイトに登録する看護師会員を対象に行われた、「面接アンケート」(回答者数:245人)の結果が掲載されていましたので、紹介したいと思います。
面接での後悔第1位は「緊張しすぎ」
Q.現在の勤務先には転職で入職したか
「はい」86%
Q.転職活動で実際に面接を受けたことがあるか
「受けたことがある」89%
Q.現在または直近の勤務先への転職で受けた面接の回数
1位:1回 86%(一次面接が最終選考)
2位:2回 11%(二次面接が最終選考)
3位:3回 2%(一次→二次→最終面接)
4位:4回 1%
Q.面接に対して不安に思うこと
1位:「予想外の質問に答えられるか」(48%)
1位:「自己アピールがうまくできるか」(48%)
2位:「志望動機をうまく伝えられるか」(44%)
3位:「入職意欲をうまく伝えられるか」(38%)
3位:「退職理由をうまく伝えられるか」(38%)
Q.面接で後悔したことはあるか
「後悔したことがある」(40%)
Q.具体的に後悔した内容
1位:「緊張しすぎた」(35%)
2位:「予想外の質問にうまく対応できなかった」(26%)
3位:「応募先の下調べなど準備不足だった」(25%)
4位:「志望動機がうまく伝えられなかった」(24%)
5位:「面接官の質問意図から外れた回答をしてしまった」(18%)
Q.面接の前に、事前準備をしてよかったことは?
1位:履歴書・職務経歴書の確認(69%)
2位:志望動機など、面接での質問に対する回答の準備(61%)
3位:服装・身だしなみの確認(51%)
4位:面接先の下調べ(48%)
5位:持ち物の確認(40%)
6位:逆質問の準備(28%)
日経メディカル Onlineより引用
アンケート結果の雑感と、採用側の本音
面接回数は1回のみが9割近くも
面接回数は1回のみ、という回答が9割近くあるというのは、私の経験からもうなずける結果でした。人手不足を抱える医療機関からすると、問題なければ基本は採用、というスタンスで面接を設定していると思います。
複数回面接して、自院に適した人材を採用できるのがベターですが、なるべく早く戦力として迎い入れたいという医療機関側の現実的な事情から、1回のみの面接になるのがほとんどだと思います。私の経験上も、ほぼ1回のみの面接で選考していました。
志望動機と退職理由をしっかりと
医療機関側は、現実的なマッチングを重視しますので、人事目線で言うと、志望動機や退職理由はしっかり聞いて評価していました。
志望動機でも、自院のホームページを見て看護理念に共感した、と回答する受験者はとても多いです。ただ、それに加えて、自分や周囲の人が患者でかかった時や、事前に下見した時に見たスタッフの患者対応の良さなど、自分で見たり聞いたりして、実際に体感したことを伝えると、面接官に刺さると思います。
逆質問は大事
「逆質問」に関しては、私の経験上でも、最後に必ず受験者に質問タイムを設けていました。
面接官への逆質問は、ないよりある方が入職の意欲を感じますので、評価上も良いと思います。自院に関心のある人に入職してもらいたいのは、採用側の素直な気持ちです。
看護師が転職で面接試験を受ける際の6つの心構え
ここでは、看護師が転職するにあたり、面接試験を受ける際の心構えについて考えたいと思います。
①指定の時間には余裕を持って向かう
交通の乱れなどにもある程度対応できるくらいの余裕があった方がいいでしょう。採用担当者も分単位で当日の予定が入っている可能性があるため、遅刻は当然厳禁です。
②早めに到着して事前に院内を観察
早めに到着できれば、院内を観察する時間が取れます。看護師は転職活動中も忙しいため、事前に下見することも難しいと思います。面接の最後に想定される、逆質問のネタ探しにもなります。
③受付や担当への声掛けは指定時間の5分前で良い
受付や人事担当者に声掛けするのは、指定時間の5分前で良いと思います。当日、採用担当者は1日のスケジュール通りに動いていますので、早すぎる声掛けは、逆に迷惑になる可能性があります。
④控室で想定問答の復習
控室で待つ時間があれば、想定問答の復習をしておいた方が安心です。時間がなければ、志望動機と前職の退職理由の2個に絞ってもいいと思います。
