キャリアアンカー・キャリアデザイン・キャリアドリフトの関係性とは

ネット上などで「配属ガチャ」という言葉を目にするようになりました。

「配属ガチャ」とは、就職にあたり、自分の希望とは別に、どこの職種や勤務先になるかわからない状況を言います。

これが原因となり、新入社員のモチベーション低下や、早期離職が実際に起きているようです。

ライフスタイルの多様化によって、若い世代に限らず働く者が皆、自分のキャリア形成について大きな関心を寄せていると思います。

今回は、私たちがキャリア形成を考えるうえで知っておきたい、キャリアアンカー、キャリアデザイン、キャリアドリフトの考え方とその関係性について紹介したいと思います。

目次

学生の半数以上が「自分で勤務地も職種も選びたい」

冒頭で、新入社員のモチベーション低下や早期離職について触れましたが、実際、就職活動中の学生は配属に関してどのような意識を持っているのでしょうか。

㈱マイナビが行った「2024年卒大学生活動実態調査(3月)」によると、入社後の配属先に対する考え方として、下記の結果が示されています。

Q.入社後の配属先に対する考え方について

勤務地・職種ともに自分で適性を判断して、選びたい」54.0%

②「勤務地は自分で選びたいが、職種は適性をみて会社に判断してほしい」32.9%

③「職種は自分で選びたいが、勤務地は適性をみて会社に判断してほしい」7.6%

④「勤務地も職種も、適性をみて会社に判断してほしい」5.5%

この結果からも、半数以上の学生が、自分自身で勤務地も職種も選びたいと考えていることがわかります。

にもかかわらず、旧来から行ってきた本人の意向を汲まない人事異動を今も行っている事業所に関しては、若年層の早期離職を止められていないのが現状のようです。

2023年度(24年卒版)新卒採用・就職戦線総括 | マイナビキャリアリサーチLab (mynavi.jp)

キャリアデザイン・キャリアドリフトとは?

昨今の人手不足や若年層の早期離職を背景にして、一部では職種を限定した採用方法に切り替えている企業も出てきているようです。

しかし、前述したとおり、新卒一括採用して事業所側の裁量で人事異動を行うという旧来の方法をとる事業所が大半を占めている状況は、今後もしばらく続くと思われます。

そのなかで、ビジネスパーソンに必要なことは、若いうちから自分のキャリア形成を具体的に意識し、自分でキャリア形成を行っていくことになります。

ここでは、キャリア形成を考えるときに必要な、キャリアデザインとキャリアドリフトという考え方について解説したいと思います。

キャリアデザインとは?

キャリアデザインと聞いて、何となくイメージはできると思いますが、実際どのようなことを言うのでしょうか。

キャリアデザインとは、自分の将来をイメージしたうえで、働き方や生き方を主体的に設計して、それを実現していくことを言います。

キャリアドリフトとは?

それでは、キャリアドリフトとはどのようなことを言うのでしょうか。

あまり聞き慣れない言葉だと思いますが、そもそも「ドリフト」という言葉には「漂流」という意味があります。

キャリアドリフトとは、キャリアの大きな方向性だけを決め、流れに身を任せるなかで、結果としてできあがっていくことを言います。

キャリアドリフトは、日本の経営学者、金井壽宏氏が提唱した理論になります。

キャリアドリフトについては、別の記事でも詳しく取り上げていますのでよろしければお読みください。

キャリアデザインとキャリアドリフト、両方兼ね備えることが理想

キャリアドリフトを提唱した金井壽宏氏によると、キャリアデザインとキャリアドリフトは、その両方を備えていることが望ましいとされています。

そもそも自分のキャリアを完全にデザインできるほど人は合理的ではありません。自分には合わないと思っていた仕事でも、職場の異動命令で経験してみると案外楽しかったり、将来の貴重な資源になる場合も当然あるのです。

また、流れに身を任せるなかで将来の貴重な資源となるスキルや経験を獲得していくためには、その前提として、ある程度自分で描いたキャリアデザインがないといけません。

キャリアアンカーとは?

次に、キャリア形成を考えるときに必要な、キャリアアンカーという考え方について確認したいと思います。

キャリアアンカーとは、自分のキャリアを形成するうえで譲ることのできない、指針や目標、価値観のことを言います。

キャリアアンカーは、アメリカの心理学者、エドガー・シャインが提唱した理論になります。

キャリアアンカーの8種類のタイプ

キャリアアンカーには、以下の8種類のタイプがあります。

  • 技術的・専門的能力志向
  • 経営管理能力志向
  • 自主性・独立性志向
  • 保障・安全性志向
  • 起業家的創造性志向
  • 他者・社会への貢献志向
  • チャレンジ志向
  • ライフスタイル志向

用意された40項目の質問票に回答することで、タイプの診断をすることができるものです。以下の「キャリアアンカーチェックシート」をダウンロードしてお試しいただくことができます。

①技術的・専門的能力志向

ある特定の仕事のエキスパートであるときに満足感を覚えるタイプです。

このタイプは、自身のスキルを高めて特定分野におけるエキスパートになることを目指します。自身の専門知識やスキルが高く評価されることが仕事の満足感につながります。

(例)医師、研究者、技術者、デザイナーなど

②経営管理能力志向

組織内の統率や権限の行使に幸せを感じるタイプです。

このタイプは、組織における複数部門のマネジメントやプロジェクトの遂行に自信を持ち、管理者として組織の成功に貢献することを目指します。自身のリーダーシップのもと戦略的な意思決定を行い、組織の方向性を決め成果を上げることが仕事の満足感につながります。

