病院事務職のキャリア形成の胆が「キャリアドリフト」である理由とは

右上がりの折れ線矢印を指すイラスト

病院事務職のキャリアパスには、わかりやすい2つの道があると思います。

皆さんが病院事務職なら、どちらを選びますか?

  • 総務や経理のジェネラリストとして経験を積み、行く行くは病院全体のマネジメントを志向する道
  • 医事のスペシャリストとして経験を積み、医療現場の近いところで診療報酬を極める道

筆者の場合で言うと、❶の道を志向していましたが、その途中で横道に逸れたかたちになります。

筆者は新卒採用から27年間、医療業界に携わってきました。

そして、2024年4月、長年勤めてきた医療業界を後にして、社労士として独立開業しました。

今回は、主に筆者の事例を紹介しながら、病院事務職のキャリア形成におけるキャリアドリフトの重要性について考えていきたいと思います。

目次

病院事務職のキャリア形成の一例

5人のフィギアと「キャリア形成」と吹き出す文字のイラスト

冒頭でも触れたとおり、筆者は新卒から27年間医療業界で働いてきました。

首都圏や地方都市の病院・健診施設にて、総務9年、経理5年、健診部門に12年在籍しました。その他、法人本部での勤務も1年余り経験しました。

ここでは、病院事務職のキャリア形成をイメージするうえで、筆者がたどった医療業界におけるキャリアの変遷について紹介したいと思います。

筆者のキャリアの変遷を公開

さっそく筆者のキャリアの変遷を以下の表にまとめましたので、ご覧ください。

スクロールできます
勤務施設所属:主な業務
駆出し期
(1年目~)
1.都内の中規模病院総務(労務、諸手当)
中堅期
(4年目~)
2.地方の健診センター


3.関東の健診センター
管理(未収金管理)
→企画(渉外業務)
→業務(巡回健診)
業務(巡回健診)
係長期
(13年目~)
4.都内の中規模病院
5.本部勤務
6.都内の中規模病院
経理(現預金管理、決算)
事業(運営施設調整)
経理(現預金管理、決算)
→総務(人事・労務)
管理職期
(23年目~)
7.関東の中規模病院医事・健診(運営企画)
→総務(人事・労務)
筆者の医療業界27年間のキャリアの変遷

採用当初は病院勤務に固執

元々筆者は、新卒で、医療施設や宿泊施設を運営する公益法人に就職しました。

過去に自身の入院経験もあったため、採用内定の時から病院勤務を希望していました。

希望どおり都内の病院勤務となり、1年目は総務部門に配属になります。当初から、病院の事務全般ができるようになりたい、というおおまかなイメージはありました。将来的に病院組織の上層部に身を置いた時でも、様々な仕事に対応できるようにと。

配属1年目から、病院事務の本質を知るには医事部門を経験すべきと思い、人事異動の意向調査では医事課志望と記載していました。

さらに、総務業務の標準的な知識も得ようと、社労士資格の勉強も始めました。

地方転勤を契機に想定外の方向に進む

しかしこの後、自分の想い描いていたキャリアデザインとは違う方向に向かうことになります。

都内の病院での総務勤務3年目が終わりかけた矢先、遠方への異動の内示が出てしまいます。社会人4年目から、地方都市の健診施設に異動することになりました。

自分にとって全く予想外で計画外の人事異動でした。

結局、この地方都市の健診施設に6年在籍することになります。そして次の人事異動でも関東の健診施設に異動となり、そこでは3年間勤めることになりました。

自分のキャリアの3分の1となる計9年間を、計画外の健診施設で過ごすことになったのです。

しかし今思うと、この健診施設での9年間の勤務経験があったからこそ、長年勤めた医療業界から「独立」の道へとキャリアを転換できた理由になっているのだと、後からつくづく思うのです。

病院事務職におすすめするキャリア形成上の5つのステップ

「STEP」と書かれた積み木4段と赤文字で「UP!」と書かれたイラスト

キャリア形成の5ステップを紹介

ここで筆者がお勧めしたい、病院事務職がキャリア形成を考える際の5ステップを紹介したいと思います。

  • STEP1:
    必要な知識・考え方を取り入れる(「キャリアアンカー」「キャリアデザイン」「キャリアドリフト」)
  • STEP2:
    これまでの経験や業務の棚卸をする
  • STEP3:
    「キャリアアンカー」で、自分の仕事上の強みや適性、価値観について内省を深め、自分のタイプを認識する(自己分析)
  • STEP4:
    自身の「キャリアデザイン」をイメージし、設計し、実行に移していく
  • STEP5:
    設計した「キャリアデザイン」を実現していくなかでも、デザインと異なる業務にも意義を見いだし、将来の資源にする

上記の5ステップで紹介した「キャリアアンカー」・「キャリアデザイン」・「キャリアドリフト」の説明と、それらの関係性について、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてお読みください。

キャリアアンカーとは?