⑤緊張してても当たり前
面接を受ける人は大体緊張しています。
もし、面接開始後に、緊張して声が出づらいなど感じたら、「緊張しててすみません」と素直に面接官に伝えてしまってもいいと思います。素直さが好感される場合もあるかも知れません。
⑥素直な回答が好印象、背伸びせずにそのまま答える
面接での技術的な対応力より、人間性を評価しますので、背伸びせずに素直に回答する方が、評価は高いと思います。
これまでの業務経験などの質問で、事実より背伸びした回答をしても、その場の相手は看護部長や看護師長クラスなので、それとなくわかってしまうものです。
看護師の採用面接における評価項目
ここでは、採用面接の評価が実際どのように行われているのか、評価項目の一例を紹介したいと思います。
①コミュニケーション能力
②主体性
③積極性
④協調性
⑤論理的思考
⑥問題解決能力
⑦創造力
⑧向上心
⑨ストレス耐性
⑩自院への入職意欲
一般的には、質問に対する回答に対して、全体をとおしたコミュニケーション能力や、個別項目ごとに5段階評価を行い、その合計得点から面接官ごとに合否の判断を出します。
面接官同士で評価が異なる場合もありますので、その場合は改めて協議のうえ、総合的な判断から採否を決定します。
看護師採用面接の流れの一例
ここでは、私が実際に個人面接の進行をしていた際の、主な流れについて共有したいと思います。
①面接開始(面接官:看護部長・副看護部長・人事担当)
②面接官自己紹介(役職と氏名)
③受験者自己紹介(名前を名乗る)
④【人事担当】これまでの経歴を教えてください
⑤【看護部長】当院を受験した志望動機を教えてください(退職理由含む)
⑥【看護部長】これまでの担当業務、得意分野、委員会活動、リーダー経験の有無、目指す看護像、当院での希望部署などについて質問
⑦【人事担当】長所と短所をそれぞれ教えてください
⑧【人事担当】特技・趣味、友人関係などについて質問
⑨【人事担当】自院への入職時期の確認(現職の退職時期や退職の確約状況含む)
⑩【人事担当】最後に何か病院に対して質問はありますか
⑪面接終了(終了まで15~20分)
活字にするとかしこまった質問の印象を受けると思いますが、面接試験というより、入職前の面談、のような雰囲気を心掛けて行っていました。
面接の回答ポイントと面接官の視点
ここでは、面接でよくある質問に対する回答のポイントや採用側の視点について、具体的にみていきたいと思います。
①志望動機
採用面接の定番の質問です。ホームページを見て看護理念に共感した、と回答する受験者はとても多いですが、それだけだと面接官に刺さりません。
それに加えて、なぜ共感するのか、自身が看護師として経験した具体例などを交えて伝えることが大事です。
実際に自身で体感したことは、面接官に刺さりやすいと思います。自分や周囲の人が患者でかかった時に、受験先のスタッフの対応が良かったことなども挙げられます。
②前職の退職理由
転職活動において、最もカギになる質問です。看護師不足を抱える医療機関は、現実的なマッチングを重視します。要は、自院に入職してから、周りとうまくやっていけるか、すぐに辞めたりしないか、ということを面接官は考えます。
前職での就業期間が短い場合、短期での就業を何件か繰り返している場合は、特に注意深くなります。
人間関係を苦にして辞めた、仕事量が多く残業が多くて辞めた、などが現実の理由だとしても、今後は、どのような意識を持って、どのような振る舞いで働いていきたいのか、ポジティブな面を伝えないと、厳しい評価になりかねません。
③職務経歴・希望部署
ここで聞かれるのは、前職での配属先、看護体制、担当業務、得意分野、委員会活動、リーダー経験の有無、目指す看護像、希望部署などです。
事前準備の段階で、少なくともこれらのことは説明できるように、頭の中で整理しておいた方がいいと思います。面接官は、即戦力として迎い入れたい思いがありますので、希望部署も聞かれることを想定して、回答をイメージしておきましょう。
