2020年から始まったコロナ禍では、地域医療が逼迫し、マスクを始めとした衛生材料も手に入らないほど医療資源が枯渇していたのを記憶している人も多いのではないでしょうか。
筆者はその頃、地方の医療機関でその対応に追われていましたが、地元の東京都日野市でも医療提供体制が逼迫していたのを話で聞いていました。
自分が子供だった1980年代頃までは、日野市の人口は15万人台だったと記憶しています。それが今では18万人台に増えています。
街並みは整備され、ファミリー層も増え、駅前などにはクリニックが増えているように見受けられます。
そこで、日野市の医療提供体制がどうなっているのか、その現状について調べてみたところ、客観的なデータからは、日野市の医療資源が豊富にあるとは言えないことがわかりました。
今回は、「地域医療情報システム(JMAP)」にて日野市の医療提供体制の現状を探り、医療資源の重要性について考えたいと思います。
地域医療情報システム(JMAP)の活用方法
地元・日野市の現状を「地域医療情報システム(JMAP)」で調べてみる
私は長年医療機関で働いてきたせいか、体調を崩した際は、ほぼ何も考えずに職場ですぐ診てもらっていました。
あまりにも身近なところから医療の提供を受けていたこともあり、また、普段の職場が医療機関だったため、医療資源について客観的に考えることもありませんでした。
そのようなこともあり、今回、筆者の地元・日野市の医療資源について改めて調べみようと思い当たりました。
そして、より客観的な情報を得るためにも、「地域医療情報システム(JMAP)」というサイトを活用してデータ抽出を行い、調査を進めることにしました。
地域医療情報システム(JMAP)とは?
地域医療情報システム(JMAP)とは、日本医師会が運営する医療情報検索サイトになります。
サイト運営の目的について、日本医師会は以下のとおり示しています。
JMAPは、各都道府県医師会、郡市区医師会や会員が、自地域の将来の医療や介護の提供体制について検討を行う際の参考、ツールとして活用していただくことを目的としています。
出典:日本医師会 地域医療情報サイト(http://jmap.jp/)
JMAPでは、以下の3つのタブから国内の様々な医療情報を検索することができます。
- 【地図から地域指定】
- 【地域別統計】
- 【施設別検索】
➊【地図から地域指定】
【地図から地域指定】のタブでは、日本地図から検索したい都道府県をクリックすると、以下の項目が参照できます。
- 地域の基本情報(面積・人口・人口増減率・高齢化率・人口密度)
- 将来推計人口
- 地域医療資源
- 地域介護資源
参考までに、【地図から地域指定】にて検索したサイト画面の一部を紹介します。
下段の画面コピーは、日本地図から東京都を指定し、日野市を検索した画面となります。
➋【地域別統計】
【地域別統計】のタブでは、都道府県などの地域を指定し、医療機関数や医師数などの集計項目を選択してデータ抽出することができます。
下の画面コピーのように、検索した数値の結果がグラフ化されるため、視覚的にも非常に見やすい仕様となっています。
➌【施設別検索】
【施設別検索】のタブでは、地域を指定し、医療機関の施設種類を指定することで個別の医療機関の基礎情報を入手することができます。
下の画面コピーは、東京都日野市で一般病床を有する病院を抽出した結果の画面となります。
二次医療圏とは?
今回の調査では、具体的に、日野市が所属する二次医療圏である「南多摩医療圏」と、その中に入る「日野市」を、他の地域と比較して現状を調べています。
調査した現状をお伝えする前に、東京都における二次医療圏について詳しく調べましたので、次項で説明したいと思います。
東京都の二次医療圏は13地域に区分される
下表のとおり、東京都内の自治体が13地域に区分けして二次医療圏が構成されています。
日野市が属する南多摩医療圏は、日野市のほか、八王子市、町田市、多摩市、稲城市で構成されています。
医療圏 | 所属自治体 | 面積(k㎡) | 人口(人) (2020年) |
区中央部医療圏 | 千代田区、中央区、港区、文京区、台東区 | 63.64 | 947,858 |
区南部医療圏 | 品川区、大田区 | 83.50 | 1,170,569 |
区西南部医療圏 | 目黒区、世田谷区、渋谷区 | 87.83 | 1,475,635 |
区西部医療圏 | 新宿区、中野区、杉並区 | 67.87 | 1,285,373 |
区西北部医療圏 | 豊島区、北区、板橋区、練馬区 | 113.92 | 1,993,903 |
区東北部医療圏 | 荒川区、足立区、葛飾区 | 98.21 | 1,365,611 |
区東部医療圏 | 墨田区、江東区、江戸川区 | 103.83 | 1,494,327 |
西多摩医療圏 | 青梅市、福生市、羽村市、あきる野市、瑞穂町、日の出町、檜原村、奥多摩町 | 572.70 | 379,043 |
南多摩医療圏 | 八王子市、町田市、日野市、多摩市、稲城市 | 324.71 | 1,440,971 |
北多摩西部医療圏 | 立川市、昭島市、国分寺市、国立市、東大和市、武蔵村山市 | 90.05 | 658,632 |
北多摩南部医療圏 | 武蔵野市、三鷹市、府中市、調布市、小金井市、狛江市 | 96.10 | 1,061,790 |
北多摩北部医療圏 | 小平市、東村山市、清瀬市、東久留米市、西東京市 | 76.51 | 749,421 |
島しょ医療圏 | 大島町、利島村、新島村、神津島村、三宅村、御蔵島村、八丈町、青ヶ島村、小笠原村 | 399.35 | 24,461 |
(地域医療情報システムJMAPより引用し筆者まとめ)
東京都の二次医療圏における面積と人口のトップ5は?
