地域住民の健康寿命を延ばすために医療機関ができることとは

私たち日本人の平均寿命は年々延びています。

2001年に男性78.07歳、女性84.93歳だった平均寿命が、2019年には男性81.41歳、女性87.45歳になりました。この20年弱のあいだに、男女とも約3歳も平均寿命が延びている状況です。

また、平均寿命とともに年々延びているのが健康寿命です。

日本政府は私たちの健康寿命を延ばすために、2011年から「スマート・ライフ・プロジェクト」という取り組みを始めています。

そして、この健康寿命の延伸に関して、地域の医療機関の果たす役割はとても大きいように感じます。

今回は、日本の健康寿命の現状と、地域住民の健康寿命を延ばすために医療機関が果たすべき役割について考えていきたいと思います。

目次

スマート・ライフ・プロジェクトで「健康寿命の延伸」を

スマート・ライフ・プロジェクトとは?

皆さんは「スマート・ライフ・プロジェクト」をご存知だったでしょうか?

スマート・ライフ・プロジェクトとは、厚生労働省が行っている、国民の健康づくりをサポートするプロジェクトです。

私たち日本人の平均寿命は年々延びてきましたが、スマート・ライフ・プロジェクトの趣旨は、「健康寿命の延伸」になります。

スマート・ライフ・プロジェクトの4つの柱

「スマート・ライフ・プロジェクト」は、WEBサイトなどで健康情報を発信し、「食事、運動、健診、禁煙」を4つの柱として「健やかな国ニッポン」を目指す取組です。

スマート・ライフ・プロジェクトの4つの柱
  • 食事
  • 運動
  • 健診
  • 禁煙

このプロジェクトには、一般企業のほか、調剤薬局やクリニックなどの医療機関も数多く賛同し、登録されています。

登録の要件として、社員やその家族、関係団体に対して、運動の習慣づけ、野菜不足解消、禁煙等を推奨し、「健康寿命の延伸」というプロジェクトの趣旨に沿った活動を行うこととされています。

健康寿命とは?

健康寿命の定義

そもそも健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活に制限のない期間の平均」とされています。

健康寿命の算出方法

日本における健康寿命の算出方法

健康寿命の算出方法には2種類あるようです。

厚生労働省のe-ヘルスネットによると、日本は、個人の生存期間を「健康な期間」と「不健康な期間」に分け、「健康な期間」の平均値を算出する方法を取っています。

世界保健機関(WHO)における健康寿命の算出方法

一方、世界保健機関(WHO)は、不健康な状態をレベルによって重み付けをし、「完全な健康」に相当する期間として算出する方法を取っています。

東京都は「65歳健康寿命」を重視

それとは別に、東京都は、「65歳健康寿命」という考え方を重視しています。

東京都健康推進プラン21(第三次)によると、65歳健康寿命とは、「65歳の人が何らかの障害のために日常生活動作が制限されるまでの年齢を平均的に表したもの」としています。

日本の健康寿命の現状

健康寿命の考え方にも様々あることを確認しましたが、日本の健康寿命の現状がどうなっているのか確認したいと思います。

健康寿命の推移

令和5年度高齢社会白書(全体版)を参考に、健康寿命の推移を下表にまとめました。この報告によると、2001年以降、一貫して日本の健康寿命が伸びているのが確認できます

スクロールできます
A平均寿命
(男性)
B健康寿命
(男性)
A-B
(男性)
A平均寿命
(女性)
B健康寿命
(女性)
A-B
(女性)
2001年78.0769.408.6784.9372.6512.28
2004年78.6469.479.1785.5972.6912.90
2007年79.1970.338.8685.9973.3612.63
2010年79.5570.429.1386.3073.6212.68
2013年80.2171.199.0286.6174.2112.40
2016年80.9872.148.8487.1474.7912.35
2019年81.4172.688.7387.4575.3812.07
健康寿命と平均寿命の推移 (単位:歳)
※令和5年版高齢社会白書(全体版)を参考に筆者まとめ