繰り返しますが、ここで気を付けたいのは事実より背伸びをした回答をしないということです。その場の相手は看護部長や看護師長クラスなので、前職の就業先の規模や配属、経験年数などから、背伸びした回答をしても、それとなくわかってしまいます。
たとえその場をやり過ごせたとしても、入職後にいずれわかってしまうので、働きづらくなってまた転職、という羽目にもなりかねません。ありのままを伝えることが大事です。
④自己PR(長所と短所)
採用側は、受験者の人柄に関する情報を得たいのと、自身の性格を客観的に分析できているかどうかを見ています。自院で採用した場合に、どの業務でその能力や人柄を活かせるのかを想像します。
私の経験上では、受験者の短所も尋ねることで、受験者のネガティブな情報も引き出していました。素直に回答するのが基本ですが、仕事を背負いすぎる、失敗を引きずる、という真面目過ぎる印象を与える回答は、評価しづらいというのが採用側の本音です。
ここでも、ポジティブな面を伝えることが大事です。例えば、失敗を引きずる性格だと認識しているので、そうならないように先輩や周りの同僚によく相談するようにしています、という回答が考えられます。
⑤趣味・特技・友人関係
これは、受験者のストレス耐性や協調性を判断する質問です。受験者の素の部分が出がちなため、ここで、面接の場の空気が穏やかになることが多いです。
オフの時間をどのように過ごしているのか想像して、オンとオフの切替がしっかりできるのか、心身ともに元気に働いてくれるかを判断します。
友人関係の質問では、友人の人数やグループ内での自身の立ち位置を聞いて、自院に採用した場合の人間関係を想像します。友人が少ない場合でも、よく旅行に行く深い仲であることなど、その友人との付き合い方を素直に伝えればいいと思います。
⑥入職時期
看護師不足を抱える医療機関は、現実的なマッチングを重視しますので、希望時期が早いとその分ポイントが上がる場合もあるとは思います。
ただ、現職の退職時期にも大きく影響するので、退職確定前なら、現時点の希望である旨を採用側にしっかり伝えるか、退職の確約を得てから正確な入職日を伝えることが大事です。
⑦逆質問(最後に一言)
恐らく、面接の最後に逆質問の機会が与えられると思います。あくまでも、お互いに疑問点を残さないための時間になりますが、ここではしっかりと準備をしておいて入職意志をアピールしたいところです。
実際によく聞かれた質問の代表例を2つ挙げておきます。
「入職までに勉強しておいた方がいいことはありますか?」
「貴院の教育体制を具体的に教えていただけますか?」
採用側からすると、自院への入職意欲として評価につなげる場合もありますので、志望先に合わせた質問を前もって準備しておきましょう。
緊張してても自然体で素直な回答が評価される
看護師不足の多くの医療機関にとって、面接は、落とすための試験ではなく、迎え入れるための機会として考えていると思います。
難しく考えずに、自然体で受けてもらう方が、お互いにとってメリットがあると思います。背伸びせずに素直な回答をすることが、結局は自身のキャリアを有意義なものします。
緊張してても大丈夫です。面接を受ける人は、ほぼ全員緊張しています。繰り返しますが、もし、面接開始後に緊張を感じたら、「緊張しててすみません」とその場で素直に打ち明けてしまいましょう。それでその場が和んで、穏やかに面接が進んでいったのを私は何度も見てきています。素直さが評価される場合もあるのです。
まとめ
私は医療機関で数多くの面接を行ってきましたが、多くの医療機関は、喉から手が出るほど看護師を必要としているのが現状です。繰り返しますが、面接は落とすための試験ではなく、あくまでも迎え入れるためのマッチングの機会です。
キャリアに対する志向や、これまでの経験を活かすうえで、自分に適した病院が見つかったら、試験と難しく考えずに、自然体で受けてもらうのが、お互いにとっていいと思います。
面接はあくまでもお互いのマッチングのための機会であるため、縁や相性といった要素が大事になります。背伸びせずに素直な回答をすることが、結局は自身のキャリアを有意義なものにする理由となります。
今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。