医師事務作業補助者とは、医師をサポートして地域医療に貢献する人材

2020年から始まったコロナ禍では、エッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちに注目が集まりました。

なかでも、感染拡大の最前線に立って、感染者の治療にあたった医療従事者に称賛の声が集まりました。

そんな光景を目の当たりにして、自分も医療の現場で人の役に立てる仕事をしたいと思った人も少なくないと思います。

病院では、様々な職種のスタッフが協働しながら患者の治療にあたっています。

病院のスタッフと言われて思い浮かべるのは、医師や看護師などの国家資格を持つ専門職や、受付や会計を担当する事務スタッフかも知れません。

ただ、近年、多くの医療スタッフがいるなか、病院で貴重な存在と認められているのが、医師事務作業補助者」です。

現状はというと、この医師事務作業補助者という職種が、それほど世間に認知されていないというのが残念に思います。

今回は、医師事務作業補助者の仕事内容や役割、医師事務作業補助者になるメリットなどについて紹介したいと思います。

目次

医師事務作業補助者とは?注目が集まる背景を確認

医師事務作業補助者とは、簡単に説明すると、医師が行う事務周りの仕事を行う「医師のサポート役」と言えます。

この医師事務作業補助者が生まれた背景には、医師の長時間労働があります。

医師の長時間労働と働き方改革

社会全体で働き方改革が進むなか、医師の長時間労働も問題視されており、他の職種から5年遅れとなる2024年4月から医師の働き方改革が本格運用されました。

元々医師事務作業補助者は、2008年の診療報酬改定で「医師事務作業補助体制加算」が新設されたことに伴い、各病院が事務の専門的な職種として配置することで、医師の生産性向上を図ってきました。

医師事務作業補助体制加算の拡充

2008年に医師事務作業補助体制加算が新設されてから、2年に1回の診療報酬改定を重ねるごとに、医師事務作業補助者の配置に対する点数はますます拡充されています。

直近の2024年の改定でも、点数の引き上げが継続されるとともに、点数が高く設定されている「加算1」の要件には、医師事務作業補助者の勤務状況の確認や、業務内容の評価に関して追加されるなど、院内における確固たる職種としての位置付けが進んでいます

医師事務作業補助者の将来性

2024年の診療報酬改定でもポイントのひとつに挙げられているのが、人材確保や働き方改革の推進です。医療従事者の人手不足、とりわけ医師不足や医師の働き方改革は社会問題と言えますので、今後も医師事務作業補助者にかかる期待は大きくなると考えられます。

医師事務作業補助者は、医師の事務周りの仕事をサポートすることで社会問題を解決し得る重要な人材として、今後も病院から求められ続ける将来性の高い職種だと言えます。

医師事務作業補助者の仕事内容と病院内での役割

医師事務作業補助者は、病院で一体どんな仕事をしているのでしょうか。

ここでは、医師事務作業補助者の主な仕事内容や病院における役割に関してみていきたいと思います。

医師事務作業補助者の仕事内容とは?

医師事務作業補助者の仕事内容は施設基準で示されており、医師の指示の下に行う以下の内容となります。

医師事務作業補助者の仕事内容

①診断書等の文書作成補助

②診療記録への代行入力

③医療の質の向上に資する事務作業
(診療に関するデータ整理、院内がん登録等の統計・調査、教育や研修・カンファレンスのための準備作業等)

④入院時の案内等の病棟における患者対応業務及び行政上の業務
(救急医療情報システムへの入力、感染症サーベイランス事業に係る入力等)

医師事務作業補助者とは | 日本医師事務作業補助者協会 (ishijimu.org)

日本医師事務作業補助者協会ホームページより引用

医師事務作業補助者と医療事務との違い

医師事務作業補助者は、病院における事務系職種に分類されますが、病院事務職にも色々役割があります。

病院事務職で思いつくのは、医療事務だと思います。医療事務は、日々の受付や会計、毎月初めのレセプト請求業務などを行います。一般に、病院や地域のクリニックにかかる際に、診察受付や外来、病棟の窓口で患者対応をするのが医療事務のスタッフです。

それに対し、医師事務作業補助者は、外来診察室や病棟内で医師の指示のもとに電子カルテへ代行入力したり、事務室内で診断書の作成やデータ整理などを行っています。

入院案内など一部患者対応の業務がありますが、医療事務と比較すると患者対応の仕事は少なく、医師や関係職種と連携して行うPCでの事務作業が多いと言えます

また別に、診療情報管理士という職種もあります。診療情報管理士は、医療事務や医師事務作業補助者とは異なり、患者と接する機会が少ない職種となります。一般的にイメージするのが難しいですが、事務職の中では診療行為にも精通した医療職により近い診療情報の専門家と言えるでしょう。

なお、診療情報管理士に関しては別の記事で詳しく説明していますので、よろしければお読みください。

医師事務作業補助者に資格は必要?