引用:2 健康・福祉|令和5年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府 (cao.go.jp)

健康寿命:都道府県別ランキング

前項では、直近約20年間の全国の健康寿命の推移を確認しました。

ここでは、2010年以降の健康寿命を都道府県別に集計した場合の、上位10位を男女別に表にまとめてみました。

出典:厚生労働科学研究 健康寿命のページ

男性の健康寿命:都道府県別ランキング

2019年2016年2013年2010年
1位大分 73.72山梨 73.21山梨 72.52愛知 71.74
2位山梨 73.57埼玉 73.1沖縄 72.14静岡 71.68
3位埼玉 73.48愛知 73.06静岡 72.13千葉 71.62
4位滋賀 73.46岐阜 72.9石川 72.02茨城 71.32
5位静岡 73.45石川 72.67宮城 71.99山梨 71.2
6位群馬 73.41静岡 72.63福井 71.97長野 71.17
7位鹿児島 73.4山形 72.61千葉 71.8鹿児島 71.14
8位山口 73.31富山 72.58熊本 71.75福井 71.11
9位宮崎 73.3茨城 72.5宮崎 71.75石川 71.1
10位福井 73.2新潟 72.45三重 71.68群馬 71.07
男性の健康寿命:都道府県別ランキング
出典:厚生労働科学研究「健康寿命のページ」
都道府県別健康寿命(2010~2019年)(令和3年度分担研究報告書の付表)(エクセルファイル)を参考に筆者まとめ

女性の健康寿命:都道府県別ランキング

2019年2016年2013年2010年
1位三重 77.58愛知 76.32山梨 75.78静岡 75.32
2位山梨 76.74山梨 76.22静岡 75.61群馬 75.27
3位宮崎 76.71三重 76.22秋田 75.43愛知 74.93
4位大分 76.6富山 75.77宮崎 75.37栃木 74.86
5位静岡 76.58島根 75.74群馬 75.27沖縄 74.86
6位島根 76.42栃木 75.73茨城 75.26島根 74.64
7位栃木 76.36岐阜 75.66山口 75.23茨城 74.62
8位高知 76.32茨城 75.53三重 75.13宮崎 74.62
9位鹿児島 76.23鹿児島 75.51福井 75.09石川 74.54
10位富山 76.18沖縄 75.46大分75.01鹿児島 74.51
女性の健康寿命:都道府県別ランキング
出典:厚生労働科学研究「健康寿命のページ」
都道府県別健康寿命(2010~2019年)(令和3年度分担研究報告書の付表)(エクセルファイル)を参考に筆者まとめ

国が行った主な健康増進・疾病予防対策

前項までの資料にて、日本の健康寿命が延びていることについて確認できたと思います。

健康寿命と平均寿命の延伸の要因は、国が行った総合的な健康増進・疾病予防対策の効果や、この間の医学の進歩が考えられます

ここでは、これまでの国の取組を簡単にまとめておきます。

西暦取組内容
1978年第1次国民健康づくり
(健康診査の充実、市町村保健センター等整備、保健師等人材確保)
1988年第2次国民健康づくり
(運動習慣の普及に重点をおいた対策「アクティブ80ヘルスプラン」)
2000年第3次国民健康づくり「健康日本21」開始
2003年健康増進法施行
2011年「健康日本21」最終評価、
「スマート・ライフ・プロジェクト」開始
2013年第4次国民健康づくり「健康日本21(第二次)」
(健康寿命の延伸・健康格差の縮小を目標に、生活習慣に加え社会環境の改善を目指す)
2024年第5次国民健康づくり「健康日本21(第三次)」
(健康寿命の延伸・健康格差の縮小を目標に、誰一人取り残さない健康づくりを推進)
国が行った主な健康増進・疾病予防対策(筆者作成)

健康寿命と平均寿命の差に着目すべき

前掲した「健康寿命と平均寿命の推移」の表では、「A健康寿命」と「B平均寿命」の差である「A-B(赤字)」が、2000年以降、横ばいもしくは開いていることが確認できると思います。

