2024年4月から、医師の働き方改革の運用がスタートしました。今年度は、診療報酬改定も重なり、医療現場は大変苦労されていることだと思います。
医師の働き方改革については、開始直後から様々な議論が挙がっているところですが、そんな中でも、適切に勤務環境改善に取り組む病院も少なくないと思います。
今回は、医師の働き方改革スタート直後から課題となっていることや、働き方改革の好事例、具体的対応策についてみていきたいと思います。
スタートはネガティブな問題点の指摘あり
現時点で、メディアから以下のようなことが聞こえてきます。
●宿日直制が原因で、改定後の施設基準を満たせなくなった大学病院が半数近く出ていること
●勤怠管理強化のため、某大学病院が年間数億円のコスト増を図ること
●宿日直許可が名ばかりの懸念があり、日勤帯と同様の勤務実態も多いこと
このように、医師の負担軽減が目的の制度でありながら、スタートはネガティブな問題点の方が多く挙げられているようです。
“ホワイト”と“ブラック”の二極化で、医師の流出の懸念も
日経メディカル Online2024年6月18日号では、「リポート◎”名ばかり宿日直”の放置が招く「ホワイト」と「ブラック」の二極化」と題し、主に以下について記事を掲載しています。
①地域の医療提供体制を堅持するために、多くの医療機関が宿日直許可を取得した
②表向きは静かな滑り出しも、その裏では医師から不満がくすぶっている
③働き方改革をきっかけに、病院間格差が広がる可能性あり
④「名ばかり宿日直」を脱するための、実効性のある方策
別の記事でも紹介しましたが、③に関して、医師の働き方改革で多くの病院のサポートをしてきた、福島通子・特定社会保険労務士がこのようにコメントしています。
「働き方改革への姿勢や取り組み方で、“ホワイト”と“ブラック”の二極化が進み、病院間で医師の定着・採用などに大きな差が生じる可能性もある」
ここでの”ホワイト”とは、本格稼働に向け数年前から準備を進め、労働環境の改善を続けている医療機関、と伝えています。
それに対し“ブラック”とは、宿日直許可は取得したが、見かけの労働時間だけを気にしている医療機関、と伝えています。
そして、この二極化により、今後、医師の流出にもつながりかねない、と付け加えています。
日経メディカル Onlineより引用
「名ばかり宿日直」が招くその他のリスクとは
また、同誌は、診療体制維持を目的とした実態の伴わない宿日直を放置していると、別の問題のリスクも出てくると伝えています。
医師から労基署へ訴えが入るリスク
福島社労士は、医師が勤務先の名ばかり宿日直を、労基署に訴えたケースもあると聞いている、とコメントしています。
宿日直許可取り消しのリスク
さらに福島社労士のコメントは続きます。
具体的に想定できるのは、医師から宿日直の実態について労基署へ申告が入れば、立入調査となる。
その結果次第では医療機関に対して是正勧告が出されることもあり、長期間改善が見られない場合、宿日直許可取り消しの可能性もある、とも伝えています。
早期の実態把握と改善措置が求められる
これらのリスクは、多くの医療機関が恐れていることだと思います。
すでに院内から意見が出ている場合は、真摯に耳を傾けて、実態把握と改善措置を講じなければいけないでしょう。
現状ではまだ静観ムードであっても、周りの医療機関の情報が耳に入り、多くの医師から不満噴出ということも想定できますので、早期の実態把握が求められます。
医師の働き方改革の好事例を紹介
同誌には、現時点で「宿日直許可基準を守りながら、適切に働き方改革を進めている」医療機関の好事例が掲載されていました。一部抜粋して共有したいと思います。
【キーパーソン】
●診療科長以上の医師を働き方改革のキーパーソンにする。
●キーパーソンは勤務医の働き方に関する質問を受けたり、新しい勤怠システムや働き方の院内ルールの周知などを行う
●個人面談を実施し、勤務医の正確な労働時間(外勤の有無、外勤先の宿日直許可取得状況、外勤先での労働時間を含む)などを把握する。
【収入面の不満軽減】
●これまでの手当額を維持するため、宿日直中に日勤帯同様の業務が発生した場合でも足りる額の手当を支給する。
【医療安全を確保するためにシフト作成を工夫】
●手術など集中力を要する業務の前日は宿日直を予定しないなどのシフト面で配慮
●1~数か月のシフトをあらかじめ開示し、変更が生じた場合、医師本人あるいは医師事務作業補助者が追記する。上長が1週間ごとにシフト表を確認し、調整する。
●代償休息を自動的に組み込むシステムの導入
【業務負荷の軽減】
●病院における土曜の外来を半日に縮小または廃止する。同時に近隣のクリニックと協力関係を結び、隔週や順番性で土曜の外来を受け持ってもらう。
【患者理解の促進】
●院内に医師の働き方に関するポスターを掲示し、患者理解を促す。
医師の働き方改革の具体的な対応策
ここでは、私の見解も含めて、以下のとおり医師の働き方改革の具体的な対応策について挙げたいと思います。
医師の働き方改革の具体的な対応策
①キーパーソンはできれば副院長、もしくは院長で
②シフト作成は少なくとも3ヶ月先を見越して作成
③院内掲示で患者への理解促進を
④院長から全職員へ、継続的なメッセージを
①キーパーソンはできれば副院長、もしくは院長で
多くの医療機関では、委員会やワーキングチームを組んで、その委員長などをキーパーソンとして準備してきたことと思います。
個人的には、キーパーソンは院長か副院長クラスが適していると思います。
診療科の垣根が低い医療機関であれば、診療科長クラスでもいいかも知れません。ただ、院内全体の統制を考えると、よりトップダウンに近いかたちで断行していくことが望ましいと思います。
医師に対する説明等も、キーパーソン自ら行うことを原則とした方がうまく進みます。もし、未だに事務任せの医療機関があれば、副院長以上へのキーパーソン設定をお薦めします。
②シフト作成は少なくとも3ヶ月先を見越して作成
勤務表や宿日直予定表、検査や手術予定は、少なくとも3ヶ月先を見越して作成する必要があります。
未だ月単位で作成している医療機関は、後手に回る可能性が高く、気づいた時には年度終盤で、取り返しがつかなくなりますので、早めの対策が必要です。
③院内掲示で患者への理解促進を
いくら医師や医療機関が工夫して働き方の取組を進めたとしても、患者側の意識が何も変わらなければ、コンビニ受診は減らず、医師の負担は軽減されません。
院内掲示用のポスターが厚労省から示されていますので、以下から印刷して掲示することをご検討ください。
厚生労働省ホームページより引用
④院長から全職員へ、継続的なメッセージを
医師の働き方改革を完了させるには、システム頼みではなく、スタッフの意識次第になると思います。
すでに制度上の問題点が指摘されていますが、医師の働き方改革は、本来、医師を過重労働から守るための制度です。
今後も、トップから全職員へ、その趣旨も含めた継続的なメッセージの発信が必要と言えます。
まとめ
これまで、日経メディカル Onlineの記事から、医師の働き方改革の課題や対応策を中心にみてきました。
前述したことは、すでに多くの医療機関が行っていると思いますが、今後も好事例の情報が入りましたら、随時共有していきたいと思います。
今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。