日本のヘルスリテラシーが低い理由と具体的な向上策

2024年3月に発覚した小林製薬のサプリメントによる健康被害の問題から、健康食品の安全性について疑問を持たれている方も少なくないと思います。

健康志向の高まりもあり、サプリメントを摂取して手軽に健康を手にしたいと思う方も多いと思いますが、企業広告を見ると、それに乗じた誇大表示も多く見受けられるようです。

そこで気になるのは、日本人のヘルスリテラシーの現状です。

今回は、日本人のヘルスリテラシーの現状と、ヘルスリテラシーを高める具体的な方策について考えていきたいと思います。

目次

日本のヘルスリテラシーの現状を探る

もしかしたら、皆さんのなかに”日本人のヘルスリテラシーが低い”という話を聞いたことがある方もいるかも知れません。

実際、日本人のヘルスリテラシーは高いのか低いのか。ここでは、聖路加国際大学大学院看護学研究科の中山和弘氏らが運営するサイト「ヘルスリテラシー 健康を決める力」を参考に、ヘルスリテラシーの定義や日本のヘルスリテラシーの現状についてみていきたいと思います。

参考:健康を決める力:ヘルスリテラシーを身につける (healthliteracy.jp)

ヘルスリテラシーとは?

そもそも、ヘルスリテラシーとは、健康や医療の情報を「入手」「理解」して「評価」「意思決定」できる力のことを指します。

例えば、テレビやラジオから健康情報が流れてきたときのことを考えてみます。

流れてきた健康情報に対して、いかに自分がその情報を正しく理解し、自分の中に取り入れるか。そしてその健康情報を客観的に評価して、最終的にその健康情報が自分にとって必要な情報なのかを判断する能力がヘルスリテラシーだと言えます。

昨今のサプリメントにおける健康被害のことを考えても、健康食品を購入する際に重要になるのが、まさにこのヘルスリテラシーだと言うことが理解できるのではないでしょうか。

なぜヘルスリテラシーが必要か?

それでは、なぜヘルスリテラシーが必要なのでしょうか。

それは言うまでもなく、ヘルスリテラシーの有無が私たちの健康や命に直接かかわることだからです。

一般的に、ヘルスリテラシーが低い人に懸念されることは、

  • そもそも健康診断を受けない
  • 健診で異常が見つかっても精密検査を受けない
  • 生活習慣の改善が必要なのに改めようとしない
  • 自分の体を不健康な状態に放置した結果、重大な病気にかかってしまう

ということになり、結果として命に危険が及ぶことが考えられます。

日本の政府は、このような健康無関心層に対するヘルスリテラシー向上を、「健康日本21(第3次)」のなかで政策として進めているところです。

日本のヘルスリテラシーは対象15カ国の中で最低

中山和弘氏らの調査によると、欧州8か国、アジア6か国と日本を比較すると、日本のヘルスリテラシーが最も低い結果になったとのことです。

その原因として、日本人は他国と比べて、健康や医療の情報を「入手」「理解」できても、「評価」「意思決定」が難しい傾向にあったと指摘しています。

順位国名平均点
1位オランダ37.1
2位アイルランド35.2
3位ドイツ34.5
3位ポーランド34.5
5位台湾34.4
6位ギリシャ33.6
7位スペイン32.9
7位マレーシア32.9
9位オーストリア32.0
10位カザフスタン31.6
11位インドネシア31.4
12位ミャンマー31.3
13位ブルガリア30.5
14位ベトナム29.6
15位日本25.3
国・地域別のヘルスリテラシー平均点
(「ヘルスリテラシー 健康を決める力」サイトより引用)

日本のヘルスリテラシーが低い具体的な理由とは?

それでは、なぜ日本人のヘルスリテラシーが他国と比べて低い結果となっているのでしょうか。

中山和弘氏は、日本人のヘルスリテラシーが低いと考えられる理由として、以下のことを指摘しています。 

  • 家庭医が少ない
  • 総合的な健康情報サイトが足りずインターネットの信頼度が低い

理由➊:家庭医が少ない

日本人のヘルスリテラシーが低い最初の理由として、日本には家庭医が少ないということが挙げられます。

日本には家庭医が少ないため、ヘルスリテラシーの調査では、日本人は自分が病気になった時に、「どの専門家(医師や薬剤師など)に相談するのがいいかの判断」が「難しい」と回答している割合が他国に比べて多いとの結果が示されています。

