産業構造の変化や、少子高齢化による人手不足などもあり、いま転職市場が活気を帯びています。
巷では人材サービス業界の宣伝が溢れ、テレビCMやネット広告などで見ない日はないと言ってもいいくらいです。
人材サービス業界のなかには、医師や看護師など、医療職種に特化したサービスを行っている業者もあります。特に看護師は、転職先に関する有力な情報源として、すでに利用された方も少なくないかも知れません。
今回は、看護師に関する人材紹介会社(転職サイト)の利用状況や、利用によるメリット、注意点などについて考えたいと思います。
看護師による人材紹介会社の利用状況
ここでは、看護師が転職時に利用する、人材紹介会社(転職サイト)の利用状況についてみていきたいと思います。
まず、公益社団法人全日本病院協会が発表した「雇用における人材紹介会社に関するアンケート―調査報告―」(2020年10月1日)から、看護師が就職する際のルートについて確認していきます。
常勤看護職(准看護師を含む) 新規雇用ルート
看護師が就職する際のルートの1位は直接応募で全体の約3分の1、2位が紹介会社(転職サイト)で全体の約4分の1を占めていることが、以下の順位からわかります。
●常勤看護職(准看護師を含む) 新規雇用ルート(人数割合・全体5,322名)
1位 直接応募(説明会・広告・HP) 32.6%
2位 紹介会社 24.8%
3位 ハローワーク 10.3%
4位 知人紹介 7.1%
5位 ナースバンク 2.4%
公益社団法人全日本病院協会ホームページより引用
医療機関による人材紹介会社の利用状況
次に、公益社団法人全日本病院協会が2020年5月に実施した、「病院の人材紹介手数料」に関するアンケート調査(有効回答数328病院)から、医療機関側の利用状況を確認したいと思います。
人材紹介会社利用率(医療機関)
「人材紹介会社利用率」は、全体の利用率が73.5%であるのに対し、看護師の利用率が77.6%であり、全職種の中で最も利用率が高い結果となっています。ここでは、上位3職種のみ抜粋して掲載しています。
・全 体 「利用あり」 73.5% 「利用なし」 26.5%
・職種別 ①看護師77.6% ②医師38.2% ③看護補助者29.5%
平均手数料(医療機関)
「平均手数料」は、最も多いのが医師で1人当たり351.7万円、次に多いのが看護師で1人当たり76.0万円との結果が出ています。(利用率の上位3職種のみ抜粋)
・職種別 ①看護師76.0万円 ②医師351.7万円 ③看護補助者43.3万円
1年以内離職率
人材紹介会社を利用した看護師のうち、5人に1人が、1年以内に退職している結果となっています。(利用率の上位3職種のみ抜粋)
・職種別 ①看護師20.3% ②医師15.8% ③看護補助者33.5%
公益社団法人全日本病院協会ホームページより引用
就職ルートで異なるそれぞれの特徴
前述した看護師が就職する際の、新規雇用ルートを参考に、それぞれのルートの特徴をみていきたいと思います。
就職ルート別、特徴の早見表
まず、それぞれのルートについて、以下の項目に関する評価を一覧表にまとめました。
情報量 | スピード感 | サポート | 採用側コスト | |
直接応募 | × | 〇 | × | 〇 |
紹介会社 | 〇 | × | 〇 | × |
ハローワーク | △ | × | △ | 〇 |
知人紹介 | × | 〇 | × | 〇 |
ナースバンク | △ | × | 〇 | 〇 |
就職ルート別、メリット・デメリット
ここでは、それぞれの就職ルートについて、メリットとデメリットを挙げていきたいと思います。
1.直接応募
(メリット)
他のルートに比べ、主体性を持って就業先を決められることが特徴です。直接希望の医療機関とやり取りするため、うまく進めば早期の就業が可能です。
(デメリット)
幅広く情報を入手することが難しく、希望先のリサーチの効率が悪いことが特徴です。サポートがないためキャリアの視野が広がらず、自身の市場価値も不明な状態で、面接の段取りも全て自分で行う必要があります。就業しながらの転職活動の場合、時間の制約が生じることに注意しなければいけません。
2.人材紹介会社(転職サイト)
(メリット)
他のルートに比べ、情報量が多いというのが特徴です。人材サービス会社から担当サポートがつくため、自身の経験や希望条件から、ふさわしい医療機関を見つけてくれます。一般的には、面接の段取りや条件交渉も担当者からしてくれます。