ところで、医師事務作業補助者には資格が必要なのでしょうか。

結論として、医師事務作業補助者として病院で働くにあたっては、特別な資格は必要ありません。

ただ、入職後6ヶ月の期間を設けて行う実務研修や、座学による32時間の基礎的研修(下記参照)を行うことが、配置する病院側に求められています

これにより、未経験者でも勉強しながら仕事を覚えていくことができる環境が準備されていると言えます。

オンライン研修会 研修項目(32時間分)時 間
1.医師事務作業補助者のあり方と接遇・個人情報の保護3時間
2.診療支援業務と配置部署における診療の流れ4時間
3.医療情報システムと電子カルテ(診療録の記載・管理・がん登録含む)3時間
4.保険診療概要4時間
5.医師法、医療法、健康保険法等の関連法規の概要2時間
6.医学一般と感染対策5時間
7.医療安全2時間
8.薬剤の基礎知識(処方せんの知識)2時間
9.検査一般の知識2時間
10.診断書・証明書等の実務5時間
合計32時間
医師事務作業補助者・32時間研修内容

引用:日本病院会 医師事務作業補助者コースWEBサイト (hospital.or.jp)

資格は不要と言いましたが、いくつか民間団体が主催している資格試験がありますので、就職前の勉強や病院就職後にスキルアップ図るにはいい機会になるかも知れません。参考として、以下のとおり紹介します。

  • 医師事務作業補助技能認定試験(ドクターズクラーク)
  • 医師事務作業補助者検定試験(ドクターズオフィスワークアシスト)
  • 医師事務作業補助者実務能力認定試験

➊医師事務作業補助技能認定試験(ドクターズクラーク)

医師事務作業補助技能認定試験は、一般財団法人日本医療教育財団が公益社団法人全日本病院協会と共催して実施している認定試験です。

この試験に合格することで、「ドクターズクラーク」という称号が付与されます。

➊医師事務作業補助技能認定試験(ドクターズクラーク)

主催団体:一般財団法人日本医療教育財団・公益社団法人全日本病院協会
試験日程:毎月実施
試験方法:IBT方式(自宅・学校等)
試験内容:【学科】穴埋め、選択式(医療関連法規等)【実技】・穴埋め、選択式(医療文書作成等)

参考:医師事務作業補助技能認定試験(ドクターズクラーク®)|資格試験/技能認定|日本医療教育財団 (jme.or.jp)

➋医師事務作業補助者検定試験(ドクターズオフィスワークアシスト)

医師事務作業補助者検定試験は、技能認定振興協会(JSMA)が実施している検定試験です。

この試験に合格することで、「ドクターズオフィスワークアシスト」という称号が付与されます。

➋医師事務作業補助者検定試験(ドクターズオフィスワークアシスト)

主催団体:技能認定振興協会(JSMA)
試験日程:奇数月の第4土曜日翌日(日曜日)
試験方法:在宅受験
試験内容:【学科】択一式(医療関連法規等)【実技】択一式・文書作成4問(診断書作成等)

参考:医師事務作業補助者(ドクターズオフィスワークアシスト)検定試験 | JSMA 技能認定振興協会 (ginou.co.jp)

➌医師事務作業補助者実務能力認定試験

医師事務作業補助者実務能力認定試験は、全国医療福祉教育協会が実施している認定試験です。

➌医師事務作業補助者実務能力認定試験

主催団体:全国医療福祉教育協会
試験日程:年3回(3月・6月・10月)
試験方法:在宅受験・団体受験
試験内容:【学科】択一式(医療関連法規等)【実技】文書作成3問(診断書作成等)

参考:医師事務作業補助者実務能力認定試験|全国医療福祉教育協会 (iryou-shikaku.jp)

最大の役割は医師の負担軽減

医師事務作業補助者の最大の役割は、病院に勤務する医師の事務作業をサポートすることで、医師の負担を軽減することにあります

その分、医師は患者の治療に専念することができ、医療の質の向上に貢献できます。

医師事務作業補助者は、医師にも患者にも喜ばれる存在と言えるでしょう。

93.8%の施設が「メリットだと思っている」

NPO法⼈ ⽇本医師事務作業補助者協会が、2023年9~10月に行った医師事務作業補助者実態調査報告(速報版)によると、

医師事務作業補助者の配置による医師の事務負担軽減について、93.8%の施設が「メリットだと思っている」と回答しています。

協会HP掲載用_速報版20231110 (ishijimu.org)

日本医師事務作業補助者協会ホームページより引用

医師事務作業補助者の求人状況

ここでは、医師事務作業補助者の求人状況についてみていきたいと思います。

医師事務作業補助者の求人は?

