「日野人げんき!」プランからみる日野市のヘルスリテラシー

いま、健康志向の高まりやインターネット・SNSの発達によって、世の中に健康に関する情報が氾濫している状況です。

しかし、我々日本人のヘルスリテラシーは、他国に比べて低いと言われていることはご存知でしょうか。

日本人のヘルスリテラシーの低さについては、別の記事でも取り上げたところですが、さらに気になるのは、私の地元・日野市の状況です。

今回は、「日野人げんき!」プランをとおして日野市におけるヘルスリテラシーの現状と、日野市の取り組みについてみていきたいと思います。

目次

日本人のヘルスリテラシーは低い?

ヘルスリテラシーとは?

そもそもヘルスリテラシーとはどのようなことを言うのでしょうか。

ヘルスリテラシーとは、健康や医療の情報を「入手」「理解」して「評価」「意思決定」できる力のことを言います

聖路加国際大学大学院看護学研究科・中山和弘氏らの調査によると、欧州8か国、アジア6か国と日本を比較すると、日本のヘルスリテラシーが最も低い結果になったとのことです。

参考:健康を決める力:ヘルスリテラシーを身につける (healthliteracy.jp)

日本人のヘルスリテラシーが低い理由とは?

それでは、なぜ日本人はヘルスリテラシーが低いのでしょうか。

その理由として、中山和弘氏は以下の点について指摘をしています。

  • 日本には家庭医が少ない
  • 日本には総合的な健康情報サイトが不足している
  • 日本ではテレビや新聞の信頼度が高く、インターネットの信頼度が低い

上記の理由などから、日本人は健康や医療の情報を「入手」「理解」できたとしても、他国と比べて、「評価」「意思決定」するのが難しい傾向にあるとされています。

日本人のヘルスリテラシーについては、以下の記事で詳しく取り上げていますのでよろしければお読みください。

「日野人げんき!」プランから日野市のヘルスリテラシーを探る

前述したとおり、日本人全体ではヘルスリテラシーが低いことが確認できました。

それでは、日野市のヘルスリテラシーの状況はどうなっているのでしょうか。それを確認するために、今回、日野市における健康・医療に関する取り組みを調べてみることにしました。

第4期「日野人げんき!」プランの概要

日野市のホームページによると、日野市では、2021年7月に第4期「日野人げんき!」プランを策定しています。

ここでは、このプランの概要について簡単に確認し、次項から詳しくプランの内容をみていきたいと思います。

第4期「日野人げんき!」プラン(概要)

【期間】2021年度~2025年度の5年間

【目的】 健康寿命の延伸のための取り組みの推進

【取組みの方向】 ヘルスケア・ウエルネス戦略

第4期「日野人げんき!」プランを策定しました|日野市公式ホームページ (hino.lg.jp)

「日野人げんき!」プランとは

それでは、この「日野人げんき!」プランとは、いったいどのようなものなのでしょうか。

「日野人げんき!」プランとは、「健康日本21」を基に策定された「東京都健康推進プラン21」の趣旨を踏まえ、日野市の健康増進計画として策定されたものです。

元々は、2003年に最初のプランが示されました。それから20年以上経過していますが、今回のプランは、より健康寿命延伸のための取組に特化したものと言われています。

「65歳健康寿命」を取り入れる

「日野人げんき!」プランの目的は、市民の健康寿命の延伸にあります。

健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活に制限のない期間の平均」とされています。健康寿命を算出するにあたっては、世界保健機関(WHO)や厚生労働省などでそれぞれ異なる算出方法を採用するのですが、東京都もまた異なる算出方法として、「65歳健康寿命」という考え方を重視しています。

日野市では、東京都が目指すこの「65歳健康寿命」を取り入れています。

「65歳健康寿命」の考え方は以下のとおりです。

「65歳健康寿命」とは…

現在65歳の人が、何らかの障害により要介護認定を受けるまでの状態を「健康」と考え、要介護認定(要介護2以上)を受けた年齢を平均的に表したもの。

参考:東京都健康推進プラン21(第三次)

なお、健康寿命に関しては、別の記事で詳しく取り上げていますのでよろしければお読みください。

「ヘルスケア・ウェルネス戦略」をベースに取組を推進

健康寿命を延ばすために、日野市は「ヘルスケア・ウェルネス戦略」をベースに取組を推進するとしています。

このヘルスケア・ウェルネス戦略は、医療費増加・少子高齢化進行による未来の困難を乗り越えるため、市が掲げた「主要3戦略」のうちの1つとなります。

その「主要3戦略」とは、以下のとおりです。

日野市が掲げる「主要3戦略」
  • 人口バランス・定住化促進戦略
  • 産業立地強化・雇用確保戦略
  • ヘルスケア・ウェルネス戦略

第4期「日野人げんき!」プランには3つの大目標がある

ここでは、第4期「日野人げんき!」プランの内容について、もう少し詳しくみていきたいと思います。

前述したとおり、日野市は、このプランの目的として「健康寿命の延伸のための取り組みの推進」を掲げています。

そして、そのプランの大目標として、以下の3項目を掲げています。

第4期「日野人げんき!」プラン
【目的】 健康寿命の延伸のための取り組みの推進
        ↓
大目標1:健康づくりを推進します 
大目標2:がん対策を推進します
大目標3:歯とお口の健康づくりを推進します