この回答の差が日本とヨーロッパとの比較で最も大きかったようです。ヨーロッパでは医師の約3分の1が家庭医と言われているほど、家庭医制度が普及しています。

そのため、体調が悪くなれば、まず地域の家庭医に受診することになりますので、相談先の判断は難しくないでしょう。

一方、日本はどこで受診するか患者自身で決めることができますが、肝心の受診先をどこにするのか判断に迷う場合があります。

さらに中山和弘氏は、ヨーロッパでは家庭医が予防のための健康教育を行う役割を担うため、家庭医の健康教育が地域住民のヘルスリテラシーの向上に寄与していることが考えられる、とも指摘しています。

理由➋:総合的な健康情報サイトが足りずインターネットの信頼度が低い

また、日本人のヘルスリテラシーが低い2つ目の理由として、総合的な健康情報サイトが不足し、インターネットに対する信頼度が低いということが挙げられます。

ヘルスリテラシーの調査では、自分が気になる症状について、「メディア(テレビやインターネット)から得た健康リスクの情報を信頼できるかどうかの判断」が「難しい」と回答した割合が他国に比べて高いという結果が示されています。ここでも差が大きく出たようです。

その原因として中山和弘氏は、わかりやすく信頼できる総合的なサイトが不足している、と指摘しつつ、新聞やテレビなどマスメディアやインターネットの情報を理解・活用できる力が必要であると、メディアリテラシーの問題にも指摘しています。

ヨーロッパとは反対に、日本では、テレビや新聞への信頼度が高く、インターネットへの信頼度が低いことが特徴のようです。

さらに中山和弘氏は、日本では、自分で調べて情報を得て、その正否を自分で判断するより、そのまま正しい答えを教わろうとしているのかも知れないとも指摘しています。

ヘルスリテラシーを高める方法とは?

ポイントは健康情報をいかに「評価」し「意思決定」するか

ここまで、日本のヘルスリテラシーの現状について探ってきましたが、実際にヘルスリテラシーを高めるにはどうしたらいいのでしょうか。

具体的には、自身で健康情報を調べる際に、相対的に日本人が不得意とされる「評価」「意思決定」の段階で、それぞれ以下の項目を確認すべきとされています。

方法①:【か・ち・も・な・い】で情報を「評価」

始めに、「評価」の段階で確認する項目をみていきたいと思います。

各項目の頭文字をとって、か・ち・も・な・いで覚えることができます。

「評価」の段階で確認する5項目

】書いたのは誰か
】違う情報と比べたか
】元ネタはなにか
】何のための情報か
】いつの情報か

例えば、病気に関する数字を見たとき、数字をそのまま鵜呑みせず、自分に適した情報か、その根拠を考え意味を探り、正しい判断をすることが重要となります。

方法②:【(胸に)お・ち・た・か】で自分らしく「意思決定」を

次に、「意思決定」の段階で確認する項目をみていきたいと思います。

ここでも、各項目の頭文字をとって、【(胸に)お・ち・た・か】で覚えることができます。これは自分らしく意思決定するための方法になります。

「意思決定」の段階で確認する4項目

【お】オプション(選択肢が全て揃ったか)
【ち】長所(各選択肢の長所を知る)
【た】短所(各選択肢の短所を知る)
【か】価値観(長所短所を比較して自分にとって何が重要かをはっきりさせる)

「健康日本21(第3次)」でヘルスリテラシー向上に期待

2024年度から厚生労働省による「健康日本21(第3次)」がスタートしています。

その重点項目として、「誰一人取り残さない健康づくり」を推進することが盛り込まれています。これは、健康無関心層へのヘルスリテラシー向上も示唆していると思われます。

インターネットやSNSの発達に伴い様々な情報が氾濫するなか、この国の政策により日本人のヘルスリテラシーが徐々に向上していくことが期待されます。

ヘルスリテラシー向上に向けた地域の取り組みを紹介

ここではヘルスリテラシー向上に向けて、地域がどのような取り組みを行っているのか紹介したいと思います。

今回紹介するのは、栃木県日光市と大分県東部保健所の取り組みです。両者とも働く世代を主なターゲットとして、事業所に向けたヘルスリテラシー向上策を打ち出し実行しています。