(例)組織の経営者、事業部長、管理職など

③自主性・独立性志向

自分のペースと裁量で仕事を自由に進めたいタイプです。

このタイプは、組織における細かい指示や管理を受けるより自由裁量が与えられることで仕事の成果を発揮します。

(例)コンサルタント、フリーランスなど

④保障・安全性志向

安全で安定したキャリア構築を目指すタイプです。

このタイプは、なるべくリスクを避け、長期間安心して働ける職場環境を志向します。仕事内容そのものよりも、事業の安定性や福利厚生、定年までの安定した雇用環境を重視します。

(例)大企業の総合職、公務員など

⑤起業家的創造性志向

リスクを恐れず、自分の努力による達成を目指すタイプです。

このタイプは、自分のアイデアで事業を実現するために自立を求め、独立を目指します。既存の枠にとらわれない新規ビジネスの立ち上げや、新しいサービスの開発などに満足感を得ます。

(例)起業家、クリエイティブディレクターなど

⑥他者・社会への貢献志向

自分にとっての中心的価値のためなら他のすべてを捨てることができるタイプです。

このタイプは、仕事を通じて他者を支援することや、社会的な貢献を果たすことで満足感を得ます。自分の利益よりも社会全体に対する貢献を優先し、他者の生活を向上させることを目指します。

(例)ソーシャルワーカー、カウンセラー、介護士、NPO職員など

⑦チャレンジ志向

人との競争、目新しさ、変化、困難さを好むタイプです。

このタイプは、難易度の高い目標を達成することに仕事の満足を求めます。単調なルーティンワークには興味を示さず、常に変化や新しい挑戦、難しい課題を求めます。

(例)プロジェクトマネージャー、リスクアナリストなど

⑧ライフスタイル志向

仕事と家庭のバランスを優先するタイプです。

このタイプは、仕事で残業や精神的ストレスを抱えてまでキャリアの成功を望みません。それよりも自身の生活の質を高め、プライベートを楽しむことを重視します。

(例)パートタイム労働者、契約社員、フリーランス、リモートワークなど

キャリアアンカーを自覚することから始まる

前述したとおり、キャリアデザインとキャリアドリフトの関係性は、その両方を兼ね備えていることが望ましいとされています。

そして、それらは、キャリアアンカーを自覚することから始まると言われています。

若いうちから自分のキャリア形成を具体的に意識し、自分でキャリア形成を行うためには、その前提として、キャリアアンカーの考え方で自身の職業観を深堀りし、自己分析を行うことが重要です。

前掲した「キャリアアンカーチェックシート」を使うことで自身のタイプが判定できます。自身のキャリアに関する内省を深めるためにも、是非ご利用ください。

キャリアアンカーを活用する際のポイントとは

それでは最後に、キャリアアンカーを活用する場合の注意点について確認したいと思います。

キャリアアンカーの考え方を用いる際には、以下5つの注意点を認識したうえで活用するようにしてください。

キャリアアンカー活用上のポイント

①職種を限定するものではない
②あくまでも内省する際の手がかり
③ある程度の職務経験が必要
④若いうちから自覚していくことは有益
⑤就業先との共有も大事

以下、簡単に補足をしていきます。

①職種を限定するものではない

キャリアアンカーの診断は、職種を限定するものではありません

キャリアアンカー8タイプそれぞれの向いている職種を前掲しましたが、あくまでも参考例としてご覧ください。

②あくまでも内省する際の手がかり

キャリアアンカーは、あくまでも、自分の仕事上の強みや適正、価値観について内省する際の手がかりとして活用するようにしてください。

③ある程度の職務経験が必要

キャリアアンカーが明確になっていくのは、ある程度の職務経験が必要と言われています。

「キャリアアンカーチェックシート」を見てもわかるとおり、社会人としての職務経験がないうちは用意された40項目の質問票に回答するのが難しいと感じるかも知れません。

④若いうちから自覚していくことは有益

上記のとおりキャリアアンカーが明確になるには、ある程度の職務経験が必要とされています。

しかし、人手不足や日本の旧来の雇用慣行が続くなかで有意義なキャリア形成をしていくためには、上司や先輩、同僚などとの対話をとおして、若いうちからキャリアアンカーを自覚していくことは有益であると考えます。

⑤就業先との共有も大事

就業先にも自身のキャリアアンカーを提示して、仕事に対する価値観の共有を図ることも大事なことだと考えます。

個人と就業先の両者が、個人のキャリアの志向について共通認識ができれば、組織における人材育成が効果的に行われることが期待できます。

まとめ

キャリア形成を考える際には、若いうちからキャリアアンカーについて自分で深く考えたうえで、自分に最適となるキャリアデザインを描き、それと併せて有意義なキャリアドリフトを兼ね備えていくことが大事です。

それには、就業先にも、自分のキャリアアンカーを共有することが大事になりそうです。

そして、個々のモチベーションが向上すれば、組織の生産性向上や組織力の強化につながることにもなります。

今回の記事が、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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