働き方改革の対応もある中で、各病院とも医師事務作業補助者の拡充に力を入れています。

ハローワークのインターネット検索で都内の求人状況を確認すると、大学病院から中小規模病院まで、複数の求人情報が見受けられる状況です。

実際、筆者は地方の中小規模病院で採用担当をしていましたが、求人をかけても医師事務作業補助者はなかなか集まりませんでした。

医師の働き方改革始動までに、何とか定員確保できましたが、特に地方の病院ほど、採用したいが人が集まらない、病院間での取り合いの様相を呈しているように思います。

医師事務作業補助者の給料は?

それでは、医師事務作業補助者の給料事情はどうなっているのでしょうか。

大手求人サイトのindeedによると、医師事務作業補助者の平均給与は以下のとおり紹介されています。前掲した医療事務と比較して表にまとめましたので紹介します。

医師事務作業補助者医療事務
年収3,663,790円2,667,527円
月給259,403円188,865円
時給1,284円1,273円
医師事務作業補助者と医療事務の給与比較
※indeed社ホームページ「給与調査」を参考に筆者作成

上記は求人サイトに掲載された平均給与額になりますので、あくまでも参考程度にご覧ください。

これから新卒もしくは未経験で医師事務作業補助者として就業する場合は、上記より低めの給与設定になると思います。ハローワークインターネットサービスの求人情報を雑観すると、短大卒で15万円~17万円の基本給設定が相場のようです。

人材難の理由はそもそも世間に認知されてないからか?

そもそも医師事務作業補助者という職種が、世間に認知されていないのが、人材難の要因になっているのかも知れません。

医師事務作業補助者が集まらず困っている病院は、ハローワークや広告媒体に求人を載せるのと併せて、地道に口コミで、職員の家族や知人に広く声掛けしていくのがいいと思います。

医師事務作業補助者になるメリット3つ

医師事務作業補助者には、今後の医療機関にとって欠かせない、職種としての魅力があります。

ここでは、元採用担当者として感じる、医師事務作業補助者になるメリットについてみていきたいと思います。

①医療に貢献でき、働きがいを感じる

医師をサポートする業務は社会貢献につながります。スタッフや患者から感謝され、働きがいを感じることができます。

②責任ある仕事をとおして成長できる

医師や医療スタッフの近くで責任ある仕事を行います。その経験が自身に成長をもたらし、自己効力感につながります。

③スキルや経験を長く活かせる

医師事務作業補助者の拡充は社会の要請です。需要が高まっている職種のため、スキルや経験を身に着ければ、自身のライフステージに合わせて、長く活用して働くことができます。

医師事務作業補助者に向いているタイプ3つ

ここでは、元採用担当者として感じる、医師事務作業補助者に向いているタイプについてみていきたいと思います。

①コミュニケーション能力がある人

医師とのやり取りで業務を進めていくことが多くなります。他の医療者や事務スタッフとの連携も必要なため、コミュニケーション能力に自信がある人や、今後それを伸ばしていきたい人に向いています。

②責任感があり正確に作業できる人

医師のサポート役ですので、患者の命にもかかわる大事な仕事をサポートすることになります。それゆえ、正確さが求められる仕事ですので、責任感を持って正確に仕事を進められる人に向いています。

③自ら学べる成長意欲が高い人

難解な医療用語をカルテから読み取ったり、転帰する仕事があります。現場で実務を学びつつ、医療に関する基礎知識などは、自ら学習して実務に活かせる成長意欲が高い人に向いています。

医師事務作業補助者の充実が地域医療の充実につながる

病院は、医師事務作業補助者を多く配置し、医師からのタスクシフトを進めて、医師の働き方改革の実現を目指しています

働き方改革が実現し、医師のワークライフバランスが向上すれば、病院における医療の質の向上につながります。

それを考えると、医師事務作業補助者を配置する病院が増えることは、地域医療の充実を意味すると言ってもいいかも知れません。

まとめ

2024年に本格稼働した医師の働き方改革により、医師事務作業補助者の活用方法について、各病院の学びが進んでいると思われます。

これからその学びがさらに進んでいくことで、医師事務作業補助者への期待もますます高まっていくことでしょう。

今回の記事が、少しでも医師事務作業補助者の仕事への関心につながれば幸いです。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、日本FP協会AFP認定者。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
医療機関に役立ちそうな情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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