医療従事者に求められるコミュニケーション能力と傾聴スキルの重要性

最近になって、しばしば「コミュ力」や「コミュ障」という言葉を耳にするようになりました。

今では、企業の選考基準で重視するポイントの上位に、コミュニケーション能力が入ると言われています。

多職種のスタッフと協働し、多くの患者の診療に携わる医療従事者にとって、コミュニケーション能力は必須の能力と言ってもいいと思います。

今回は、医療現場で必要とされるコミュニケーション能力と、そのなかでも傾聴スキルの重要性についてみていきたいと思います。

目次

「コミュニケーション能力」を掘り下げる

コミュニケーション能力が高い人のイメージは、社交性があって、誰とでも仲良くなれるタイプの人を想像しますが、具体的にはどのような能力を指すのでしょうか。

コミュニケーション能力とは

コミュニケーション能力とは、対人関係において円滑に意思疎通を行うための能力と言われています。

コミュニケーション能力に必要な4つの要素

コミュニケーション能力は、大きく分けて「伝える力」と「受け取る力」に大別されます。

さらに、そこから細分化され、以下のとおり①~④の4つの要素があると言われています。

コミュニケーション能力の4つの要素

伝える力
 ①言語
 ②非言語

受け取る力
 ③聴く力
 ④読み取る力

医療現場は、患者とのコミュニケーションの連続です。患者とのコミュニケーションが少ない程、診療上のサービスも低下することが懸念されます。

伝える力も、受け取る力も、医療機関においては、双方大事な能力と言えます。

患者は医療従事者とのコミュニケーションを求めている

患者が医療機関を選ぶ際、以前は、家族や知人に評判を聞いて決めることも多かったと思います。

ただ、インターネットやSNSが発達した現在においては、誰にも聞かずに、ネット上の口コミだけで選ぶ人も多くなっていると思います。

そのネット上の口コミを見てみると、多くの患者が医療機関に、「優しい」、「安心」、「丁寧」を求めていることがわかります。

患者の求めに応じることができるかどうかは、患者と直に接する医療従事者のコミュニケーション能力次第になるでしょう。

患者とのコミュニケーションをより円滑に行うことは、患者の不安を解消して、この先も選んでもらえる医療機関になるための条件にもなり得ます。

傾聴スキル向上が医療機関の課題

患者とのコミュニケーションの円滑化は、患者への診療の質を上げる条件になります。また、この先も患者から選ばれる医療機関になるための条件にもなりそうです。

診療でより重要になるのは「聴く力」と「読み取る力」

医療機関においては、患者とのコミュニケーションを取るなかで、特に「受け取る力」がより重要になると思います。

つまり、コミュニケーションの4つの要素で言うところの「③聴く力」と「④読み取る力」が、カギになりそうです。

いわゆる「傾聴スキル」と言われるものです。

この「傾聴スキル」は、初診時の問診からフルに必要となる能力です。患者に医学の知識を求められませんので、疾患に関する情報をより引き出す必要があります。

特にこの傾聴スキルを養うことが、医療機関の診療の質や患者サービスの向上につながると言えます。

経営上の事情から難しいというのが本音か

患者とコミュニケーションを十分に取る必要があることくらいわかっているよと、言われる人も多いかも知れません。

医療機関にとってみれば、そもそも患者数を増やしたい中、予約枠の人数を守る必要もあるし、患者1人に時間をかけられない経営上の事情もあります。

患者の声を傾聴して、心の声まで聴き届けるのは難しい、というのが本音でしょう。

傾聴の3つの要件とは

さらに傾聴には、医療従事者側にも相当の覚悟や忍耐が伴います。

高橋和巳氏は「精神科医が教える聴く技術」(ちくま新書)で、話し手を楽にさせる聴き方を「傾聴と呼び、傾聴には3つの要件があると言っています。

傾聴の3つの要件

①賛成して聴く
②黙って聴く 
③世界を代表して聴く

カウンセラー教育に長く携わる高橋和巳氏も、カウンセリングの最中、「ずっと聴いていればどこかで賛成できなくなるし、口を挟みたくなります」と言っています。

ただ、口を挟まず聴くことに徹することが重要だとも言っています。

高橋和巳著「精神科医が教える聴く技術」(ちくま新書)より引用

傾聴スキルを向上させる3ステップ

それでは、医療機関は傾聴の取組の方策についてどのように考えればいいのでしょうか。以下のとおり挙げていきたいと思います。

①コミュニケーションの重要性について管理者層が共通認識を持つ

まず、患者との密なコミュニケーションが診療において非常に重要であることを、管理者層が共通認識を持つことから始めます。

②コミュニケーションの重要性を全スタッフにアナウンス

管理者層で共通認識ができたら、患者とのコミュニケーションについて、以下の点から重要であることを、全スタッフにアナウンスします。

●患者への診療の質を向上させる要因になること

●患者に安心を与え、この先も患者から選んでもらえる医療機関になる要因になること

そして、患者とのコミュニケーションの重要性を浸透させるために、朝礼など日々の声掛けから動機付けを行ってていくことが求められます。

院長から全スタッフへ、定期的に直接アナウンスすることができれば、さらに意識の定着が進んでいくと思います。

③外部講師を招聘し全スタッフ対象の傾聴スキルアップ研修を行う。

日常業務から傾聴を行うには、スタッフに相当のスキルアップやメンタル維持が必要とされます。傾聴の重要性を説き、スキルアップを図っていくために、全スタッフ対象の研修を外部講師を招いて行います。

医師については、普段から傾聴を意識して患者と接することができないかも知れません。ただ、患者との関係性構築で最も重要な職種は、医師になります。研修は医師が改めて気づきを得る、いい機会になるかも知れません。

参考までに、厚生労働省が運営する「こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」に傾聴のトレーニング方法について掲載されていますので、情報共有いたします。

話を「聴く」~積極的傾聴とは~|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト (mhlw.go.jp)

まとめ

ここまで、コミュニケーション能力や傾聴スキルの重要性についてみてきました。

とは言うものの、傾聴はとても奥が深いというのも事実だと思います。忙しい医療現場ではなかなか浸透させるのは難しいことだと思います。

ただ、コミュニケーション能力や傾聴スキル向上は、経営面の効果だけではなく、患者の診療の質を上げるとともに、ヘルスリテラシー向上をとおして、地域の健康寿命を延ばすことにもつながり得ると思います。

今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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