2024年2月、日経平均株価がバブル期につけた最高値38,915円を更新し、3月には40,000円台に到達しました。2024年から新NISA制度がスタートし、日本の株式市場は盛り上がりを見せています。
岸田政権は、2023年を「資産所得倍増元年」と位置付け、貯蓄から投資への流れを促しています。金融教育に力を入れ、国民の金融リテラシー向上を図ろうとしています。
この流れは、一般企業で徐々に浸透してきているようです。その一方で、多くの医療機関においては、目の前の課題に追われ、金融教育に時間を割く余裕はないと思われます。
今回は、企業における金融教育の捉え方を確認しつつ、医療機関における金融リテラシーの向上と、その効果について考えたいと思います。
金融リテラシーとは
貯蓄から投資へ。この背景にあるのは、人生100年時代に、個人の生活や働き方が多様化し、様々なライフプランに応じた資産形成が求められていることにあります。
この前提として、国民の金融リテラシー向上が必要とされています。政府広報オンラインによると、金融リテラシーとは、「経済的に自立し、より良い生活を送るために必要なお金に関する知識や判断力」のことを言います。
従業員エンゲージメントを高めることとは
経済産業省が示す「人的資本経営」の考え方によると、組織における人材を、企業価値創造のための「資本」として捉えました。「人的資本経営」とは、人材に積極的に投資をしていくことで、従業員エンゲージメントを高め、人的資本の価値向上により、企業の持続的な価値向上を目指す考え方です。
エンゲージメントとは、元々、誓約や契約を意味する言葉です。ビジネスにおけるエンゲージメントとは、組織に対する愛着や貢献意欲と解されます。
ここで言う「従業員エンゲージメントを高める」こととは、従業員が組織に対する共感や愛着心を増やし、貢献意欲を高めることと言えます。
エンゲージメント向上には、従業員の「経済的自立」が必要
従業員エンゲージメントを高めるには、従業員の幸福度(ウェルビーイング)を高める必要があります。従業員の幸福度を高める要因のひとつとして、従業員の「経済的自立」が挙げられます。
納得感のある報酬や福利厚生が得られ、経済的な不安もなく働ける環境では、従業員の幸福度は上がると思われます。ただ、経済的な不安感は、従業員個々の金融リテラシーの程度によっても左右されます。
いかに従業員の金融リテラシーを高めて、経済的な不安を解消し、経済的自立を促して、幸福度を高めるか。金融教育の機会を与え、金融リテラシーを高めることが、従業員エンゲージメントを高めるカギにもなるようです。
金融リテラシーと従業員エンゲージメントの関係
ここでは、MUFG資産形成研究所がまとめた2件の調査レポートから、金融リテラシーと従業員エンゲージメントの関係について探っていきたいと思います。
金融教育機会を提供することにより、エンゲージメントが高まる可能性
まず、2020年11月の調査レポート「従業員エンゲージメントと金融リテラシーの関係性について」では、以下のとおり報告されています。
「従業員エンゲージメントと金融リテラシー」
●勤務先が金融教育の機会を提供している場合、従業員のエンゲージメント(勤務先推奨度)が相対的に高い傾向が確認できた。
●金融教育を受けた人は金融リテラシーが高い傾向があると共に、金融リテラシーが高い人程、勤務先からの研修機会の提供を重要視し、機会が提供された場合に、勤務先への愛着や貢献意欲が高まると回答している。
●企業が金融教育機会を提供することにより、エンゲージメントが高まる可能性があるといえる。「金融リテラシー別の仕事観」
2020年11月 MUFG資産形成研究所「従業員エンゲージメントと金融リテラシーの関係性について」
●金融リテラシーが高く、年代が若い程、マネジメント職に就くことに対して前向きな傾向があり、自律的なキャリア形成への意識も高い。
●50代以上のベテラン層については、金融リテラシーが高い程、終身雇用を望む人や、定年後も働く意欲がある人が多い。
経済的満足度が高いほど従業員エンゲージメントは高い
次に、2023年9月の調査レポート「フィナンシャル・ウェルビーイングと金融リテラシーとの関係- 2022年度の調査結果より -」では、以下のとおり報告されています。
「金融リテラシー・従業員エンゲージメントとの関係」
2023年9月 MUFG資産形成研究所「フィナンシャル・ウェルビーイングと金融リテラシーとの関係- 2022年度の調査結果より -」
●金融リテラシーが高くなるほど、金融資産が少なくとも満足度は維持される
●経済的満足度が高いほど従業員エンゲージメントは高い
金融教育を取り入れて、他の医療機関との差別化を
医療現場では、医療安全や感染対策等による医療の質向上が最優先課題となります。スタッフ育成面においても、診療業務に関わる知識やスキルの向上を目指したものが大半となります。
ただ、医療機関の価値を左右するのは、そこで働く人材の質で決まると言ってもいいと思います。人材育成面において、他施設との差別化を図るうえでも、金融リテラシー向上を目指した金融教育を取り入れるのも一考に値すると思います。
金融教育が医療機関にもたらす期待効果とは
MUFG資産形成研究所がまとめた2件の調査レポートより、金融教育がもたらす期待効果として、以下のことが挙げられそうです。
- 金融教育の機会を提供することで
- スタッフの金融リテラシーが向上し
- 自身の経済状況が把握でき、経済的不安感が減少し
- 勤務先への愛着や貢献意欲(エンゲージメント)が向上し
- 若年層は自律性向上によりマネジメント職へ前向きに、ベテラン層は定年後も再雇用による貢献心が向上し
- スタッフ定着率向上、育成進み医療の質が向上することで
- 自院の持続的な価値向上の可能性が増える
新たな施策を始めるときに大事な視点4つ
地域医療構想や、医師の働き方改革の対応などで、多くの医療機関には、金融教育などする余裕はないと思います。
そのなかで、新たな施策を始める際には、以下の視点が大事です。
①思いつくことをすべて書き出してみる
②書き出した中で、「できること」と「できないこと」を取捨選択する
③「できること」のなかで優先順位をつける
④優先順位の上位で、手の付けられそうな項目から着手していく
できそうなことから一歩ずつ進めていく
金融教育と言っても深く考えずに、まずできそうなことから始めていくことがいいと思います。動き出してしまえば、次へと進んでいくものです。
現実的に考えられそうな施策の一例を挙げます。
まとめ
変化の激しい時代に、一般企業は人材の価値の最大化を図ることで、企業価値の最大化を目指しています。
医療機関の間においても、人材の流動化がさらに進んでいく可能性はあります。医療機関の価値向上も、スタッフの価値向上なしには達成されないでしょう。
医療機関の相対的な強みの発揮には、スタッフの専門性の向上と同時に、その土台となる社会人基礎力や金融リテラシーの涵養も、ひとつの要素になると言えます。
今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。