筆者個人で言うと、紹介した5つのステップの流れは、キャリアをとおして概ね実践できていたような気がします。

キャリアの節目節目で、その時どきの自分の価値観を再認識するようにしていたのですが、STEP3の「キャリアアンカー」の知識がなかったので、もしかしたら自己分析は中途半端なものになっていたのかも知れません。

キャリアアンカーとは、自分のキャリアを形成するうえで指針や目標、価値観のことを言います。つまり、仕事をしていくうえで譲れないものを指します。

当時の自分を振り返ると、筆者自身は下表で示す「キャリアアンカーの8つのタイプ」でいうところの②経営管理能力志向が強く示されていたと感じます。

①技術的・専門的能力志向ある特定の仕事のエキスパートであるときに満足感を覚えるタイプ
②経営管理能力志向組織内の統率や権限の行使に幸せを感じるタイプ
③自主性・独立性志向自分のペースと裁量で仕事を自由に進めたいタイプ
④保障・安全性志向安全で安定したキャリア構築を目指すタイプ
⑤起業家的創造性志向リスクを恐れず、自分の努力による達成を目指すタイプ
⑥他者・社会への貢献志向自分にとっての中心的価値のためなら他のすべてを捨てることができるタイプ
⑦チャレンジ志向人との競争、目新しさ、変化、困難さを好むタイプ
⑧ライフスタイル志向仕事と家庭のバランスを優先するタイプ
キャリアアンカーの8つのタイプ

「キャリアドリフト」と「計画的偶発性理論」

木目のブロックで「CHANGE」は「CHANCE」を表現したイラスト

筆者のキャリアを後から考えると、元々計画していた「キャリアデザイン」に加えて、その後の業務に結果的に活きることになる「キャリアドリフト」による意義深い機会が重要になっていたと考えます。

このキャリアドリフトによってもたらされた機会こそが、現在の「独立」というキャリアチェンジを方向付けた要因になっているのです。

キャリアドリフトとは?

それでは、キャリアドリフトとはどのようなことを言うのでしょうか。

そもそも「ドリフト」という言葉には「漂流」という意味があります。

言葉どおり、キャリアドリフトとは、キャリアの大きな方向性だけを決め、流れに身を任せるなかで、結果としてできあがっていくキャリア理論のことです。

キャリアドリフトは、経営学者の金井壽宏氏が提唱した理論です。

金井氏は、「キャリアデザイン」と「キャリアドリフト」の両方を兼ね備えていくことが重要だと指摘しています。

計画的偶発性理論とは?

キャリアドリフトに似た考え方に、「計画的偶発性理論」というキャリア理論があります。

これは、アメリカの教育心理学者であるジョン・D・クランボルツ名誉教授が提唱したものです。

クランボルツ氏は、

「個人のキャリアの80%は、予想できない偶発的な出来事によって成り立っている。その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを創造していくことが重要である。」

と理論を展開しています。

要は、自分のキャリアを充実させていくために大事なことは、デザインされたキャリアの合間合間で起きる予期せぬ仕事を真摯に対応し、将来への糧にしていくことにあるのです。

キャリアは「ドリフト」することで将来の貴重な資源を獲得できる

海岸に打ち上げられたシーグラスの画像

全てをデザインすることは不可能

キャリアデザインは大事ですが、全てをデザインすることは不可能です

なぜなら、自分のキャリアを完全にデザインできるほど、人は合理的ではないからです。

筆者個人も、様々な地域で、様々な仕事をしてきましたが、配属前に自分にはかなり難しいと思う仕事もありました。具体的には、健診施設における営業や、健診バスを運転しての巡回健診がそれにあたります。

それらの仕事を経験したこと、また、その状況を乗り越えたことが、あとになって自分に対する自信になりました。つまりそれは、どんな仕事が降り注いでも大丈夫だという自分への自信です。

自分にとって想定外で多様な経験を積むことができた結果、最終的には病院で管理職経験までさせていただくことができ、今こうして独立開業の道に進むことができたと考えています。

人事異動を好機ととらえる

筆者自身の経験を振り返ったとき、キャリア形成に関する実感はこの2点になります。

  1. キャリアは「デザイン」するだけでは不十分
  2. キャリアは「ドリフト」することで柔軟性や広い視野を身に着けることができる

病院事務職は、病院組織の部門間、職種間の調整役を何より期待されています。

今後の地域医療構想や働き方改革などの対応を考えると、人事異動を好機ととらえ、変化への対応力や柔軟性を身に着けていくことが重要であると考えます

病院事務職のキャリアの特徴や期待される役割に関して、以下の2つの記事で詳しく解説していますので併せてお読みください。

まとめ:筆者の経験を踏まえた病院事務職のキャリア形成上のポイント4つ

ブロックで「まとめ」と書かれたイラスト

今回は、筆者のキャリアの変遷を紹介しながら、病院事務職のキャリア形成におけるキャリアドリフトの重要性について考えてきました。

筆者個人の話ばかりになってしまいましたが、最後に今回のポイントをまとめたいと思います。

  1. 「キャリアデザイン」は大事だが、全てを「デザイン」することは不可能
  2. キャリアは、「デザイン」するだけでなく、「ドリフト」することにより、柔軟性や広い視野を身に着けることができる
  3. 病院事務職に求められるのは、組織の部門間、職種間の調整役
  4. 地域医療構想や働き方改革など今後の対応を考えて、人事異動を機に、自ら変化への対応力や柔軟性を身に着けていくことが重要

ジェネラリストの道か、スペシャリストの道か。

最初にお尋ねした病院事務職の2つの道は、どちらの道を志向したとしても、その道に固執せず、偶然訪れた経験を自分のものにして、計画していた将来のキャリアに活かすこと

これが、今後の病院事務職のキャリア形成を成功に導く胆になりそうです。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、健康経営アドバイザー、ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。医療に携わる方々の働きやすさを、労務からサポートします。

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