健康寿命と平均寿命の差は、「不健康な期間」を意味します。そのため、本来望ましいのは、健康寿命と平均寿命の差が短くなることです。

青山学院大学 特任教授・佐藤敏彦氏によると、「わが国の高齢化が急速に進む中、国民一人ひとりの生活の質を維持し、社会保障制度を持続可能なものとするためには、平均寿命の伸びを上回る健康寿命の延伸、即ち、健康寿命と平均寿命との差を縮小することが重要」だと指摘しています。

国が目標とする健康寿命の延伸は、平均寿命との差の大小でチェックしていかないと、政策の本旨を見誤る可能性があるので注意が必要です。

参考:平均寿命と健康寿命 | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)

健康寿命を延ばすカギは運動不足の解消にあり!

これまでの国の取組の流れや、健康寿命と平均寿命の関係について確認してきました。

それでは最後に、地域住民の健康寿命を延ばすために、地域の医療機関に求められる役割について考えていきたいと思います。

健康寿命を阻害する3つの要因

元国立健康・栄養研究所健康増進研究部長・宮地元彦氏は、スマート・ライフ・プロジェクト ホームページにて、「健康寿命」を延ばすポイントとして、「 メタボ・ロコモ・ココロ」の3点を挙げています。

つまり、健康寿命を阻害する要因が、以下の3点にあるとしています。

健康寿命を阻害する3つの要因
  • 心筋梗塞や脳卒中の原因となるメタボリックシンドローム
  • 足腰や筋肉など運動器の問題
  • 認知症やうつなどの心の問題

日本人の死亡リスク:上位3位とは?

また、日本人の死亡のリスクは、以下のとおりであると伝えています。

日本人の死亡リスク:上位3位
  • 1位 喫煙
  • 2位 高血圧
  • 3位 運動不足

「メタボ・ロコモ・ココロ」の3項目は、全て運動不足が関係している可能性があります。

結局のところ、運動不足の解消が、死亡リスクを減らし、健康寿命を延ばす近道になりそうです。

今日から行う!健康づくりための取り組み5選

厚生労働省は、健康日本21(第三次)における身体活動・運動分野の取組を推進するために、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を策定しています。

本ガイドの成人版では以下のことを推奨しています。

健康づくりのための取り組み5選
  • 今よりも少しでも多く身体を動かす。個人差を考えて可能なものから取り組む。
  • 歩行または同等の運動を1日60分以上行う(1日約8,000歩以上に相当) ※高齢者版では、1日40分以上(1日約6,000歩以上に相当)
  • 息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上行う
  • 筋力トレーニングを週2~3日行う
  • 座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する

引用:宮地元彦 先生 | SLPとは | スマート・ライフ・プロジェクト (mhlw.go.jp)

身体活動・運動の推進 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

健康寿命延伸に向けて、地域の医療機関が関与できること

運動不足解消については、誰しも頭ではわかってはいるものの、自分を律して続けることはなかなか難しいのが現実でしょう。運動不足解消を個人で継続していくには、家族や友人が支えることも大事になります。

ただ、何より定期的な診療で関わる地域の医療機関の声掛けもあれば、なお続けることができるかも知れません

健康に関する専門家の意見には重みがあります。来院患者の言葉に耳を傾け、治療のことはもちろん、運動や健康に関するアドバイスをすることも、地域医療を支える医療機関の大事な役割になると思います。

また、健康に関するプチ情報を院内掲示することや、地域住民を対象としたプチセミナーの開催なども、患者の健康リテラシー向上や、地域との関係性強化が期待できると思います。

まとめ

今回は、日本の健康寿命の現状や、地域の健康寿命を延ばすために医療機関ができることについて考えてきました。

国の取り組みの推進や、地域の医療機関からの動機付けにより、地域の住民が少しでも長く健康でいられる社会になることを期待したいです。

今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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