大目標1:健康づくりを推進します

第4期「日野人げんき!」プランの「大目標1:健康づくりを推進します」には、さらに中目標が3項目掲げられています。

「大目標1:健康づくりを推進します」における中目標

①感染症対策
②生活習慣病予防の推進
③高齢者の健康づくりを地域で支援

特定健康診査受診率は低下傾向

前掲したとおり「大目標1:健康づくりを推進します」には、中目標が3項目掲げられていることがわかりました。

そして、この中目標3項目について、筆者が個別に現状確認したところ、中目標②「生活習慣病予防の推進」に関して気になる傾向がありました。

その気になる傾向とは、下記のとおり、特定健康診査受診率が2014年度以降低下していることにあります。

しかも、2014年度から2019年度の5年間で一貫して低下しています。

また別に、直近2022年度の本プランにおける進捗報告をみても、特定健康診査受診率がさらに低下していることが確認できました。

特定健康診査受診率
※一貫して低下

●2014年度 49.0%
       ↓
●2019年度 46.4% 
       ↓
●2022年度 44.7%

大目標2:がん対策を推進します

第4期「日野人げんき!」プランの「大目標2:がん対策を推進します」にも、中目標が3項目掲げられています。

「大目標2:がん対策を推進します」における中目標

①がん予防推進
②がんの早期発見推進
③がんとの共生を図る

がん検診の受診率が低い

「大目標2:がん対策を推進します」の中目標で注意点として挙げたいのは、がん検診の受診率の低さです。

がん検診の受診率については、以下のとおり目標の受診率50%に対して、いずれも大きく下回っていることがわかります。

2019年度がん健診受診率(目標50%
※全て目標を下回る

●胃 4.4%
●肺 3.6%
●大腸 33.9%
●子宮頸 13.5%
●乳 20.2%

精密検査の受診率も低い

前項ではがん検診自体の受診率の低さを指摘しましたが、精密検査の受診率の低さも気になるところです。

以下のとおり目標の90%に対して、乳がん検診(96.0%)だけしか目標を達成していません。最も受診率が低いのは大腸がん検診の61.4%となります。

また、直近2022年度の本プランの進捗報告をみてみると、大腸がん検診は50.6%の受診率とさらに低下していることが確認できました。

2017年度精密検査受診率(目標90%) 
※「乳」以外目標を下回る

●胃 86.7% 
●肺 85.0% 
大腸 61.4%←最低 
●子宮頸 79.2% 
●乳 96.0%

大目標3:歯とお口の健康づくりを推進します

そして最後、「大目標3:歯とお口の健康づくりを推進します」にも同様に中目標が3項目掲げられています。

「大目標3:歯とお口の健康づくりを推進します」における中目標

①【妊娠期】
妊娠期からかかりつけ歯科医を持ち、母子共に健康なお口を育てられるよう推進します

②【乳幼児期】
むし歯のない健康なお口を持つ子供の育成に取り組みます

③【学齢期・成人期】
子どもの歯肉炎予防、成人の歯周病予防に努めます

④【高齢期】
口腔機能の維持向上を推進します

かかりつけ歯科医を決めてない妊婦の割合が低下している

「大目標3:歯とお口の健康づくりを推進します」の中目標で注意点として挙げたいのは、かかりつけ歯科医を決めてない妊婦の割合の低下です。

日野市妊婦歯科健康診査の問診によると、かかりつけ歯科医を決めてない妊婦が2019年度で62.0%でしたが、直近2022年度の本プランの進捗報告では、54.4%に低下しています。

かりつけ歯科医を決めてない妊婦
※割合低下

●2019年度 62.0%
       ↓
●2022年度 54.4%

高齢期の歯科検診受診率が低下している

大目標3の中目標でもうひとつ注意点として挙げたいのは、高齢期における歯科検診の受診率低下です。

特に高齢者は、口腔内が不衛生になりやすく、誤嚥性肺炎や窒息、低栄養のリスク要因ともなりますので、日野市は高齢者の口腔機能の維持向上を課題の一つに挙げています。

高齢期の歯科検診受診率
※受診率は低下傾向

歯周病検診受診率
 2014年度 12.1%
       ↓
 2019年度 8.9%

後期高齢者歯科検診受診率 
 2019年度 9.6%
       ↓
 2022年度 8.2%

第4期「日野人げんき!」プランの主要データまとめ

第4期「日野人げんき!」プランでは、日野市の健康に関する各種資料が掲出されていますが、そのなかでも筆者が個人的に気になったデータ(主に2019年度実績)を抜粋してまとめました。