下表は、東京都内の二次医療圏を面積と人口で順位付けし、上位5位をまとめた資料になります。
日野市が属する南多摩医療圏は、13医療圏中、面積では3番目に広く、人口では4番目に多い地域となっていることがわかります。
面積・k㎡ | (2020年) | 人口・人|
1位 | 西多摩医療圏・572.70 | 区西北部医療圏・1,993,903 |
2位 | 島しょ医療圏・399.35 | 区東部医療圏・1,494,327 |
3位 | 南多摩医療圏・324.71 | 区西南部医療圏・1,475,635 |
4位 | 区西北部医療圏・113.92 | 南多摩医療圏・1,440,971 |
5位 | 区東部医療圏・103.83 | 区東北部医療圏・1,365,611 |
(地域医療情報システムJMAPより引用し筆者まとめ)
地域医療情報システム(JMAP)でわかった日野市の医療資源の現状
南多摩医療圏を東京都全体、全国平均と比べた結果
まず、南多摩医療圏の状況について、東京都全体と、全国平均と比較するかたちで以下の表にまとめました。
南多摩医療圏 | 東京都全体 | 全国平均 | |
診療所(件) | 66.41 | 97.89 | 72.55 |
病院(件) | 5.14 | 4.54 | 6.44 |
全病床数(床) | 1115.64 | 889.73 | 1172.52 |
※一般病床数(床) | 417.01 | 586.12 | 700.88 |
医師数(人) | 235.59 | 387.52 | 283.88 |
歯科医師数(人) | 105.42 | 160.72 | 92.62 |
※「一般病床数」は「全病床数」の再掲
日野市が属する南多摩医療圏ですが、東京都全体と比べると人口10万人当たりの診療所の件数が大幅に下回っていることがわかります。
また、病院の件数や全体の病床数自体は若干上回るものの、そのうちの一般病床数や医師数が下回っています。
日野市を多摩市、全国平均と比べた結果
次に、日野市単独の状況について、隣の多摩市と、全国平均と比較するかたちで、以下の表にまとめました。
日野市単独の場合、多摩市との比較でみると、すべての項目で下回っているのがわかります。
特に、病床数や医師数に大きな隔たりがあるようです。
日野市 | 多摩市 | 全国平均 | |
診療所(件) | 65.11 | 73.49 | 72.55 |
病院(件) | 3.68 | 4.76 | 6.44 |
全病床数(床) | 635.39 | 1346.03 | 1172.52 |
※一般病床数(床) | 203.74 | 758.08 | 700.88 |
医師数(人) | 161.05 | 335.21 | 283.88 |
歯科医師数(人) | 81.39 | 104.12 | 92.62 |
※「一般病床数」は「全病床数」の再掲
日野市は入院ベッドと医師の少なさが際立つ結果に
日野市の医療資源の現状を振り返る
前項で示したとおり、データで見る限り、日野市の医療資源は豊富にあるとは言えないことがわかりました。
ここで簡単に日野市の医療資源の現状について振り返ってみたいと思います。
- 日野市は南多摩医療圏(二次医療圏)に属する
- 南多摩医療圏は、東京都の二次医療圏(13医療圏)のうち面積で3位、人口で4位の規模を誇る
- 南多摩医療圏は、診療所数・一般病床数・医師数で東京都全体及び全国平均を下回る
- 日野市単独では、診療所数・病院数・全病床数(一般病床数含む)・医師数で同医療圏の多摩市及び全国平均を下回る
- 日野市単独では、特に全病床数(一般病床数含む)・医師数が多摩市の半分以下
上記でまとめたとおり、そもそも日野市が属する南多摩医療圏自体が診療所や一般病床数、医師の数が少ないことがわかりました。
さらに日野市単独になると、全病床数や医師数の少なさが際立つ結果となりました。
日野市では、300床の日野市立病院が最大の入院施設になります。それに続く200床台以下の病院数が限られていることに、医療資源の少なさの理由があるのかも知れません。
医療資源について再認識すべき6つのポイント
今回の調査では、改めて以下の6点について再認識することができました。
- 医療資源は有限であり、いかに貴重であるかを再認識
- 限りある資源は大切に使わないといけない
- それにはまず、自分の足元(地元・地域)を知ることが大事
- 自分の住む地域の医療機関の特徴をよく理解すること
- ヘルスリテラシーを上げて、医療者とのコミュニケーションを効率的に図ることが大事
- 地域の医療機関を上手に受診して、自分の健康を守っていくことが大切
特にヘルスリテラシーを上げることは、地域住民のひとりひとりが今日からでも行いたい取り組みになると思います。
ヘルスリテラシーに関しては、以下の3つの記事でも取り上げていますのでよろしければお読みください。
まとめ
今回は、地元の医療提供体制の状況を探って、改めて医療資源の貴重さを再認識することができました。
データ抽出で使用したJMAPですが、もうすでに活用されている施設もあるかと思います。
地域医療構想を踏まえ、自院の環境分析や経営戦略の策定に大変便利で有用なサイトですので、まだご覧でない場合は是非活用されてみてはいかがでしょうか。
今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。