(デメリット)
サポート担当者の能力にバラツキがあることや、担当者との相性が悪いとストレスになる可能性があります。自分の希望とは異なる候補先の紹介もあるかも知れません。自分の意志をしっかり持ちながら就職活動を行うこと、最終決定は自分で責任を持つことが大事です。採用側にコスト(看護師1人当たり76.0万円)がかかるというハードルがあることも、認識しておく必要があります。
3.ハローワーク
(メリット)
他のルートに比べ、地域の求職情報がまとめて得られることが特徴です。ハローワークの担当者によるサポートがあり、自身の経験や希望条件から、求人中の医療機関を見つけてくれます。自分でインターネットで検索することも可能です。
(デメリット)
地域の医療機関に限られるため、転職サイトよりも情報の幅も量も少なくなります。面接の段取や条件交渉は自分で行う必要があるため、転職サイトよりも手間がかかります。
4.知人紹介
(メリット)
他のルートに比べ、知人の生の情報により、候補先のリアルな雰囲気や職場環境がわかることが特徴です。知人を介しているため、職場の雰囲気になじみやすいことも挙げられます。
(デメリット)
選択肢が狭く、幅広く就業先を選べないことが特徴です。就業後の条件があいまいになる可能性があるため、事前に条件確認を怠らないことが大事です。知人を介しているため、知人や就業先への気遣いなど、精神的な配慮が必要になるかも知れません。
5.ナースセンター
(メリット)
他のルートに比べ、信頼性の高い情報がまとめて得られることが特徴です。都道府県の看護協会が運営しているため、看護師としてのキャリアのサポートを幅広く受けることができます。看護専門担当者によるサポートがあり、自身の経験や希望条件から、ふさわしい医療機関が見つけられます。自分でもインターネットから検索をかけて直接希望先に連絡を取ることもできます。
(デメリット)
転職サイトに比べると情報量は限られます。ハローワークと同様、面接の段取や条件交渉は自分で行う必要があるため、転職サイトより手間がかかります。
人材紹介会社なしには病棟運営は困難
これまでみてきたとおり、就職ルートにはそれぞれ一長一短があり、就業先を決める看護師は、とても悩ましいと思います。
採用側に目を向けると、私が医療機関で勤務していた当時、採用担当者として感じていたのは、人材紹介会社(転職サイト)は、コストはかかるものの、病院にとって不可欠な存在のため、言葉を選ばず言うと、「必要悪」であるということでした。
都市部の医療機関で採用担当をしていた際には、常に看護師不足を抱えていましたが、採用する看護師の7~8割は人材紹介会社からのものでした。これがなければ病棟運営は継続できませんでしたので、人材紹介会社を利用せざるを得ない状況でした。
採用コストの増大で、経営にも負の影響が
確かに採用コストは高いです。前掲の資料では、看護師1人当たり76万円と紹介しましたが、個人的には看護師1人100万円のコストを覚悟しながら、採用活動を行っていました。
コストの計算方法は、一般的には、「採用する看護師の想定年収×20~30%」で算出されます。1人100万円のコストであれば、その看護師の想定年収は500万円の計算となります。既卒数年の経験者で、病棟勤務を想定すると、それ位の年収が想定されます。
「採用側にコストがかかることがハードルになる」ということを前述しましたが、能力や条件が全く同じの看護師AとBが応募してきて、人材紹介会社経由の候補者Aと、直接応募の候補者Bがいれば、候補者Bが採用される可能性は大きいと思います。採用コストの増大は、経営にも負の影響を与えます。
この影響もあってか、2021年から厚生労働省が「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」というものを始めました。適正な業者を認定し、「見える化」することで、医療機関が適正な業者を選定しやすくしています。
まとめ
人材紹介会社を利用する場合、看護師側にも医療機関側にも、双方にメリットとデメリットがあります。
当然、その他の方法にも良し悪しがありますので、就職や転職活動の方法を決めるには、時間的な制約、キャリアの方向性、自身の性格などを勘案して、それぞれのメリットをうまく使い合わせながら、最善な方法で進められることが望まれます。
今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。