なお紹介事例は、厚生労働省が運営する「地域・職域連携のポータルサイト」から引用していますので、詳細については以下のサイトから参照できます。

参考:地域・職域連携のポータルサイト|厚生労働省

事例①:栃木県日光市による「企業向け健康教室」

最初に紹介するのは、栃木県日光市の取り組みとなります。

日光市では、健康無関心層のヘルスリテラシー向上のため、2010年から市の保健師等が希望のあった職場に出向き「企業向け健康教室」を実施しています。

栃木県日光市の取組事例

テーマ
健診結果に基づいた個別保健指導

対象地域
栃木県日光市

対象者
日光市内の小規模事業場

健康課題

  • 糖尿病と腎不全の1人当たりの外来医療費が高い(国保・後期高齢者医療広域連合加入者)
  • 小規模事業場における生活習慣病ハイリスク者に対する介入が不十分で生活習慣病の発症や重症化予防につなげられない

取組内容

  • 事業場への個別訪問(情報提供、健康づくりの取組状況ヒアリング)
  • 「企業向け健康教室」(健診結果から事業所の課題抽出、課題と事業所のニーズを踏まえた健康教室と従業員個人に合わせた個別の保健指導)

取組の成果

  • R5年度に新規で4社が健康教室に参加
  • R4年度から4社が継続して参加
  • 継続事業所では従業員の食生活や運動習慣に対する意識の変化があり健診結果が改善
  • 血糖値コントロール不良者に対する専門医への受診勧奨により数値が改善

成果のポイント

  • 働く世代の健康づくりの意義や重要性を計画に反映させ担当者が代わっても事業を継続できる体制としている
  • 市の担当者と事業所側の顔の見える関係により取組内容を充実させ健診結果への効果につながった
  • 事業所の業種や業態に応じて実施場所や実施日時を柔軟に設定し従業員が参加しやすい環境づくりを行っている

事例②:大分県東部保健所による地域職域連携推進事業

次に紹介するのは、大分県別府市・杵築市・日出町を管轄する大分県東部保健所の取り組みとなります。

大分県は「健康寿命日本一」を県の総合計画に掲げており、実際に2019年には健康寿命の都道府県別ランキングで男性が1位、女性が4位となり、総合で2位の結果を収めています。

大分県東部保健所の取組事例

テーマ
東部保健所における地域職域連携推進事業~健康経営事業所を切り口とした働く世代への健康づくり

対象地域
大分県東部のうち別府市・杵築市・日出町

対象者
東部保健所管内の健康経営事業所、働く世代

健康課題

  • 1人当たりの医療費が高い
  • 人工透析患者数が全国ワースト5位(令和3年)
  • 糖尿病外来医療費が増加傾向、さらに若年化傾向
  • 近年肥満者も増加傾向、子供の肥満が課題
  • 東部保健所管内では腎不全標準化死亡比(特に壮年期)が県内で高い水準に
  • 働く世代とその家族を含めた健康状態が課題

取組内容

  • 地域・職域連携推進会議(H18年度~)と下部組織の健康経営おうえんプロジェクト会議(実務者会議)を連動し関係機関との取組の拡充図る
  • 県の健康経営事業所登録認定制度(H26年度~)に登録した事業所を対象に認定事業所へステップアップするための支援を行う
  • おおいた心と体の職場環境改善アドバイザー派遣事業で理学療法士、作業療法士、公認心理士等の専門職が職場訪問しニーズに合わせた職場ぐるみの健康づくりサポートを行う

取組の成果

  • 支援をきっかけに経営層の後押しを受け休憩室の環境改善につながった
  • 労働意欲にも良い影響を及ぼし更なる職場環境改善の要望の声があがるようになった
  • 活気ある職場づくりの一助になった
  • アドバイザー派遣終了後も「歯と口の健康出前講座」を開催するなど地域と連携した健康経営の取り組みが継続されている

成果のポイント

  • 実務者による小規模の会議体を組織し、密な連携をとることで有機的な運営を実現
  • 県の総合計画に「健康寿命日本一」が目標に掲げられたことで働く世代への健康づくりに取り組む重要性が明確になった
  • 事業場が健康づくりに取り組もうとしている機会を逃さず積極的に介入した
  • アドバイザー(専門職)による第三者の視点は事業場を客観視することになり経営層や従業員が事業場内の課題認識、安全衛生への意識醸成のきっかけになった

健康寿命に関することは、別の記事でも取り上げていますのでよろしければお読みください。

まとめ

今回は、日本人のヘルスリテラシーの現状と、ヘルスリテラシーを高める方策について考えてきました。

国の施策も始まったところですが、まずは個々人が責任をもって、健康情報の取捨選択を行うことが重要になります。

そして、情報を正しく評価し、自分らしく意思決定していく意識を今日からでも高めていきたいものです。

今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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