第4期「日野人げんき!」プランの主要データまとめ

65歳健康寿命(2019年度)
 ・男性 83.55歳(東京82.93歳) 
 ・女性 86.38歳(東京86.02歳) 

死亡者数(2019年度) 
 ・男性 847人
 ・女性 803人

死因(2019年度)
 1位 悪性新生物 454人
 2位 心疾患 251人
 3位 老衰 187人
 4位 脳血管疾患 118人
 5位 肺炎 116人

現在、健康に関する情報は何から得ているか
 1位 テレビ・ラジオ 78.9%
 2位 新聞・雑誌・本 48.1%
 3位 インターネット 43.4%
 4位 医療機関・薬局 26.7%
 5位 友人・知人 20.8%

がん健診受診率(目標50%)(2019年度)
 ・胃 4.4%
 ・肺 3.6%
 ・大腸 33.9%
 ・子宮頸 13.5%
 ・乳 20.2%

精密検査受診率(目標90%)(2017年度)
 ・胃 86.7%
 ・肺 85.0%
 ・大腸 61.4%
 ・子宮頸 79.2%
 ・乳 96.0%

日常の運動習慣 
 1位 週2日以上 66.8%
 2位 運動はしていない 14.6%
 3位 週1日程度11.6%

なお、日野市の医療資源の状況に関して、以下の記事で詳しく取り上げていますのでよろしければお読みください。

日野市のヘルスリテラシーで気になった2つのこと

ここまで、第4期「日野人げんき!」プランを中心に、日野市民のヘルスリテラシーの一端についてみてきました。

新型コロナ発生前後のデータが中心でしたので、日野市民のヘルスリテラシーが高いか、低いかの議論は、もう少し時間が必要かもしれません。

しかし、今回の調査で筆者が個人的に気になったこととして、以下の2点を挙げたいと思います。

  • 特定健康診査やがん検診などの受診率低下
  • 「広報ひの」を希望する声の多さ

➊特定健康診査やがん検診などの受診率低下

前述したとおり、がん検診や歯科検診等の受診率が軒並み低下傾向であることが見受けられます。

これらの受診率低下は、コロナ禍における接触回避の行動が影響していたことは否定できないと思います。確かに、筆者が勤務していた医療機関でも、コロナ蔓延時には著しく受診者の落ち込みがありました。

しかし、2023年5月に感染症の指定が5類に移行し、市民の意識もほぼコロナ前に戻っています。今後は、市の啓蒙の後押しにより、受診率の向上が期待されます。

なお、地域の医療機関の探し方について、以下の記事で詳しく取り上げていますのでよろしければお読みください。

➋「広報ひの」を希望する声の多さ

また、今回の調査では「広報ひの」に期待する声が根強いことも改めて確認できました。

前述した第4期「日野人げんき!」プランの主要データまとめの中で、「現在、健康に関する情報は何から入手しているかのアンケート結果を紹介しましたが、ここでは上位5位以内に「広報ひの」は入っていません。

しかし、以下のとおり別のアンケートで、「今後、健康に関する情報は何からか得たいか」という質問に対し、「広報ひの」が4位に入っているのがわかります。

高齢になるにつれ、「広報ひの」にその役割を期待しているようです。

コロナ禍で社会的にも電子化が一段と進展したと思いますが、まだ広報誌などの紙媒体に頼らざるを得ないということが、客観的に認識できるアンケート結果だと思います。

●現在、健康に関する情報は何から得ているか(再掲)
1位 テレビ・ラジオ
2位 新聞・雑誌・本
3位 インターネット
4位 医療機関・薬局
5位 友人・知人

今後、健康に関する情報は何からか得たいか
1位 テレビ・ラジオ 
2位 新聞・雑誌・本 
3位 インターネット 
4位 広報ひの 
5位 医療機関・薬局 

まとめ

今回は、第4期「日野人げんき!」プランから日野市のヘルスリテラシーに関する現状や取り組みについてみてきました。

今後は、市の健康に関する取り組みの強化や、紙媒体も含めた広報活動の工夫などをとおして、市民のヘルスリテラシーが向上すれば、がん検診等の受診率の向上も期待できると思います。

そして、市民の健康寿命が今よりも伸びて、長く元気に生活できる社会になることを願います。

今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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